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六章.孤がまみえるは虚実(終)

 曖昧な予想ばかりが増え会話もなくなった頃、部屋の扉が叩かれた。何事かと思えばやって来たのはマルタであり、どうやらヘンリクもアンヘリカへ入ったらしいという情報が与えられた。

 対応したのはユージィンであり、入り口で会話を交わすとマルタはすぐに階下へ戻って行く。蘭とセルアはその後に聞かされた形になった。

「ヘンリク王子が?」

 思いもしない名前を聞き返した蘭へ、ユージィンはただ頷く。

 いったい何の巡り合わせだというのか、会いたい時にはなかなか現れなかったその人が今アンヘリカにいる。蘭達が訪れない間にも来ていたのかと思い聞いたらしかったが、彼らもまた今回があの時以来だというのだ。

「どちらかと言えば、今は会いたくねぇ相手だな」

 以前の状況を思い出したのか顔をしかめるセルアに対し、ユージィンは何故か正反対の言葉を口にする。 

「私は是非お会いしてみたいですね」

 ああもアンヘリカへ来る事を反対していたユージィンの発言に、蘭、セルアが共に驚きの目を向けた。

「お前何言ってんだ?」

 セルアの唖然とする表情と声に蘭も頷くと、ユージィンはわざとらしく首を傾げこちらを見返す。

「どうしました? ランに傷を付けた人物に会ってみたいと言っただけですよ?」

「いや、ユージィンがそんな事を言うとは思わなくてな」

 何だよ冗談かよとセルアが安堵したらしい声を上げれば、またユージィンが驚く事を告げる。

「冗談ではありませんよ。本当に会いに行きたいと思っているのですが?」

 冷めた瞳のまま笑みを貼り付けたユージィンへ、ベッドから飛び降りるようにしてセルアが近づく。

「会いに行ってどうするつもりだ?」

「マティアス王子の事を聞けるかもしれないでしょう? その可能性には賭けないのですか?」

「それは……そうだが、今じゃねぇだろう?」

 言葉を詰まらせながら答えたセルアに一瞬目を向けたユージィンだったが、手は素早く先程腰から外した剣へ向かう。

「ユージィン、それは……?」

 あくまで護身用であり、余程の事がない限りは抜かない。そう告げられてはいたが、わざわざ手にした姿に思わず蘭は聞いてしまう。

「念の為に持っていくだけですよ?」

 重い金属音をさせたそれをあるべき場所へ戻したユージィンは、笑みを浮かべたまま扉へ向かって行く。冗談とは思えない動きに、セルアが再び問いかける。

「本気で行く気なのか?」

「ええ、本気です。向こうも帯剣しているでしょうし、こちらも身を守る必要はありますからね。マティアス王子の事も気になりますが――気に入らないのですよ。ランを斬ったヘンリク王子が」

 過剰な笑みをたたえているユージィンは、表情と言動がそぐわない為かやけに恐ろしく見えた。笑いながら剣を持ち、ヘンリクが気に入らないと告げる姿は不気味以外の何ものでもない。

 何を考えているのかがわからない。そう表現するのがぴたりとはまりそうな姿に、蘭は戸惑いながら目で追うばかりだ。

「俺達も一緒に行く」

 このままでは一人で出て行ってしまうであろうユージィンへセルアが言えば、否定だけが向けられる。

「ランを連れて行くのは止めましょう。二人はここで待っていてください。私は話をしに行くだけですよ? 危険な事などあり得ません」

「そうはいかねぇだろうが、俺達に勝手な事をするなと言ったくせに、自分は単独で行動するつもりか? ユージィンが怪我をするのだって困るってのはわかってんだろう」

 扉の前へ体をねじ込み行く手を阻んだセルアの姿に、ユージィンは大げさに溜息をついてみせた。

「そのような心配は無用ですよ。うまくマティアス王子の事でも聞いて帰って来ます」

「駄目だ! ランの身は俺が守る。それに、術師が一人いるだけでも大きく違うだろう? 向こうも砂漠を越える為に術師は必ず連れているはずだ。もしもの時、俺は遠くからでもユージィンを援護できる」

