相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――5
「アームストロング先輩とカーマー先輩も参加されるのですね」
「うむ。力ある者には責務が伴う。民衆を守ることは、貴族としての務めだ」
「それに、愛しいミスティに頼まれて、俺が断れるはずないだろう? エリーゼちゃんも守らないといけないしね」
「お気持ちだけ受けとらせていただきます」
「相変わらず軽薄ですね、カーマー先輩。士気が下がるので、帰ってもらっていいですか?」
「辛辣!!」
レドリアスの外にある平原に、わたしたち四天王は勢ぞろいしていた。
筋骨隆々な長身。
黒いツーブロックヘア。
焦げ茶の瞳と角張った顔をしているのは、四天王第2位の3年生、グラント・アームストロング先輩。
細身で長い手足。
水色のセミロングヘア。
緑色の瞳をしているのは、四天王第4位の3年生、サミュエル・カーマー先輩だ。
「四天王のなかでは、俺だけが予選落ちしているからね。今度こそ、ミスティとエリーゼちゃんにいいところを見せるよ」
「復活が早いですね、カーマー先輩。いま、わたしとクレイド先輩に、バッサリ斬り捨てられたのに」
「ふっ、メンタルの強さは俺の売りさ」
「打たれ強くなければ、日頃のナンパで潰れているだろう。連戦連敗だからな」
「よせよ、グラント。照れるじゃないか」
「俺は貶しているのだが?」
軽口をたたき合っているのは油断しているからじゃない。緊張をほぐすためだ。
いざ戦闘がはじまったらガチガチでは、目も当てられない。
「しかし、イービルヴァルキリーは相当強力なモンスターだそうだね。戦わないで済むのなら、それに越したことはないんだけど」
「失態ですよ、カーマー先輩。そんなのだから残念イケメンと呼ばれるんです」
「え? なんでいきなりディスられてるの?」
「ロッドくんから教えてもらったのですが――」
わたしはレドリアスの上空を見据えた。
そこに、漆黒の穴が空く。
「そのような発言は、『フラグ』と呼ぶそうです」
『WRRRRYYYYYYYY!!』
穴から現れた闇色の戦乙女が、金切り声を上げた。
イービルヴァルキリー:177レベル
イービルヴァルキリーは、タイラントドラゴンすら凌ぐ高レベルで、HPバーは5本もあった。
「やらかしたな、サミュエル」
「ちょっと待って、俺の所為!?」
「あまり責めないであげましょう、グラントさん」
「ああ……ミスティ、きみはなんて慈悲深いんだ」
「サミュエルさんがやらかされるのは、いつものことです」
「持ち上げてから叩き落とすやつでしたか!!」
「出現してしまったものは仕方ありません」
涙目になるカーマー先輩をほっといて、わたしは述べる。
「このままでは、レドリアスに深刻な被害が生じます。まずは、イービルヴァルキリーをこちらに引き寄せましょう」
「その役、俺が買ってでよう」
グラント先輩が魔石を放り投げた。
「行くぞ、ガンド」
『ゴオッ!』
現れたのは、背中を火山のように赤熱させている、2メートルもの体長をした、黒い大トカゲだ。
ヴォルカニックリザード:116レベル
アームストロング先輩の相棒、ヴォルカニックリザードのガンドは、火・土属性のモンスター。
STR、INTが高く、AGIが低い火力。
固有アビリティは、『火属性の攻撃スキルの威力が40%増加するが、火属性の攻撃スキルを用いるたび、最大HPの1/8分HPを消費する』効果を発揮する『大火力』。
首にかけている真っ赤なネックレスは、『火属性攻撃スキルの威力が20%増加する』装備品『赤熱のネックレス』だ。
「皆、覚悟はいいか?」
「いつでも構いません」
「わたくしも準備万端です」
「レディーたちに俺の勇姿を見せてあげよう」
わたしも、ミスティ先輩も、ふざけたことを口にするカーマー先輩も、一様に真剣な顔をしている。
アームストロング先輩が満足げに頷いた。
「では、はじめるぞ」
アームストロング先輩の太い指が、イービルヴァルキリーに向けられる。
「『フレイムキャノン』!」
『ゴオォ……!』
ガンドが大きく息を吸い込み、その口腔から、チラチラと火の粉が溢れ出した。火属性の魔法攻撃スキル、フレイムキャノンの準備だ。
わたしはまぶたを伏せる。
今度こそ、きみの期待に応えてみせるよ、ロッドくん。
チャージタイムの5秒が経過。
わたしが目を開けたとき、ガンドが火炎弾を発射した。
『ゴオォッ!』
ロングソードを構えるイービルヴァルキリーに、火炎弾が直撃する。
『WRRYYYY……』
イービルヴァルキリーが黒翼をはためかせ、こちらへと迫ってきた。
狂気にギラつく視線を、わたしは真っ向から受け止める。
「来い、イービルヴァルキリー! セントリア従魔士学校四天王の実力、とくと堪能するがいい!」




