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相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――3

「スペルタン帝国が、戦争に従魔を用いていたのは知っているね?」

「俺たちをジンで襲うって言いたいんだな?」

「真っ向勝負じゃ、きみには敵わないからね」

「どっちにしろ同じだ」


 アクトが眉をひそめる。


「どんな手で来ようと、お前は俺に勝てねぇよ」

「相変わらず、大層な自信だね。けど、死を前にして、いつまでその余裕を保てるかな?」


 アクトが左右非対称な、不気味な笑みを浮かべた。


「『ヴァインウィップ』!」


 攻撃スキルの指示。当然ながら、狙いは俺とレイシーだろう。


「きみなら知っていると思うけど、カモフラージュが解除されるのは、スキル発動後だ。つまりきみたちは、ジンからの『見えない攻撃』を(しの)がなければならない」


 ヴァインウィップは木属性の魔法攻撃スキル。威力は低いが、それはモンスターに対しての話だ。


 人間が受ければタダでは済まない。


「チャージタイムの3秒が、きみたちに残された時間だ。いや、もう2秒もないね」


 ひどく愉快そうに、アクトが尋ねてくる。


「どうだい、怖いだろう? ()もなくきみたちの人生は終わるんだからね!」


 俺とレイシーは、互いにただ一言。


「別に」

「ロッドくんがいてくれれば怖いものなしです!」


 アクトの顔が苛立(いらだ)たしげに歪んだ。


「なら終わらせてあげようじゃないか!!」


 チャージタイムの3秒が経過。


 いままさに、俺とレイシーを、ジンのヴァインウィップが仕留めようとしている。




 まあ、対策は万全なんだけどな。




「ガーディアンフォース!」

『キュウ!』


 マルが両腕を空に掲げ、俺とレイシー、クロ、ユー、ピートが、白い光に包まれる。


 それだけでよかった。


 ジンのヴァインウィップが振るわれたが、白い光が俺を守る。


 ヴァインウィップを使用したことで、ジンの『透明状態』が解除された。


「シャドースティッチ!」

『ピィッ!』


 即座に俺は指示を出す。


 クロのシャドースティッチにより、ジンが捕縛された。


『シュゥ!?』

「なっ!?」


 アクトとジンが目を()いた。


「レイシーから聞いたんだが、お前は決勝戦がはじまる前に、軽食を買いにいくと言って姿を消したそうだな」


 だとしたら、アクトは俺とジェイクの試合内容を知らない。


「ヴァインウィップは追加効果、先制効果のない通常攻撃だ。加えて、デイズスネークは、相手の防御を無効化するスキルを修得しない」


 以上から()(はか)るに、


「お前は、マルがガーディアンフォースを修得していることに、気付いていない――どうやら、読みは当たっていたようだな」


 ゲームでは設定のみ(スペルタン帝国が従魔を戦争に用いていたなど)で語られていたが、モンスターのスキルは人間に対しても()く。それは、ジェイクをクロのシャドースティッチで捕らえられたことで明らかだ。


 つまり、俺とレイシーも、マルのガーディアンフォースの有効対象になるということ。


 ジンの攻撃が見えなくとも、ガーディアンフォースで防いでしまえば、なんも問題もない。


「ぐぅ……っ!」


 アクトが俺たちに背を向けて逃げ出した。


「ユー」

『ムゥ!』


 逃がさない。


 俺はユーに指示し、アクトの逃げ道を塞がせる。


 決してユーのAGIは高くないが、人間よりも(はる)かに速い。


 ユーに先回りされ、アクトが「ひぃっ!」と悲鳴を上げる。


 俺は駆けだし、恐怖に顔を歪めるアクトに迫り、


「終わりだ、アクト!」

「がっ!!」


 思いっ切りぶん殴った。


「お前を止める。それが、友人としての最後の役目だ」


 白目を剥いたアクトが、地面に倒れる。


 カツン


 アクトの手からこぼれ落ちた『死大神の宝珠』が、音を立て、地面に転がった。


「警備隊を呼んできてくれ、レイシー。アクトを引き渡したら、次はイービルヴァルキリーの討伐だ」

「はい!」


 走り去っていくレイシーを見送り、俺は『死大神の宝珠』を拾い上げた。


 使用者の手を離れたことで、『死大神の宝珠』の効力は切れ、空の穴も塞がっている。


 しかし、出現したイービルヴァルキリーが消えることはない。


 ジェイクとアクトは捕らえたが、イービルヴァルキリーを倒さない限り、一件落着とは言えないんだ。


 一刻も早く、イービルヴァルキリーのもとへ向かわなくてはならない。


 俺はイービルヴァルキリーが飛んでいった方向に目を向け、呟いた。


「俺たちが到着するまで頼みます、ミスティ先輩」

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