 以前光の玉で砂煙を上げたように、遠くから魔力をぶつけるのだろう。それは有効な手段らしく、ユージィンも頷く。

「ですが、私はシェラルドに何かをしかけるつもりはありませんよ?」

「当たり前だ。だが、向こうがどう出るかはわからねぇ、一人では行かせられない」

 セルアの意見を聞き入れず、どうしても一人で向かいたいらしいユージィンに蘭も声をかける。

「私は離れているので構わないから一緒に行かせて」

 ユージィンが一人だからといって、向こうもヘンリクが一人で現れるわけではない。むしろ確実に以前と同じく従者を引きつれているに違いないと確信できる。その中へ単独で向かわせる事はどう考えても危険だった。

 蘭とセルア、どちらへも視線を向けたユージィンは、困った表情を浮かべたかと思うとすぐにわずかな笑みを浮かべる。

「危険な目には遭わないかと思いますが、仕方がないでしょう」

 そして、そう言い終わるとセルアを押し退けるようにして扉を開き、室外へと出て行ってしまう。

「おい、待てユージィン!」

 同行を許可された事で気を抜いてしまったらしいセルアは、あまりにも勝手に動いて行くユージィンへ声をかけつつ蘭の腕を掴んだ。そのまま二人は階下へ向かう。

 下ではマルタとクロード以外にも数人がおり、おそらくユージィンが出て行ったのであろう扉を唖然と見つめていた。

「なんだか怖い笑顔で歩いて行ったけれど、大丈夫なのかい?」

 足早に宿を出るユージィンへ声をかけられなかったらしいマルタが、蘭とセルアの姿を認め聞いてくる。しかし、ユージィンを追わなければならない二人は歩きながら答えるほかなく、簡潔に口にしながらも宿の扉を開け放った。

「ちょっとヘンリクに会って来るだけだから、気にするな。っていうのは無理か……とにかく大事にはしねぇから」

「何言ってんだい!」

「本当に大丈夫だ。アンヘリカを巻き込んだりはしねぇよ」

 セルアの言葉へ対するマルタの反応は正しい。だが、今はそれどころではないのだ。とにかくユージィンに付いて行かなければならず、何が大丈夫なのかもわからぬまま蘭はセルアの開けた扉を今度は閉めようとする。

 しかし、それは誰かの手によって押さえられ、蘭は背後を振り返った。

「どうしたの? クロード」

 慌てていた為か近づくクロードにも気付かなかったらしい。セルアも無理に蘭を引く事はない為、足を止め振り向く。

「オレも一緒に行くよ」

「何だと?」

 扉を閉められないように掴んでいるクロードは、空いている片手で自分の衣服の中を示す。

「力に関してはオレが一番だと思うからね。とにかく今はユージィンを追いかけるんでしょ? 急がないと」

 確かに今はユージィンが勝手に先へ進んで行ってしまう為、クロードを言い含めている余裕はない。

「仕方ねぇな」

 セルアがそう告げると、三人はとにかく追いつかなければと駆け出した。



 決して走りはしないがユージィンの足は速く、三人は結構な距離を走らなければ追いつく事ができなかった。

「ユージィン、どうしてそんなに急ぐんだよ」

「そんな事はありませんよ」

 隣に並んだセルアへ顔を向けたユージィンは、先程マルタが言っていた通りに怖いと表現するのが似合う笑みを浮かべている。どうにも普段とは違う様子に三人は一瞬たじろぐが、すぐにセルアが言葉を発する。

「いったいどうしたってんだ? ユージィンらしくもねぇ」

「私らしくもない? セルアこそどうしました。私は何も変わりませんよ」

 冷たく言い放ちつつも歩みは一切緩まず、ユージィンはひたすらどこかを目指して行くばかりだ。ユージィンとセルアが並ぶ後ろに手を引かれた蘭がおり、その隣にはクロードもいる。

