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65話 建築事務所

裏口から外に出ると、腰ぐらいのブロック塀があった。その向こうには小奇麗な民家が立っている。その窓は真っ赤に染まっている。あの中はゾンビがいるだろうな。周りを見るがブロック塀には勝手口は設置されて無いようだ。ブロック塀を超えるしかないか。ブロック塀を乗り越えていると後ろの家の壁にヒビが入った。来た!


「早くいけ!」


 民家脇をすり抜けて正面へと出ると、後ろでとてつもない破壊音が聞こえた。だが、こんな狭いところ通れないだろ。後ろを見ると、筋肉モリモリなゾンビがしゃがんでいる。狭くて諦めてくれたのか?すると、巨体が大きくジャンプした。その高さは2階建ての民家を優に超える程のジャンプ力だ。屋根に飛び乗ると、上から屋根瓦が落ちてきた。


「マジかよ!?」

「良いから走れ!」

「どこに!?」


 走って逃げると、民家の屋根を伝ってこっちを追いかけてくる。忍者じゃないんだから。一体、こいつは何が目的で俺たちを追いかけてくるんだ?食べるのが目的ではなさそうだ。


「いつまで逃げるの!?」

「知らねぇよ!」


 確かにこのまま逃げ続けてもこっちの体力的にも限界が来る。また民家に逃げ込むか?……いや、この状態じゃ無理だ。入ったところを見られる。それに折れてるかもしれない肋骨がかなり痛い。早めに決着をつけないと。


「何か爆発物持ってないのか!?あいつを吹き飛ばすくらいの!」

「持ってるわけ無いでしょ!……ある!タンクローリ吹き飛ばせばいいんじゃない!?」

「馬鹿野郎!そんなのダメに決まってるだろ!あれは大切な燃料だぞ!それに、あれだけの量が爆発すれば周辺もタダじゃすまないんだ!」

「それならガソリンスタンドは?」

「まぁそれなら」


 中村の案で決まりだ。だが、そういったものはいいもののどうやって爆発させるか。それに誰かがガソリンスタンドにひきつけないといけない。


「勝手に話進んでるけど、ガソリンスタンドはどこにあるの!」

「これだけ広い町なんだ。どこか大きな通りを探せばあるだろ」


 大きめの通りに出た。ゾンビもそれなりの数歩いている。だが、こいつ等には構っている暇はない。間を走り抜ける。ガソリンスタンドはどこにあるんだ!


「ちょっと……もう走れない……」


 池田さんが立ち止まった。かなり息が上がってる。今立ち止まったら……筋肉モリモリなゾンビの方を見ると、手に何か黒くて薄いものを持っている。それを投げてきた。


「危ない!」


 イザベラが池田さんを押して何とか投げてきたものを交わすことができた。投げてきたものは地面に当たると、粉々に砕け散った。破片を見ると、瓦だろうか?


「みんな!車の影に隠れて!」


 とっさに放置されている車両にそれぞれ隠れる。俺の隠れた車両には中村が一緒に隠れてきた。車両の影に隠れた途端に車に大量に瓦が投げられる。瓦が当たるたびに車が大きく揺れる。


「あいつ!調子に乗りやがって!」

「どうするの!?このままじゃ……」


 車の窓が粉々に砕け散って降り注いでくる。だが屋根瓦も無限にあるわけじゃない。いつかは止まるはずだ。すこし離れたところからゾンビがこっちに向かって歩いて来る。こんな時に来るなよ。ゾンビが歩いてくる。すると、頭に飛んできた瓦が当たった。そのままゾンビは力なく倒れる。あいつ、無差別だな。


「もう少しすれば止まるはずだ。その時に逃げるぞ」

「うん」


 しばらく待つと、瓦の雨が止んだ。筋肉モリモリなゾンビを見ると、周りに何かないか探している。


「いまだ!逃げるぞ!」


車の影から飛び出して走り出す。後ろから叫び声が聞こえて、あいつが追いかけてくる。ガソリンスタンドはどこだ!?いい加減見つかってもいいはずだ!


