ツンツンしている子に、悪い子はいない。――2
夕方、寮の自室。
じゃれあう従魔たちを眺めて癒やされていると、ドアをノックする音が聞こえた。
誰が来たのかとドアを開けると、
「遅い! さっさと開けなさい!」
偉そうにふんぞり返ったフローラが、開口一番文句をつけてきた。
「……なんでここにいるんだよ」
「あたしがどこにいても勝手でしょ?」
「いや、ここ、男子寮だぞ? 女の子がひとりで来るような場所じゃないだろ」
廊下の奥に目をやれば、こちらをチラチラと窺う男子生徒たちの姿がある。
性格には難があるが、フローラは文句のつけようがない美少女だ。そんな美少女が突然現れれば、興味も引かれるだろう。
げんなりしつつ指摘すると、フローラが唇を尖らせた。
「なんでその程度の問題であたしが遠慮しないといけないのよ。あたしは……その、あんたの、い、許嫁なんだから」
強気だったフローラが、一転、ふいっと視線を逸らす。その頬は朱に染まっていた。
いきなりそんな恥ずかしそうな顔するなよ、ちょっとドキッとしたじゃねぇか。
あと、ここで『許嫁』とか口にするのやめてもらえませんかね? 見物していた男子たちがざわついてるから。なかには憎悪のこもった目で俺を睨んでるやつもいるし。
俺は内心で溜息をつく。
苦手なんだよなあ、フローラ。
ゲームでのフローラ・ネイブルは、やたら主人公に絡んでは、難癖をつけたり難題をふっかけたりしていた。
攻略Wikiには「ツンツンフローラたん萌えー」とか言うやつもいたが、どうにも俺には苦手意識がある。
しかめ面になりそうなのを堪えて、俺はフローラに尋ねる。
「それで、なんの用があって来たんだ?」
「明日、あたしにセントリアを案内しなさい」
命令口調でフローラが答えた。
「ウェルト空間の探索まで時間があるでしょ? そのあいだヒマだから、この街を観光したいのよ」
「なんで俺に頼むんだよ。観光したいならひとりで行けよ」
「あたしはセントリアに来たばかりで、どこになにがあるのかもわからないのよ。それくらい察しなさい」
「それとも……」と、フローラが少しだけ不安そうな顔でうつむいた。
「あたしと街を巡るのは、イヤ?」
そんな顔されたら、気まずいだろ……。
俺は頬を掻き、溜息をつく。
「わかったよ、街案内する。明日は時間があることだしな」
「ホント!?」
バッと顔を上げ、キラキラした瞳をするフローラは、満面の笑みを咲かせていた。
こいつ、こんな嬉しそうな顔するんだな。
俺がまじまじと眺めていると、ハッとしたフローラが、コホン、とわざとらしく咳払いする。
「じゃ、じゃあ、明日の10時に寮の前に来るから。遅れたらただじゃおかないからね!」
ズビシッ! と俺に指を突きつけて、フローラが去っていく。
まるで嵐が訪れたようだった。




