悪事は怒りを買うから、結局は損。――5
「さて、準備は完了だ。あとは嬲るだけだな」
ジェイクが舌舐めずりする。
「殺れ! ダーククレセント!」
『AAAAHH……!』
『キキキ……ッ』
『GOAAAAAAHH……!』
ジェイクの指示を受け、レイスビショップ、ヴァンパイアメイジ、マッディーデーモンが、揃って両腕を交差させた。
その腕から溢れ出す、黒い陽炎。闇属性の魔法攻撃スキル、ダーククレセントの構えだ。
「狙いはブラックスライムだ、そいつは時間が経つほど厄介になるからな。なにもできないうちに袋叩きにしてやれ」
ブラックスライムの代表的なスキル構成――『アブウィス型』と『サクボム型』は、強力だが準備時間が必要となる。いかにアブソーブウィスプを食らわせ、『分裂』させるかが、キモなんだ。
逆に言えば、『分裂』してからようやく攻めに回れる、スロースターターということ。
つまり、アブソーブウィスプのHP吸収が発生する前に、ブラックスライムのHPを3/4以下にできれば、ちょっと妨害が得意なだけの置物にすることができるんだ。
1対1の戦闘で、ブラックスライムが追い詰められることはまずないが、多対多での戦闘では起こり得る。
いくら耐久性がトップクラスと言えど、3体もの従魔に狙われれば為す術がない。リペイントにより光属性にされているのだから、尚更だ。
俺は、フゥ、と息をついた。
「参ったな」
「だから言っただろ? 大口叩くと恥をかくってよ!」
ニタニタとイヤらしい笑みを浮かべるジェイクに、もう一度嘆息する。
「勘違いするなよ、『このままじゃ負ける』って意味の『参った』じゃない」
「あ?」
「属性統一パーティーはいい構成だ。リペイントによるデメリット解消と優位形成も上手い」
だが、
「詰めが甘すぎる。そういう意味の『参った』だ」
キッパリと言い切ると、ジェイクが忌ま忌ましげに顔を歪めた。
「そこまで言うなら凌いでみやがれ! お前にこの劣勢を覆す手があればな!!」
「言われなくとも」
ジェイクのわめきをさらりと流し、俺は動き出す。
「スタンボディーだ、マル!」
『キュ!』
マルがギュッと体を縮こまらせる。
ミスティ先輩との試合でも用いた、『麻痺』を誘発する『帯電状態』になるスキルだ。
「なにをするかと思えば……スパークアルマジロが『帯電状態』になったところで、ブラックスライムを助けられるわけじゃねぇぞ?」
「はっ!」とジェイクが鼻で笑う。
無視して、今度はユーに指示を送る。
「ユー、バーサク!」
『ムゥゥゥッ!』
ユーの十八番、バーサクリバストの下準備。
ユーのHPが1/4になり、STRが200%上昇する。
「パージ!」
『ムゥ!』
続いて『霊体状態』に。ユーのHPが1になった。
「リバーサルストライク! マッディーデーモンを倒してこい!」
『ムゥ――――ッ!』
ユーが飛び出し、黒い流星と化す。
「させるか! 庇え、レイスビショップ!」
即座にジェイクが反応し、レイスビショップに命じた。
マッディーデーモンの戦闘力は尋常じゃない。ジェイクのパーティーで、もっとも脅威的な従魔だ。
ジェイクもそのことを理解しているのだろう。レイスビショップを犠牲にして、マッディーデーモンを残すつもりだ。
しかし、俺は許さない。
「シャドースティッチだ、クロ!」
『ピィッ!』
クロに影の触手を伸ばさせて、レイスビショップの足を縫いつける。
「食らえ!」
キュドォオオオオオオンンンンッ!!
ユーのロングソードがマッディーデーモンを貫いた。
マッディーデーモンのHPが、一気に0になる。
『GOAAAAHH……!!』
マッディーデーモンが断末魔を上げ、魔石へと姿を変えた。
「ちっ」と、ジェイクが舌打ちする。




