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第十八話 精霊の国


※※※


 精霊の国に渡った私は、毎日大切な家族に囲まれて幸せな日々を送っていた。


 今日は精霊王様とお茶をする約束の日だ。


「精霊王様、お招きいただきありがとうございます。おかげさまで本当に幸せな毎日を送らせていただいております」

「よい、これからは心ゆくままに過ごすがよい」


 精霊王様はさらりとした腰まである銀に輝く髪をかき上げ、優しげな金の瞳で私を見つめる。


「ありがとうございます。しかし、全ての精霊を引き上げさせてしまって本当によかったのでしょうか?その、精霊と仲良く力を合わせて暮らしていた人々も多かったのでは?」


 フェアリアル王国は精霊の力を借りることで生活が成り立ってきた国だ。


「うむ。実はな、最近は精霊に感謝の気持ちを持つ者が少なくなってきていたのだ。精霊も調子が悪く思うように力を使えない時もあるというのにそれに怒り、暴言を吐く者も出てきていた」

「そんなことが……。精霊達は善意でその力を貸してくれていたというのに」


 それは精霊王様がお怒りになり、精霊達を国に戻すことも仕方ないのかもしれない。


「ああ、私の大切な精霊達がそのように扱われることを苦々しく思っていたところに今回のフィリスのことがあった。精霊への感謝の心を取り戻すためにも良い機会のではと思ったのだ」

「出過ぎたことを申しました。申し訳ございません。」


 謝る私の頭を精霊王様は優しく撫でてくれた。


「よい、仲良く精霊と暮らしていた者もいたのは事実だ。しかし、そういう精霊だけはあちらに残して酷い扱いを受けていた精霊はこちらに戻すとなると、残った精霊に負担がいってしまうだろう。それは防ぎたかった。私にとって最も大切なのは精霊達、そして愛し子のフィリスだけだからな」

「精霊王様」


 あの国は、国の制度として精霊の力を家同士が協力して使っていた。たとえば火の精霊の力を貸す代わりに、水の精霊の力を借りるといったように、できるだけ4つ精霊の力を貸し借りできるように国が協力し合う家を指定する制度があったのだ。

 気まぐれな風の精霊だけは数が足りず、偏りも生まれていたが、これで生活は成り立っていた。


 しかし、6歳以上の国民全員が契約していた精霊の数が極端に減れば、その分残った精霊がその負担を負うことになってしまう。精霊王様の精霊達を心配する気持ちは痛いほどわかったが、何か心に引っかかるものがあった。何だろうか?


 考えこんでしまった私に、精霊王様はスッと立ち上がると手を差し出す。


「さてフィリス、今日は特別な場所に連れて行ってあげよう」

「ありがとうございます」


 思考を止め、差し出された精霊王様の手を取る。サッと抱き寄せられたかと思うとそのまま空へと浮かび上がった。


「さあ行こうか」

「はい」



※※※



 それからも私は精霊の国で幸せな日々を過ごしていたが、そんな日々が1年、2年と経っていくうちに、心に余裕ができたからだろうか?精霊王様とのお話で引っかかっていたものが何なのか気がついた。


 それは契約を結んでいた精霊と人間のことだ。


 サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム。4人と急に離れ離れになったら、間違いなく私は正気でいられない。4人も、きっと悲しんでくれるはずだと思うのは、私の自惚れではないと思う。


 私達のような関係の精霊や人間がいたとしたら、今も悲しんでいるのではないだろうか?


 精霊王様がおっしゃっていたように、酷い扱いをされていた精霊だけを国に戻せば、残りの精霊に頼る部分が増え、その精霊が苦しむことになっていたかもしれない。


 しかし、大事にしていたお互いを失って嘆き悲しんでいるものがいるとしたら、それを放っておいていいのだろうか?


 そう思った私は居ても立っても居られなくなり、その日から精霊達の話を聞いてまわるようになった。


 最初の頃は、みんな私を精霊王様の愛し子だからと敬遠し、あまり心の内を話してはくれなかった。


 しかし、少しずつ親睦を深め、精霊王様には内緒でと言うと、心の内を話してくれる精霊も現れる。


「正直せいせい致しました。あんなに小さい頃は良い子だったのに」


「一度契約をすると、人間が死ぬまで精霊はあの地に縛られるんです。だからあと何十年もこき使われるのかと思っていたところでしたから助かりましたよ」


 初めはこのように、人間との契約が精霊王様によって断ち切られ、精霊の国に戻れたことを喜ぶ声が多かった。

 しかし、徐々に違う声も聞こえてくるようになる。


「私は契約を結んだばかりでした。ノアという男の子です。私と契約を結んで大喜びしていたあの子の事を思うと少し寂しいですね」


「仲良くやっていましたよ。でもまあ我が王のおっしゃることですからね。仕方ないですよ」


「寂しいです。私と彼女はもう60年は一緒にいましたからね。元気でやっているのか心配です」


 そんな声も聞こえてくるようになったのだ。


 それぞれの精霊から、契約者だった人間との出会いや思い出を聞いていく。


 その思い出に、時には一緒に笑い、時には一緒に泣いた。


 そうやって1人1人の精霊と話をしていく中で出会った1人の精霊の話に、特に心を奪われることになる。


 精霊の名はセレン。私とセレンが出会ったのは、私が精霊の国に来てから5年の歳月が流れた時だった。

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― 新着の感想 ―
なるほどなぁ。全ての精霊を引き上げたのはそういう理由があったのか。なにも全ての精霊の意志で引き上げたんじゃなく精霊王の命令だったわけね。でもこの精霊王の口ぶりだと人間達が十分反省したらいつかまた人間と…
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