「ユージィンはヘンリク王子がどこにいるか知ってるの?」

 迷いのない動きに蘭が聞くとユージィンはこちらを振り返り、今度は少し馴染む笑みを浮かべた。

「私達はウィルナ寄りの宿へ滞在するでしょう? 同じようにシェラルド寄りの入り口付近に宿ではなくとも滞在場所があるはずですよ。そうでしょう? クロード」

 突然鋭く目を向けられたクロードは驚いたらしいが、すぐに頷く。

「向こうの入り口近くに大きめの家があって、いつもそこを使ってる。土地を潤おす為にウィルナの術師が出入りするようになった時に、両国分を準備したんだ」

 蘭はアンヘリカへ来る度に宿を使っていたが、どうやらウィルナ、シェラルド共に王宮関係者がそういった場所へ泊まる事は基本ないらしい。

「宿に泊まるのは、ウィルナやシェラルドの一般的な人達だけなんだよ。正直、王子なんかに泊まられたらたまったもんじゃない」

 ただ見ているだけならば、アンヘリカの人々はウィルナの民もシェラルドの民も受け入れているように見える。だが、その内心には色々と思う事もあるのだろうか。そしてそれ以外にも、ヘンリク本人を見ている蘭としてはおそらく扱いづらいだろうという感想も抱いた。

「絶対に揉め事が起きるのが目に見えてるし、あいつらだって最初から泊まるつもりはないはずだけどね」

 クロードが心底嫌そうに告げれば、ユージィンが苦笑する。

「寝首をかかれては困ると考えるはずですね」

「まあ、アンヘリカからすればどっちの王族も嫌な存在だろうしな」

 セルアが頷くと、クロードが迷う表情を見せた。

「最近はウィルナ寄りにはなってるから、そこまでではない気もするな。でも、わだかまりがないわけでもないし……」

「そればかりは仕方がないでしょう。そして今、その王族に用事がある身としては宿にいられるよりもずっとありがたい事です」

 自身の目的へ話題を移したユージィンへ蘭が聞く。

「その家に向かうのはいいんだけど、ユージィンはそこからどうするの?」

 もし家屋内にヘンリク一行がいたとしても、ウィルナの人間がどうやって会話をする状況へ持っていけるというのだろう。

 蘭の問いにユージィンは少し困った様子を見せたが、すぐに口を開いた。

「どうにかなるでしょう」

 本当にらしからぬ台詞にユージィン以外の全員が言葉を失う。しかし、当の本人はお構いなしに先へ進んでいくばかりであり、とにかく三人はまた後を追う格好になる。

「ユージィン、大丈夫か?」

 きちんと言葉は返ってくるものの、やはり普段とは違う姿にセルアが呟くとクロードが頷いた。

「さすがにオレもちょっと変だと思う」

「そうだよね」

 蘭もただそう言う事しかできない。

 ユージィンならばきっと考えあっての事だろうと思いたいのだが、どうにも違和感がある。あれだけアンヘリカへ来る事を拒んだというのに、ヘンリクの存在を知った途端率先してそこへ赴こうというのだ。

