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弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――9

 三日後の午後。


 1―Aの生徒は、生徒同士の対戦に用いる屋外施設、演習場に集まっていた。


「それでは、これより模擬戦の授業をはじめる。きみたちにとって初の戦闘になるが、それぞれ、ベストを尽くすように」


 リサ先生がそう前置きして、俺とカールに視線を向ける。


「マサラニアくんとヒルベストンくんが勝負の約束をしているようなので、まずは彼らに戦ってもらおう」

「うっす」

「ふんっ」


 俺が意気揚々(いきようよう)と、カールが憎々(にくにく)しげな顔付きで、演習場の中央にある、石造りのステージに上がる。


「最初に宣告しておこう、マサラニア。この勝負は僕の圧勝に終わる。きみには万に一つ、いや、億に一つの勝機もない」


 酷薄(こくはく)口端(くちはし)をつり上げて、カールが魔石を取り出した。


「出てこい、カイザー」


 カールが放り投げた魔石が輝きを放ち、サンダービーストの姿になる。


 サンダービースト――カイザーを呼び出したカールは、おもむろにメニュー画面を開き、開示状態にした。


「見ろ! これが僕の実力だ!」




 カイザー:30レベル




 表示されたカイザーのレベルを目にして、生徒たちのあいだにざわめきが走る。


「入学してから数日で、もう30レベルだと!?」

「校内でトップクラスと呼ばれるようになる目安(めやす)が100レベルなのよ? もう1/3まで来てるなんて、彼は本当に優秀すぎるわ!」


 生徒たちの驚愕(きょうがく)称賛しょうさんの声を浴びて、カールが気分良さそうに髪を掻き上げる。


 そんななか、俺はげんなりしていた。


 たった100レベルで校内トップクラス? ゲーム内で、最強の学生は250レベルの従魔を扱っていたんだぞ? この世界の従魔士、本当に弱すぎるだろ。


 思わず肩を落としてしまった俺は、頭を掻いて思考を切り替える。


 それにしても、三日で30レベルってのは大したものだな。ゲームでも、丸二日(正確には約50時間)かけてようやく到達する領域だ。カールが運だけでなく、実力も(そな)えていることの証明になるだろう。


 ただし、()()()()()()()()()()()()()()、だけどな。


「ヒルベルトくん、ひとつ尋ねたいことがあるのだが」


 俺が()()()()を疑っていると、リサ先生が鋭い眼差しをカールに向けた。


「まさか、パワーレベリングをしてはいないだろうね?」


 リサ先生に問われ、カールの顔が強張った。


 図星だと言わんばかりのカールの態度に、俺は落胆(らくたん)するほかない。


 やっぱりそうか。この世界の従魔士のレベルはただでさえ低いんだ。ズルでもしないと、30レベルになんて到達できるはずがない。


 レベルの低いプレイヤーが、レベルの高いプレイヤーの助けを借りて行うレベル上げ――それを、(ぞく)にパワーレベリングと呼ぶ。


 ファイモンでは、オンライン通信によるタッグプレイ、パーティープレイができるため、パワーレベリングも可能だ。


 しかし、多人数プレイにおいては、モンスターを倒した際の経験値が、活躍しなかった従魔にも割り振られるため、高レベル側のプレイヤーにうまみがなく、パワーレベリングを推奨(すいしょう)する者は少ない。


 この世界でも、「従魔士としてのスキルが上達しない」という理由で、パワーレベリングは規制されている。


 それでも実行したってことは、なにがなんでも俺に勝ちたいという、カールの意志の表れなんだろうな。そこまで意固地になる必要はないと思うけど。


「しょ、証拠はあるんですか?」


 リサ先生の追求から逃れるように、カールが顔を背けながら反論する。


「僕の努力を疑うのなら、パワーレベリングをしたという証拠を提示していただきたいですね」

「……きみは間違いなく、独力(どくりょく)でサンダービーストを育てたんだね?」

「ええ、もちろんですよ」


 いけしゃあしゃあとカールが虚言(きょげん)を吐く。


 あまりにも怪しいが、確たる証拠がないためか、リサ先生はそれ以上問い詰めようとしなかった。

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