ツンツンしている子に、悪い子はいない。――3
翌日。
約束の時間より30分早く、俺は寮の前に向かった。遅れてフローラに文句を言われては敵わないからだ。
しかし、そこにはすでにフローラがいた。
俺の姿を確かめたフローラが、眉をつり上げる。
「いつまで待たせるつもりよ」
「まだ約束の30分前だろ」
「こっちは1時間前から待っていたのよ? 女の子を待たせるなんて、男の風上にも置けないわね」
「いや、早すぎねえ?」
理不尽すぎるフローラの物言いに、俺はげんなりする。
「そんな早くから待ってたなんて、お前、よほど楽しみにしてたんだな」
「た、楽しみになんかしてないわ! 適当なこと言わないでくれる!?」
「けど、昨日俺が街案内するって言ったとき、メチャクチャ嬉しそうにしてただろ?」
「してない! 妄想も大概にして!」
妄想じゃなくて事実なんだがなあ……やっぱりこいつ、めんどくさい。
溜息をつき、俺は頭を切り替えた。
「じゃあ、行くか」
「待ちなさい」
街案内をはじめようとした俺を、フローラが引き留める。
なにかと思って振り返ると、フローラがモジモジとサイドテールの先を弄りながら、尋ねてきた。
「な、なにか言うことがあるんじゃない?」
「要領を得ねぇなあ」
わけがわからない質問に半眼になると、フローラは唇を尖らせて、スカートをつまんでヒラヒラさせる。
今日のフローラの格好は、青いワンピースにベージュのベルト、ブラウンの編み上げブーツだ。
「ほ、ほら」
「ほらと言われても……」
「気が利かない男ね。その……に、似合ってるとか……」
「スマン、後ろのほうが聞こえなかったんだが」
「と、とにかく、どうなのよ!?」
ホント、こいつなにを訊きたいんだ? まったくわからんが、スカートを見せびらかしてるっぽいし、服装についての話なのか?
俺は頬をポリポリと掻き、口を開いた。
「気合が入ってるな?」
「ききき気合なんて入れてないわよ! なんであんたとデー……観光するのに気合入れなくちゃいけないの!?」
「けど、必要以上にオシャレしてないか?」
「ううぅ~……っ! も、もういいわ! 早く行くわよ!」
頬をむくれさせて、フローラがズンズンと歩きはじめる。
「なんで逆ギレされないといけないんだよ……」
俺は深々と溜息をつきつつ、フローラのあとを追った。
もったいねぇなあ……黙ってたら、非の打ち所がないほど可愛いのに。




