自主的な努力こそが、成長の鍵。――2
「……え?」
「どうして? ロッド」
レイシーが呆然とした顔をして、ケイトが唇を尖らせる。
「ウェルト空間は、50レベル以上の従魔での挑戦が推奨されているダンジョンだ。ふたりの従魔はレベルが低すぎる」
現時点での、俺たちの従魔のレベルは、このようになっている。
・俺
クロ:111レベル
ユー:109レベル
マル:106レベル
・エリーゼ先輩
ゲオルギウス:115レベル
ファブニル:122レベル
・ミスティ先輩
チェシャ:108レベル
ティア:114レベル
ティターン:125レベル
・レイシー
リーリー:56レベル
ピート:32レベル
・ケイト
ガーガー:35レベル
ケロ:30レベル
1年生だから当然だが、レイシーの従魔もケイトの従魔も、ウェルト空間に挑めるレベルじゃない。
一応、『フェアリーアーチン』のリーリーは50レベルを超えているが、支援特化である以上、主戦力である、『ヒートハウンド』のピートが低レベルでは、万全な活躍はできないだろう。
「レイシーとケイトに、ウェルト空間の探索は不可能だ」
あえて厳しい口調で宣告する。
「「う……」」と、レイシーとケイトがうつむいた。
ふたりは悔しげに唇を噛み、握った拳を震えさせ、
「……なら、強くなります」
レイシーが顔を上げる。
「ウェルト空間の探索までに、挑戦可能なレベルにしてみせます」
エメラルドの瞳には、静かな闘志が灯っていた。
レイシーの目を真っ直ぐ見つめ、俺は指摘する。
「ウェルト空間の探索まで2週間もないんだぞ? 50レベル以上にするなんて不可能だ」
「やってみないとわかりません。授業がある日は、放課後から眠るまで。休日は、朝から晩までレベル上げをすれば、間に合うかもしれません」
「無茶にもほどがある」
「構いません」
レイシーの瞳は揺るがなかった。
「あたしもレベル上げする! ただ待っているだけなんて、耐えられないよ!」
レイシーに触発されたのか、ケイトも勢いよく顔を上げる。ケイトにしては珍しく、真剣そのものな表情だった。
俺は、「……そうか」と静かにまぶたを閉じ――
「よし! ふたりとも合格だ!」
ニカッと満面の笑みで告げる。
「「……ふぇ?」」
レイシーとケイトがポカンとした。
「ウェルト空間の探索は、遊び半分じゃできないからな。悪いが、ふたりを試させてもらった」
レベルが低いと指摘されて諦める程度なら、ウェルト空間で戦力になることなんて、とてもじゃないけどできない。
だから、俺はあえて突き放したんだ。ふたりが、ウェルト空間に挑むだけの覚悟を持っているか、たしかめるために。
「ふたりの覚悟はわかった。レベルに関しては心配しなくてもいいぞ? 超効率的なレベリング法を知っているからな。2週間あれば、50レベルは超えられる」
呆気にとられていたレイシーとケイトが、プクゥ、と頬を膨らませた。
「ロ、ロッドくん、意地悪です!」
「そんなレベリング法があるなら、はじめから教えてくれればいいのに!」
ふたりに詰め寄られ、「悪い悪い」と俺は両手を挙げる。
「けど、やる気があるみたいでよかった。できることなら、ふたりにはついてきてほしかったからな」
苦笑しつつ、俺は続けた。
「ふたりとも俺を信頼してくれている。パーティーを組むなら、レイシーとケイトは是非ともほしかった。ほかの誰よりも、な」
ウェルト空間の攻略は、俺を中心に行うことになるだろう。当然ながら、ゲーム知識を惜しげもなく駆使するつもりだ。
しかし、ゲーム知識を駆使する俺は、この世界の住人から見たら異端すぎる。
もし、レイシー、ケイト、エリーゼ先輩、ミスティ先輩以外の人物がパーティーに加わったら、俺の博識ぶりを疑問視する可能性がある。どうして、ここまでウェルト空間に詳しいのか、怪しむ者もいるかもしれない。
その点、この4人は、俺のことを絶対的に信頼してくれているから、安心してゲーム知識を駆使できる。
パーティーを組むならば、この4人が最適なんだ。
俺がそう考えていると、レイシーとケイトが赤面した。
「わ、わたしたちが、ほかの誰よりもほしいだなんて……」
「こ、これがロッドの不意打ちか……不覚にもキュンとしちゃったよ」
レイシーが頬をゆるゆるにして、ケイトが胸元を押さえて苦笑いしている。
「「むぅ……」」
そんなふたりを眺めながら、エリーゼ先輩とミスティ先輩が唇を尖らせていた。
なんだ、みんなの反応? 俺、なんか変なこと言った?




