相手の手を読み切った者が、勝負を制する。――1
「学生選手権、優勝者はロッド・マサラニアだってよ!」
「低ランクモンスターだらけで、よく優勝できたな!?」
「お前ら、いまはそんな話してる場合じゃねぇ! スペルタンがテロを働こうとしているらしいぞ!」
「「なにぃ!?」」
ロッドの優勝と、スペルタンの話題で騒々しい、レドリアスの街。
人々が騒ぎ立つなか、ひとり静かに歩く男がいた。
男は裏路地へと足を踏みいれる。
影の濃い路地裏に、ひとの姿はない。
「やっぱりジェイクが負けたか……装備をすり替えておいたが、如何せん、相手が悪すぎた。もう少し粘って、囮として役に立ってほしいところだったけど」
男の口元に、暗い笑みが浮かぶ。
男は、『不思議なバッグ』から、紫色の球体を取り出した。妖しい光を放つ、紫水晶に似た球体――『死大神の宝珠』だ。
男が、『死大神の宝珠』を空に掲げる。
「出でよ、『イービルヴァルキリー』!」
『死大神の宝珠』の輝きが増し、レドリアスの上空に、漆黒の穴が空く。
そこから、1体のモンスターが現れた。
ボロボロの戦装束。
手には、血塗れのロングソードと、漆黒の盾。
闇色の翼10枚を背に生やした、体長3メートルの女性だ。
『WRRRRYYYYYYYY!!』
イービルヴァルキリーが、奇っ怪な叫び声を上げる。
「レドリア王を殺せないのは残念だけど、レドリアスに深刻な被害はもたらせるだろう」
球体を掲げる男が、ニタリとほくそ笑んだ。
「さあ! やれ、イービルヴァルキリー!」
『WRRRRRYYYYYYYYYY!!』
男の指示に応じるように、イービルヴァルキリーがロングソードを構える。
イービルヴァルキリーがレドリアスを襲う――その寸前。
ドゴオォォォォッ!!
飛来した火炎弾が、イービルヴァルキリーの横面に炸裂した。
「なっ!?」
男が驚愕する。
『WRRYYYY……』
イービルヴァルキリーが、火炎弾が飛んできたほうを睨み、黒翼をはためかせてそちらへと向かった。
「妨害!? いったい誰が……!」
焦りを滲ませつつ、男が『死大神の宝珠』を介し、イービルヴァルキリーに呼びかける。
「待て! お前の役割は――」
「その命令はさせねぇよ」
裏路地に新たな声が生まれた。
男がバッと振り返ると、そこに男女の姿があった。
ロッドとレイシーだ。
ロッドとレイシーが、険しい眼差しを男に向ける。
「……残念だ」
ロッドが男に言った。
「お前がスペルタンの一員だったなんてな――アクト」




