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84話 崩壊の始まり

「今日はまた雨降るそうだぞ」

「またずぶぬれになるんですか?」

「大丈夫だ。ダッシュボード上を見てみろ合羽が置いてあるだろ。さすがにこの前の見たら罪悪感が少しだけ……な」

「罪悪感とか感じるんですね」


 車は最初の回収場所のプレハブ小屋の仮設トイレにたどり着いた。まだゾンビが現れたトイレは使用禁止のままになっている。いつになったら直すつもりなんだろうか?


「なんでゾンビが出てきたんだろうな?」

「結局のところ謎ですよね?」

「あぁ。あ、あれってお前の連れの外国人じゃね?」

「本当だ」


 イザベラが小銃を持って歩いていた。そのままフェンス横の小さな扉をくぐっていった。その後ろには数人の男の人が後をついて歩いて行った。今から警備の仕事か。小銃をよく見ると大きいスコープが付いている。高そうだなぁ。


「あれは全部在日米軍が置いて行ったやつだな。弾は腐るほど余っているらしいぞ。あと、よく警備してるやつらの銃を見てみろよ。いろいろアタッチメントついてるぞ」


 イザベラの後ろの男性の小銃を見ると、確かに元の形はイザベラの持っている小銃と一緒だけど、弾倉が長かったり真四角なスコープが付いたりしている。自衛隊の装備にはそんなものなかったな。軍事力の差だろうな。

 そんなことを考えているうちに汚水を汲み取り終わった。さて、次の場所だな。ホースを巻き取る速度も最初に比べて早くなった。慣れってすごい。


「最近気が付いたんだが仕事早くなってきたな」

「そうですよね。さっき作業してて気が付きました」

「その調子で頼むぞ」

「たまには逆の立場になってくれないんですか?」

「お前が来る前は全部一人でやっていたんだぞ。終わる時間も大体半分くらいになったし」

「ほかの人はいなかったんですか?」

「こんな仕事誰もやりたがらないだろ。長道さんも勧誘はしてくれていたみたいだが誰も首を縦に振ってくれなかったんだ」


 みんな頑張ってくれていたんだ。でも、あの状況はかなり断れない状態だっただろ。ほかの人たちはそれでもなお断ったってことなのかな?

 空港へと向かう橋を渡るが、途中の検問は完全に無くなっていた。あの人もやられたのかな?

 空港の方は駐車場に止まっている車両が減っているような気がする。あとは、女性の姿がかなり多くなっている。それだけこの前の作戦でいなくなったのかな?


 汚水の汲み取り場所にたどり着いた。汚水を汲み取汲み取り始めるが、いつも現れているおしゃべり好きのおっさんが現れ無い。なんかそれはそれで悲しい。


「汲み取り止めてください」

「おう」


 ホースを巻き取る。すると、いつものおっさんが現れた。腕には骨折でもしたのかギプスを巻いている。


「その腕どうかしたんですか?」

「話は聞いてるだろ。サービスエリアで襲撃を受けたやつ」

「はい」

「俺はその部隊の中にいたんだ。数少ない生き残りですよ」


 おっさんはその時の状況を説明し始めた。


「偵察部隊の報告をサービスエリアで待っていたんだ。そしたらいきなり狙撃されてな。そこからはほぼ虐殺みたいな感じだったよ。四方八方から撃たれて俺も左腕を撃たれてな。……その……撃たれて死んだ奴の死体の下で死んだふりをしてたんだ。しばらくすると、銃声が止んで俺たちを攻撃してきたやつらはいなくなってたんだ」

