悪事は怒りを買うから、結局は損。――3
レドリア城は、レドリアスの中央に位置し、周りを水堀で囲まれている。
レドリア城に入るには、東西南北のいずれかの橋を渡らなければならず、それぞれの橋には、従魔をつれた衛兵が常在している。
守りは堅牢。レドリア城に忍び込むのは至難の業だ。
しかし現在、レドリア城の敷地内の広場には、ジェイクがいる――国王の暗殺を狙う、スパルタンの一員であるジェイクが。
決勝戦を邪魔しないように、衛兵たちは広場から離れた位置にいる。そのため、ジェイクが『死大神の宝珠』を使おうとしても、止められない。
唯一、ジェイクの企みを阻止できるのは、俺だけだ。
つまり、俺が最終防衛ライン。もし俺が決勝で敗れたら――俺の従魔が倒れたら、ジェイクを阻む者はいなくなる。お仕舞いだ。
まあ、負けるつもりなんて、さらさらないけどな。
「よくぞ来た。学生選手権を勝ち抜いた猛者たちよ」
広場で跪く俺とジェイクに、バルコニーの豪奢な椅子に腰かけた男性が、声をかけてきた。
豪勢な衣装をまとう、ガッシリした顔立ちと、あごひげが特徴的な、金髪金眼の壮年男性。
彼こそが、レドリア王国の国王、ロイ・ルル・レドリアだ。
「我が国の次代を担う者がいることを、私は嬉しく思う。その実力を、皆に存分に披露してくれ」
「「はっ!」」
レドリア王の言葉に、俺とジェイクは頭を垂れた。
決勝戦の模様は、サイキックラビットを通じて、レドリア王国全土に中継される。国中が、俺とジェイクの戦いを観覧しているわけだ。
俺とジェイクは立ち上がり、広場の両サイドに移動し、相対した。
ふてぶてしい笑みを浮かべるジェイクに向けて、俺は口を開く。
「ひとつだけ言っておくぞ、ジェイク」
「あ?」
怪訝そうに眉をひそめるジェイクに、俺は言い放った。
「容赦はせん。ひねり潰す」
「はっ! 大層なことだな! 大口叩いたら恥をかくぜ?」
「恥なんてかかねぇよ。勝つのは俺だからな」
「言うじゃねぇか、返り討ちにしてやるよ」
俺とジェイクとのあいだでバチバチと火花が散る。
「両者、構え!」
審判が右手を挙げ、俺とジェイクは魔石を取り出した。
それぞれの魔石はみっつ。決勝戦は、互いの手持ち従魔すべてをぶつけ合う、多対多方式だ。
空気が張りつめる。
「――はじめ!」
審判が右手を振り下ろし、号令をかけた。
俺はみっつの魔石を放る。
「クロ、ユー、マル、行ってこい!」
『ピィッ!』
『ムゥ!』
『キュウ!』
ジェイクもまた、みっつの魔石を放った。
「暴れてこい! レイスビショップ、ヴァンパイアメイジ、マッディーデーモン!」
『AAAAAAHH!』
『キキッ!』
『GOAAAAAAAAAAAAHHHH!!』
互いの従魔が睨み合うなか、俺はジェイクの三体目の従魔に注目する。
黒いローブを身につけ、コウモリのような羽を生やし、尖った牙を持つ、赤髪赤眼の男性吸血鬼型モンスターだ。
ヴァンパイアメイジ:104レベル
闇属性のヴァンパイアメイジは、INT、HP、AGIが高く、STR、VIT、MNDが低い、魔法使い型火力だ。
固有アビリティは、『モンスターにダメージを与えた際、10%の確率でランダムな状態異常にする』効果を発揮する『邪眼』。
首元にある、赤い宝石が嵌められたネックレスは、『血珠のネックレス』。『装備しているモンスターがHPを回復する際、追加で1/8回復する』装備品だ。




