相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――6
戦闘開始から約20分。
「いやぁ、参った参った」
カーマー先輩がぼやく。
「ちょーっとこれ、シャレにならないんじゃない?」
『WRRYYYY……!』
イービルヴァルキリーが両腕をクロスさせ、その腕から黒い陽炎が溢れ出す。
「来るぞ、ダーククレセントだ!」
「狙いはゲオルギウスさんです! サミュエルさん、お願いします!」
「わかってるよ、ミスティ! ファルコ、『ミスチーフ』!」
『クワァ!』
カーマー先輩が指示を出した。
雄々しい鳴き声で応じたのは、上空を舞う鳥型モンスター。藍色の羽毛と、6メートルはあろうかという翼開長を持つ、巨大な猛禽だ。
ストームファルコン:103レベル
カーマー先輩の従魔、ストームファルコンのファルコは、アーディーくんが『贈魔の儀』で授かった、スカイホークの第2進化体だ。
AGI、DEXが高いが、VIT、MNDがとても低い。
防御性能は心許ないが、『直接攻撃を受けない』強力な固有アビリティ『飛翔』を保有している。
そして、カーマー先輩の指示したミスチーフは、対タイラントドラゴン戦で、レイシーのリーリーが用いた、『味方2体を対象とし、そのヘイト値を入れ替える』魔法スキルだ。
今回は、ゲオルギウスのヘイト値を、自身のヘイト値と入れ替えるために用いる。
チャージタイムが5秒あるダーククレセントより先に、チャージタイム3秒のミスチーフが発動した。
『クワァ!』
ゲオルギウスの体から黒い粒子が湧き出して、ファルコに吸い込まれる。
ヘイト値の入れ替えにより、イービルヴァルキリーの視線が、ゲオルギウスからファルコに移動した。
『WRRYYYYYY!』
発動するダーククレセント。
イービルヴァルキリーが両腕を振り抜き、黒い三日月が放たれた。
「避けてくれ、ファルコ!」
『クワァ……ッ!!』
祈るようなカーマー先輩の声。
カーマー先輩に応えるため、ファルコは迫りくる黒い三日月から必死で逃れようと、高速で飛ぶ。
黒い三日月が追いかけるように弧を描き――ファルコの右翼スレスレを掠め、上空で爆発した。
ファルコは、『AGIを30%上昇させる』物理スキル『アクセル』を重ね掛けしていたが、回避はギリギリだった。
『WRRYYYY……』
イービルヴァルキリーが忌ま忌ましげに顔を歪める。
「いまだ! 一斉攻撃!」
グラント先輩が声を張り上げた。
『OOOOOOOOOOHHHH!』
『ゴオォッ!』
『クワァッ!』
(コクリ)
『GOOOOOOOOHH!』
ティターンがアイスシェルを撃ち出す。
ガンドがフレイムキャノンを放つ。
ファルコが、『50%の確率でAGIが10%上昇する』追加効果を持つ直接攻撃スキル『ソニックチャージ』で突進する。
ゲオルギウスがフォトンレイを射出する。
ファブニルがバレットタックルで砲弾と化す。
氷の砲弾が、火炎弾が、光線が、ファルコとファブニルの突進が、イービルヴァルキリーに叩き込まれた。
連鎖する衝撃音。
圧倒的な総攻撃。
それでもイービルヴァルキリーのHPバーは、1/10も削れていない。