「このまま逃げるのも限界があるぞ!いい加減に他の案を考えた方が!」


 高田さんが走りながら話しかけてくる。


「私がひきつけるから先に大阪に行って!」

「イザベラ!またそんなこと言うのか!いい加減に体を大切にしろ!」

「そんなこと言ったってどうするの!?」

「今考える!」


 くそっ!何かいい案を考えろ!


「車で逃げるのはどうだ?車ならそこら中にあるだろ」

「そんな暇与えてくれないだろ」

「……それなら私が探してくる!」


 中村が声を上げた。もう一人くらい付き添ってもいいんじゃないか?


「俺も行こう。女の子一人じゃかわいそうだからな」


 高田さんも手を挙げてくれた。二人に任せていいだろ。持っていた散弾銃を高田さんに渡しておく。俺が持っているよりもあいつと戦う可能性がある高田さんが持っていた方がいいだろ。


「これ、返します」

「わかった。ありがたく受け取っておく」

「こっちにこい!」


 イザベラが筋肉モリモリなゾンビに向かって散弾銃を撃った。引き付ける役を買って出てくれた2人は俺たちとは別の方向へと逃げて行った。さて、車を探すか。中村が近くに放置されている車に乗ってエンジンをかけようとしているがエンジンがかからないようだ。池田さんも店の駐車場に放置されている車を確認しに行った。

 俺も車を探さないと。軽自動車やコンパクトカーじゃ駄目だ。バッテリーが小さいからバッテリーが上がっている可能性が高い。周りを見渡すと、少し離れたところに2トントラックが小さな事務所横に止まっている。しかも、Wキャブで6人は乗れるモデルだ。トラックなら普通の車より大きいバッテリーも積んでるはずだし、一度試してみるか。

 遠くから銃声が聞こえてきた。早めに行ってやらないと二人が持たなくなる。トラックのドアを開けようとするが、カギがかかっていて開かない。そりゃそうか。横の事務所を調べてみるか。


「おい。どうした?」


 後ろから池田さんが声をかけてきた。


「ほかの車はどうでした?」

「だめだ。バッテリーが上がってるばっかりだ」

「そうですか。そこに止まっているトラックなら大丈夫かと思って、カギを探しに行くところなんですよ」

「どうだったのか。そういう時は声をかけてくれよ。一人建物内に入るのは危険が多すぎる」


 ……ありがたい。事務所のドアをゆっくり開けて中をのぞく。かなり埃っぽい。ただ、争った形跡はない。事務所内に入ると、後ろから池田さんが付いてくる。


「誰も……いないみたいだな」

「いたら困ります」

「それもそうだな。さ、カギ探すぞ」


 事務所内の壁を見渡すと、鍵が入っていそうな箱が壁にかかっていた。あれに入ってるだろ。箱を開けてみると、カギがいくつも並んでいた。どの鍵にもナンバーの番号が書いてあるあのトラックのナンバー何て覚えてないぞ。


「右から二番目の」


 横から池田さんが鍵を取った。これでトラックのエンジンをかけることができる。外に出ようとすると、スモークガラスのドアに人影が写っている。中村か?


「中村か?」


 返事はない。それどころかドアを叩き始めた。ゾンビだ。さて、どうするか。


「ほかの窓から出るか?」

「そうですね。それが一番安全ですね」


 少し離れたところにある窓を開けようとしたときに、乾いた音とともにゾンビが叩いていたドアのガラスが割れて、血が飛び散った。なんだ?窓を叩いていたであろうゾンビが割れたガラスにもたれかかるようにして倒れている。その向こう側には中村が小銃を構えて立っていた。


「何やってんの?大隅、あんた拳銃持ってるよね?」

「……持ってるけど、自信がないからあまり使いたくなんだよ」


中村が入り口にもたれかかっているゾンビを退かしてくれた。外に出ると、遠くの方から銃声が何回も聞こえてくる。カギを池田さんから受け取ると、運転席に乗り込んでトラックのエンジンをかけた。

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