ツンツンしている子に、悪い子はいない。――4
広場まで来ても、いまだにフローラはご機嫌斜めだった。
チラリと窺うと、ぷいっとそっぽを向く。
やっぱり俺、こいつが苦手だ。
街案内を請け負ったことを後悔しはじめていると、フローラがある一点を凝視しているのに気づいた。
フローラの視線の先には、ジェラートの出店がある。
「ふむ」と俺は顎に指を当て、店員に声をかけた。
「すみません、ジェラートふたつ」
「ちょっ、な、なに勝手に注文してるのよ?」
「いや、食べたそうにしてたから」
「たっ――」
言いかけて、フローラが店員を見やり、口をつぐむ。
「食べたそうになんかしてないわよ!」とでも言いたかったのだろうか? 店員の前ということで自制したのだろう。
めんどくさいが、傍若無人ってわけではないようだ。
「よくわからんが、さっき不愉快な思いをさせたようだしな。奢るから食ってくれ」
「い、いいわよ。あんたに貸しを作りたくないし」
「じゃあ、ふたつとも俺が食っちまうぞ?」
「うっ……し、仕方ないわね。食べてあげるわ」
素直じゃないやつ、と思ったが、これ以上機嫌を損ねられたら困るから、口には出さない。
「何味がいいんだ?」
「……チョコミント」
ボソリと答えるフローラ。やっぱり食べたかったらしい。
苦笑しつつ店員に注文し、ジェラートを受け取る。
フローラに手渡すと、小さな小さな声で「……ありがとう」と礼を言ってきた。性格に難はあるが、悪いやつではないらしい。
フローラが、チョコチップが混じったミントアイスをすくい、口に運ぶ。
目を丸くして、「んーっ♪」と頬を緩める。お気に召したようだ。
俺も、シンプルなミルクジェラートを口にした。
濃厚なミルクの味が口に広がり、風味が鼻から抜けていく。しかし、後味はさっぱりとしていて、いくらでも食べられそうだ。
これは『当たり』だな。常連になってしまいそうだ。
ジェラートの美味さに唸っていると、
「あ、あーん」
「は?」
真っ赤な顔で、フローラがスプーンを差し出してきた。
突拍子もない行動に、俺は呆気にとられてしまう。
「は、早く口を開けなさい。溶けちゃうでしょ」
「え? いや、なにしてんの?」
「おおおお裾分けよ! 言ったでしょ!? あんたに貸しを作りたくないって!」
「俺は貸しなんて思ってねぇよ!?」
「あたしが思うのよ! いいから食べなさい!」
フローラがズイッとスプーンを近づけてきて、俺は反射的に咥えた。
爽やかなミントの風味と、チョコの甘さ。
美味しいは美味しいが、いまはジェラートの味に集中できなかった。
当然だろう。完全なる間接キスなのだから。
「おおお美味しい?」
「あ、ああ、美味い」
「そ、それはよかったわ」
頬を火照らせる俺と、リンゴみたいな顔色のフローラ。
緊張のあまり硬直して、俺はフローラから視線を外せない。
しばらく見つめていると、フローラが目を泳がせ、プルプルと体を震えさせて、
「はむぅっ!」
いきなりジェラートをかきこみだした。
「ま、待て、フローラ! かきこむな!」
「ななななに指図してるのよ! このジェラートが美味しすぎるんだから別にいいじゃない! け、決して照れ隠しなんかじゃないんだから!」
「照れ隠しかどうかは別にいいが、そんな勢いでかきこむと――」
「あうっ!?」
フローラがビクッ! と跳ねて、頭を押さえる。
冷たいジェラートを一気に口にしたのだから、頭が痛くなるのは当然の生理現象だ。
「あぅ~……っ」と呻くフローラを見て、俺はつい、「ぷっ」と吹き出してしまう。
フローラが涙目で俺を睨んだ。
「な、なに笑ってるのよ」
「いや、可愛いと思ってな」
「かかか可愛い!? バ、バカなこと言ってるんじゃ――あうっ!?」
唇をわぐわぐさせていたフローラが、再び頭を押さえる。
フローラへの苦手意識が薄れていく気がした。