「無理にでも止めるべき? 剣も持ってるし」

 もし本当に使う事になっては大変だと蘭が聞けば、セルアは否定をする。

「そこまで馬鹿はしないだろうな。さすがに」

「何気にオレを馬鹿だって言ってるよね?」

「今はそんな余裕ねぇよ! クロードもこの前みたいになるんじゃねぇぞ?」

 以前の自身の行ないを思い出したのか、馬鹿という言葉に反応したクロードの頭をセルアが叩く。痛いな、と文句を言いながらもクロードはその後の発言にしっかりと頷いた。

「大丈夫だよ……」

 どこか弱々しい返事に今度は蘭がクロードの背中を叩く。

「しっかりしてね、クロード?」

「うん。頑張る」

 クロードの気持ち次第で抑えられるのかはわからないが、前回のようになられては困るのだ。だが、どこか似ていなくもないと思える今の状況は蘭をどこか不安にさせる。

「俺達はマティアスの事を知らなきゃならねぇ。その為にはいい相手に違いねぇが、ユージィンがあいつをどうにかできるのか?」

 三人からすると、ヘンリクはまともに会話ができる相手なのかすら疑問なのだ。

 心配しつつもすべき事が決まらない三人の目にも、シェラルド側の入り口付近にある他よりも一回り大きな家屋が目に入って来た。ユージィンがそこへ真っ直ぐ歩みを進めて行く姿に、蘭達は慌てて足を速める。

 目の前にある扉を睨むように立ち止まったユージィンが、囲む形で側へ来た三人を見回す。

「これから私がする事に口出しをしないでいただきたいのですが?」

「どういう意味だ?」

 まるで何かをすると言っているユージィンへセルアが聞くと、返って来るのはいつも通りの笑顔だ。

「言葉通りですよ。私はこれから少々貴方達を驚かせるかもしれません。ですが、黙って見ていてください」

「……何を言ってる? 内容によっては止める事もあるだろうが」

「セルア。貴方はわかっているのでしょう? ならばおとなしくしていてください」

 そう言うとユージィンはセルアの返事を待つ事なく目の前の扉を叩く。中には本当にヘンリクがいるのかはわからないが、人の気配は確かに感じられた。

 程なくして扉が開き、明るい茶色の髪を長く伸ばし首元で一つに縛っている細身の男が顔を覗かせる。険しい表情をしているユージィンの姿に危機感を覚えたのか、鋭い瞳が全員を見渡した。

「ヘンリク王子にお会いしたいのですが? 貴方ならば通してくれるでしょう?」

 口調は柔らかいが有無を言わせるつもりはないらしい。とんでもない発言に驚いた男を押しのけるようにユージィンが中へと足を踏み入れた。思ってもいない強引な動きに、セルアが声を上げる。

「待て、ユージィン!」

 しかしユージィンが止まる事はない。腰にぶら下げた剣の柄に手をかけながら室内へ視線を配りつつ、振り返る事なく声を発する。

「貴方達はそこで待っているといいでしょう。しかし、中へ入り扉くらいは閉めていただきたいですね。いくら敵国の者とは言っても斬り合いは止めてください。余計な火種は不要です」

 待っていろと言われて、そのままでいられるわけもない。三人はとにかくユージィンを追わなければと足を踏み入れたが、目の前にはヘンリクの従者であろう男が立っている。

 だが、男は何を言うわけでもない。むしろ蘭達と同じく困った様子で先を行くユージィンを見つめていた。どうして阻まれないのかと疑問も浮かんだが、とにかく余裕がなかった。

「何か言ってる場合じゃねぇな、行くぞ」

 扉を閉めたセルアが髪を掻きむしるようにしながら奥の部屋へ向かうと決めると、蘭もクロードも頷き後を追う。

 駆け出しながらも男はどうするのかと思えば、どうやら何も言わずに後ろを付いて来るらしかった。

 何かがおかしいと思える状況ではあったが、ユージィンはもう奥へ行ってしまっているのだ。

 この建物は扉を開けてすぐに一部屋。そして奥にある扉を開くとまた一部屋と、どうやら三部屋が繋がっている造りらしい。それ以外に左右にも扉はあったが、ユージィンは見向きもせずに扉を開け放ったまま奥へ向かっていた。

