悪事は怒りを買うから、結局は損。――6
「やってくれたな! だが、レイスビショップとヴァンパイアメイジは止まんねぇぞ!」
間もなくチャージタイムの5秒が経つ。ダーククレセントの発動まで、もう時間はない。
「弱点属性の攻撃スキルを2発も食らえば、ブラックスライムのHPは余裕で3/4以下になる! 役立たずにしてやるよ!」
ジェイクが嗜虐的に笑う。
ちょうどそのとき、マルのスタンボディーが発動した。
『キュウ!』
パチパチという破裂音。電光とともに、マルが『帯電状態』になる。
「『帯電状態』になったところでなにもできねぇぞ! 殺れ、レイスビショップ! ヴァンパイアメイジ!」
『AAAAAAAAHH!』
『キキキッ!』
ダーククレセント発動。
レイスビショップとヴァンパイアメイジが両腕を振り抜き、黒い陽炎が三日月となって放たれた。
黒い三日月がクロに迫る。
「こいつでブラックスライムはお仕舞いだ! デカい口叩いたわりには大したことなかったなあ!」
ジェイクがケタケタと笑う。
「だからな?」
至極冷静に、俺は指摘した。
「そこが『甘い』って言ってるんだよ」
マルに指示を出す。
「『ガーディアンフォース』!」
『キュウ!』
マルが万歳するかのように、両腕を空に伸ばした。
クロとユーの体が白い光に包まれる。
直後、2発のダーククレセントがクロに衝突した。
広場に響く衝撃音。巻き起こる土煙。
俺のメニュー画面に表示されたHPバーが、3/4を切る。
クロのHPではなく、マルのHPが。
「なあっ!?」
俺と同じく、メニュー画面のHPバーを確認したのだろう。ジェイクの愕然とした声が聞こえた。
土煙が収まるなか、現れたクロはまったくの無傷だ。
「知っているだろうが、ガーディアンフォースは味方を庇うスキルだ。クロへの攻撃を、マルに受けてもらった」
『10秒間、味方への攻撃を自分が受ける』――それが、チャージタイム0秒の魔法スキル『ガーディアンフォース』の効果だ。対タイラントドラゴン戦でゲオルギウスが用いた、『ガーディアンシップ』の亜種と言える。
そして当然ながら、2発の攻撃を受けたことで、『温厚』が2回発動。マルのVITとMNDが、約70%上昇する。
さらに、
『AAAAAAHH……!!』
スタンボディーの効果により、レイスビショップが『麻痺』状態になった。
「んなバカな……」
「なにを驚いている?」
瞠目するジェイクに、俺は眉をひそめる。
「マルのスキル構成に、なんらかの庇護スキルが含まれていることくらい、予測できただろう?」
「なん、だと?」
「ミスティ先輩と俺の試合を、お前も観戦していたはずだ。サイキックラビットが控え室で中継していたからな」
つまり、
「マルが非常に高い防御性能を持っていることや、スキル構成に、『麻痺』の誘発スキル、回復スキルが含まれていることを、お前は知っていた――マルが盾役だって、察しはついていたはずだ」
だとしたら、
「味方を庇うスキルがあってもなんらおかしくない。むしろ、スキル構成に含まれていないほうがおかしいだろう。決勝戦は、多対多なんだからな」
「ぐ……っ」
反論できず、ジェイクはただ呻く。
ジェイクの反応を見て、俺は溜息をついた。
「要するに、お前は油断していたってことだ」
俺は、ビッ、とジェイクを指差す。
「『相手を舐めきっていたこと』――それがお前の敗因だ、ジェイク」
ジェイクがギリギリと歯軋りした。
エリーゼ先輩なら、マルのガーディアンフォースに気付けただろうな。決勝で戦えなくて、心の底から残念だ。




