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63話 筋肉モリモリなゾンビ

 トレーラーは高速道路をグングン進む。ここまで快適に進めるのは初めてかもしれない。ふと、トレーラーのメーターの針を見ると、100は出てる。速度抑制装置も効かなくしてるみたいだな。目の前にジャンクションが迫ってきた。もちろん名古屋を避ける道へと進んでいった。……それにしても眠くなってきた。トレーラーの揺れと、ちょうどいい感じに涼しさが相まって眠い。


「眠いのか?寝てていいぞ。どうせここから先は高速を走るだけだ」

「……ありがたく寝ます」


 目を軽く閉じると、意識が飛んだ。



「おい。起きろ」


 池田さんに叩き起こされた。目を開けると、目の前にゾンビが迫ってきていた。そのままトレーラーは速度を緩めることなくゾンビを跳ね飛ばした。本当に大丈夫なのか?


「心配そうな顔してるな。大丈夫だ。中に鉄板が仕込んであってゾンビ位なら跳ね飛ばしても大丈夫なんだ」

「はぁ……」


 そんなことを話している間に東名阪方向にジャンクションを進んでいく。名古屋はこれで越えたみたいだな。それにしても高速の出入り口は封鎖したんじゃないのか?それとも、出入口のバリケードに隙間でもあるのか?


「お、後ろから富士さんの車来てますよ」


 池田さんが助手席上の物入を開けると、無線機が出てきた。無線機の電源を入れると、声が聞こえてきた。


『いい車仕入れてきたな!』

「そんなことないですよ。富士さんはどうでした?」

『ばっちりだ。仙台のほうまで出向いた価値はあった。まだ残ってるから乗り換えて行ってくるよ』

「仕事熱心ですね~」

『その代わり、荷台に積んであるR33は俺にとっておいてくれよ』

「わかりました。中山さんに頼んどきます」

「仙台はどんな様子だったよ」

『高田か。確か、お前に仙台出身だったな。……誰もいなかったよ。ゾンビは沢山いたけどな』

「そうか……」

『……入り口近くになったら俺から連絡しとくわ」

「頼んだ」


 池田さんが無線機の電源を切った。ところでなんでたたき起こしたんだ?


「えーっと……」


 高田さんがこっちを見て困った顔をしている。あぁ、俺たち名乗ってなかったな。


「大隅 一です」

「中村 樹です。よろしくお願いします」

「イザベラ ミラーです」


「あれ?外国の方?」

「そうですよ。気が付きませんでした?」

「よく見ると、顔つきとかアジア系じゃないな。瞳も青いし」

「話は変わるが、大隅。車とかバイクに興味はないのか?」

「少しは興味ありましたね」

「お。何に乗ってたんだ?」

「国産のよく教習所にあるやつですよ」

「あぁ、あのバイクか。あれは乗りやすくていいバイクだよな」

「そうですよね!自分もあのバイクしか乗ってこなかったせいで他のバイクまともに運転できないんですよ」

「安心しろ。そのバイクも置いてあるぞ。ただ、ノーマルの状態ではないけど」

「なんでそんなに走り屋みたいなことしてるんですか?貴重なガソリンも消費してるんですよね?」

「簡単に言えばストレス発散だな。いつも狭いテントや車の中で暮らして、まともに食事もできない。そうなればストレスがたまるだろ。まぁ、中には反対してるやつもいる」


 トレーラーは大きな橋に差し掛かった。かなりでかい川だ。その先の町からは煙が上がっている。なんだ?あそこに生存者でもいるのか?助手席の池田さんが無線機の電源を再び入れた。


『おい!あの煙は何だ!あんなとこに生きてる奴なんていないはずだろ!』


 無線からかなり焦った声が聞こえる。


「とりあえず速度を上げてかけ抜けるぞ!」

『わ、わかった』


 高田さんがアクセルを踏むと、エンジン回転数と速度が上がっていく。サイドミラーから見える後ろのトレーラータイプのタンクローリーと距離が開いていく。メーターの針が120まで行っている。さすがにこの速度だと何かあったときに対処できないだろ。そんなこんなで橋を越えた。インター周辺で火事が集中している。しかも反対側の高速入り口の合流地点で車が横転している。なんだ?どこかに衝突した後もないし……。


「止まって!」


 イザベラが急に叫んだ。それと同時にトレーラーがタイヤをロックしながら止まろうとする。前を見ると、車が空から降ってきていた。高田さんがハンドルを車をよけるために切るが、まっすぐ進む。


「ダメだ!止まらねぇ!何かにつかまってろ!」


 トレーラーが降ってきた車にぶつかった。そこそこの衝撃だったが、そこまで損傷はないだろう。最終的に速度は3、40くらいまで落ちてたからな。その横をタンクローリータイプのトレーラーが横を通り過ぎたあたりで止まった。


『大丈夫か?』

「あぁ、何とか無事だ。トレーラーは大丈夫そうか?そっちから見えないか?」

『こっちから見た感じフロントはかなり壊れてるが大丈夫だろ。それより何があった?車が空から降ってきてたが』

「わからない。ただ事じゃないのは確かだ」


 タンクローリータイプのトレーラーから一人の男性が降りてきた。あれが富士さんって言ってた人か?その手には散弾銃が握られていた。俺たちも車に乗っている武器を持ってきた方がいいかな?


「俺たちも、後ろの車に積んである武器を取ってきていいですか?」

「あぁ。頼む」


 全員でトレーラーから降りる。今の音で高速の合流地点から1体のゾンビがこっちに向かってきている。


「俺が見とくから武器を頼む」

「わかった」


 1体のゾンビはよく観察すると、黄色のヘルメットをかぶって作業着と反射ベストを身に着けている。高速道路の作業員か?そんなことを考えている間にイザベラが拳銃を持ってきてくれた。イザベラはいつも通りに散弾銃で作業員を殴りにかかった。高速道路作業員の首が変な方向にねじ曲がった。


「本当にあのねーちゃんどうなってんだよ」


 すぐ隣に高田さんが来た。


「本当にどうなってるんでしょうね」


 とりあえず笑ってごまかしておくか。いつまでごまかせるか?


「結局なんで車が飛んできたの?」

「さぁ?」

「高田さん。もしかして……近くに奴がいるんじゃないですか?。確か、報告では車を投げてきたって」

「そうだな。急いで逃げるぞ」


 突然イザベラの向こうから軽トラが飛んできてタンクローリータイプのトレーラー横にいた富士さんに直撃した。その場にいた全員が合流地点の方を見ると、大柄で筋肉モリモリなゾンビが上がってきた。その右手には人形のように人が引きずられていた。


「ねぇ!何アレ!?」

「わかんねぇよ!」


 見ただけでわかる!あいつは名古屋の避難所を壊滅させた奴だ!右手に引きずられていた死体を道路わきに投げ捨てると、急に叫びだした。かなりでかい声だ。耳を塞いでないと耐えられないほどの叫びだ。いつまで叫ぶんだよ!鼓膜が破れそうだ。

 そして、叫ぶのをやめたときに、筋肉モリモリなゾンビの後ろから数十体のゾンビが上がってきた。

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