「ほかの人たちは?」

「俺と同じようにして死んだふりをしてたらしい。そこからは銃声で集まってきたゾンビから逃げるので精いっぱいだった。全員怪我してたからな」

「大変でしたね」


 それくらいしかかける言葉が見つからない。


「車に乗ってからは順調に帰ってこれたよ。その日のうちに帰ってきたてただろ?」

「そうでしたね」

「じゃあ、俺は行くから。汚水回収がんばれよ」


 いつものおっさんは空港の建物の方へと消えていった。


「さ、次の場所に行くぞ」


 バキュームカーに乗って次の場所へと向かう。今の時間は昼前か。前よりもかなり早くなっている。最初の頃はすでに14時くらいだったのに。


「今日はいい天気ですね」

「どうした?会話下手くそかよ」

「いや、雲一つないいい天気ですから。暑くなりそうですね」

「今更だろ」


 畑にたどり着く。収穫はあらかた終わったのか作業してる人は数人程度しかいない。バキュームカーに巻き付けてあるホースを取り出していると、一瞬地面が揺れたような気がする。


「今、揺れませんでしたか?」

「あぁ。少し揺れたな」


 遠くから何か音が聞こえる。


「大隅!大きいのが来るぞ!」

「え?」


 一気に地面が揺れ始めた。今回のはかなりでかい!街頭や看板が大きく揺れている。とっさにつかまったバキュームカーも大きく揺れている。周りから悲鳴も聞こえてくる。ふと、周りのビルに目をやるとビルも大きく揺れて屋上の大きな看板も今にも取れそうな勢いで揺れている。

 必死にバキュームカーにしがみついていると揺れが収まった。


「大隅!大丈夫か!?」

「大丈夫です」


周りを見渡すと、いたるところで煙が上がっている。その中でも大きいのは空港の方だ。


「空港の方で火災ですかね?」

「とりあえずは俺はこのまま家族のところへ行こうと思う。大隅はどうする?」

「家の前に車があるのでそれを使います」

「わかった。通り道だからな。そこまでは送っていく」

「ありがとうございます」


 ホースを元に戻してバキュームカーに乗り込む。

 来た道を引き返していると、高速道路沿いのビルが止まりのビルに倒れ掛かっている。環状線の方は無事……ではないな。ビルが倒れて高速道路にもたれかかっている。いつ倒壊してくるかわかっちゃもんじゃないな。それに走っている最中に地震に遭遇したのか壁に衝突して放置されているスポーツカーがある。運転手はいない。


 プレハブ小屋の方は工具やバイクが完全に倒れている。桐生さんの姿は見当たらない。無事なんだろうか?

 仮設住宅の家の前までたどり着いた。家の方は地震の被害ははなさそうだ。


「おれは行くから。気をつけろよ」

「はい。そちらも」


 大原さんはそのままバキュームカーで走り去った。

 家の中に入ると、机が壁に立てかけてあったはずだが倒れている。それ以外はとくに被害は受けていない。車のカギを取るとすぐに家を出る。


「おい。どこに行く気だ?」


 お隣さんが声をかけてきた。


「自分の連れが出入り口付近で警備してるんです。

「そうか……それは残念だったな」

「何言ってるんです!?」

「ちょうど門を開けたときに地震が来たらしくて門が閉じなくなったらしい。3つ目のフェンスは閉じてるらしいが破られるのは時間の問題らしい。だから行かない方がいいぞ」


それを聞いたら行かないわけにはいかないだろ。車に乗り込むとエンジンをかける。車の調子はばっちりだ。車を可能な限り飛ばして門の方へと向かうと、途中で車を横に並べてバリケードにしていて通れなくなっている。車からエンジンを止めてから降りると、逃げているのであろう男性が車に近寄ってきた。


「おい!車に乗せろ!」

「はぁ!?これは俺の車だ!」

「うるせぇ!鍵をよこせ!」

「なにすんだ!?」


 男性が鍵を奪おうと襲い掛かってきた。必死に鍵を死守していると、顔を一発殴られた。


「渡さないなら……!」


 男性がポケットからナイフを取り出してきた。ヤバいとは思ったが体が動かない。どうしてこういう時に動けないんだ。


「動かないで!少しでも動いたら殺すよ」


 声が聞こえた方を向くとイザベラが男性の方に小銃の銃口を向けて立っていた。

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