 内容まではわからないがユージィンの声が聞こえる状況で、三部屋目へ入ろうと三人が中を覗く。

 するととんでもない状況が広がり、蘭は息を飲んだ。

 部屋の奥で椅子に座っているヘンリクへ、己の剣を振りかざすユージィンがいたのだ。

 そしてそれは、あっという間に事を成した。

「ユージィン!」

 まさかと思うユージィンの行動に蘭が叫ぶと、すぐに答えが返ってくる。 

「兄が弟の不始末を叱るのは当然でしょう?」

 不釣合いだと思っていた剣を軽々と扱い、ヘンリクの右腕を斬り付けたユージィンの表情は見知らぬものだ。笑みを浮かべているのは相変わらずだが、更なる冷たさを感じさせるそれを顔面に貼り付けたまま刃に付いた血を拭い鞘に収める。そして、小さく息を吐きヘンリクを見据えた。

「私はすべき事を伝えていたはずでしたが? 貴方がそうも愚鈍だとは思ってもいませんでしたね」

 いつかの蘭と同じように右腕から血を滴らせているヘンリクは、斬られた影響なのか椅子から滑るように床へ体を落としている。すぐに従者である男が駆け寄り処置を始め、馴れた手つきに目を向けたユージィンは次にその者へ声をかけた。

「貴方は医術に長けているのでしたね。その程度の傷ならどうとでもできるでしょう? ヘンリクを連れて早々にお帰りなさい」

 困った顔で男がユージィンを見返すと同時に、ヘンリクが体を起こしつつ目線を上げる。ヘンリクの表情は怯えているわけでもなく、怒りを含んでいるようでもなかった。

 ただ、不思議そうにユージィンを見つめ静かに告げる。

「兄上はお帰りにはならないのですか?」

 その言葉は本当に弟から兄へ向けたものなのか、どこかすがるような響きすらも感じられた。

 ユージィンは眉を潜めて、どこか不機嫌そうにヘンリクを見下ろす。

「無駄口は必要ないでしょう? 私の目的は変わりはしません。ネストリと共に己の役目を果たしなさい」

 その口ぶりに何故かヘンリクは嬉しそうに笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。従者達が大丈夫かと口々に声をかけると、ヘンリクはそちらへ目を向ける事はないまま大丈夫だと言いユージィンを見続けた。

「私はまだ、兄上を信じて構わないのでしょうか?」

 以前、蘭が斬られた時とは全く違うヘンリクの表情は生気に満ちたものだ。目を輝かせ、心底嬉しそうにユージィンを見つめている。言葉こそは疑問を抱いているように感じられるが、口調はどこか心酔しているような不思議な様子に見えた。それは突然斬りつけた相手に対する表情とはとても思えない。

 そしてその先にいるユージィンは、蘭が見知ったものとは違う優しさなど感じさせない冷たい瞳のままヘンリクと対峙している。

 怖いと思わせる雰囲気に声も出せない蘭をそっと支えたのはセルアだ。思いもしない事態に足が震え、かろうじて立ってはいるがすぐにでも座り込みそうなところを気付いてくれたらしい。

「今は見てるだけにしとけよ?」

 セルアは耳元で囁くとユージィンとヘンリクへ視線を戻す。

 蘭と同じように驚いていると思っていたが、どうやら違うらしい。何があるのかとセルアを見上げれば苦々しげな表情が浮かんでいる。

「とりあえず詳しくは後だ。クロードもだぞ」

 とにかく伝わってはいるらしいと理解した蘭は頷き、意識をユージィンへと戻す。クロードも小さくわかったとだけ答えた姿から、平常を保ってはいるらしかった。

「まだその時ではありません。貴方だけお帰りなさい」

 ユージィンはそう告げるとヘンリクから興味を失ったのかこちらを振り返り、いつも通りの笑みを浮かべた。まるで何か切り替えるスイッチでもあるのかと思う程の、見事な変わりように蘭は驚く。

 そうして剣を振るった時の動きとは全く違った物腰で歩み寄り、ユージィンはこちらを真っ直ぐに見つめてくる。優しく微笑む姿を蘭はただ見上げる事しかできない。

「少々驚かせてしまいましたか?」

 悪びれる事もないままでいるユージィンに、よくぞ少々と言ったものだと思いながらも蘭はとりあえず頷いた。


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