53話 熊
目を覚ますと、外は明るくなっていた。だが、雨はまだ降り続いている。
今日は、雨が降っているが納屋の中でもう一度、使えるものがないか探してみるか。イザベラと二人で納屋に向かう。納屋の中に入ると、そこらじゅうで雨漏りしている。ガレージの中を車庫として使われている部屋を探していると、ロープが出てきた。バケツもあったが、廃オイルを入れるのに使っていたのか、真っ黒に汚れている。
「ほかのバケツ探さない?」
「洗えば大丈夫だろ。それに、別にこのバケツで飲料水を確保するわけじゃないんだから綺麗に洗えば大丈夫」
「本当に?」
これで井戸水を汲むことが出来る。他に探していると、廃油処理パック、十字レンチなどの自動車を整備するような工具が出てきた。ここら辺の物は必要ないな。
「十字レンチくらい車に積んでおいたほうが良いんじゃない?車がパンクしたときに使えるよ」
「そうだな。一応積んでおくか」
隣の部屋に行くと、前も見たが農機具が置いてある。農機具の横にはバールや桑が置いてあるが錆で茶色に染まっている。イザベラがバールを持って、農機具を叩くと、バールが折れた。バールでこの状態なら、隣に置いてあった桑も同じなんだろうな。この部屋の物は使わないほうがよさそうだ。
「この農機具動かないかな?使えるなら使いたい」
「何に使うんだ?」
「普通に畑を耕したりするんだよ。自給自足も考えないといけないからね」
「無理だろ。この上に積もっている埃の厚さを見てみろよ。何年分の埃だよ」
だが、いつまでもこの家にこもっているわけにもいかない。そのうち食料や飲料水は尽きる。……山菜を見つけるのは素人の俺たちじゃ毒草かどうかの判別ができないから却下。キノコも同じ理由で却下。やっぱり街に探しに行くしかないか?
「大体、今乗っている車の整備すら誰もできないだろ。そんな奴が、農機具を治すなんて無理だろ」
「まぁ……そうなんだけど……それにしても、雨漏りすごい」
天井から滴っている水が農機具の上に落ちている。だから錆びてるんだ。
「合羽あったよ」
イザベラが合羽を見つけて広げたが、ボロボロで使えそうにない。さて、最後の部屋だ。最後の部屋は色々箱が積み重なっていて何があるのかはわからなかったからな。
「箱がいっぱいだね。もしかしたら使えるものがあるかもしれない」
「いや、見た感じツボとかが入っていそうな箱に見えるぞ」
試しに近くにあった箱を開けると、高そうなツボが入っていた。ほかの箱も開けていくが入っているのは茶碗や掛け軸ばかりだ。こんなの使い道ない。さて、この納屋には用はない。家に戻ろう。
「お帰り。何かあった?」
「十字レンチしかなかった。ほかはガラクタしかなかった」
「あれ?死体がなくなっている」
「埋めた。あのままだと腐ったら虫が湧いたりして大変」
「ねぇ、この雨で土砂崩れとか起きてないか確認しておいたほうが……」
「そうだな。車で行ってくるか」
「ガソリンは大丈夫なの?」
「それに関しては大丈夫。私が最後に運転したときには半分だったよ。留守番してるよ」
イザベラと一緒に外に出ると、雨がだいぶ止んでいた。
「運転よろしく」
イザベラに車のカギを渡された。たまには運転するのもいいか。運転席に座ってシステムを起動させる。中村の言っていた通りガソリンメーターは半分のところで止まった。
「先にどっち見る?」
「来た時の道を引き返してみよう」
林道を車を走らせていると、途中で路肩の崖から大量の水が流れている。さらに進むと、山の一部が崩れて道をふさいでいた。人なら通れそうだが、車は無理だ。
「この先に歩いて見に行く?」
「いや、それは晴れてからにしよう」
車をバックさせて家まで戻った。そこで方向転換して今度は逆の道へと進む。林道を進むと、少し開けた場所に出た。その開けた場所の端の方には丸太が何本か積み重なっていた。ここは資材置き場なのか?その横には一台のステーションワゴンが止まっている。あのゾンビの持っていた鍵とメーカーが一致するな。ってことは、あの車の持ち主はあのゾンビだ。明日にでも鍵を持ってきて調べるか。
さらに先に進むと舗装された道に出た。片側1車線の道路だ。見た感じゾンビはいないし、放置車両もない。逃げるとしたらこの道だ。まぁ、逃げるような出来事は起きそうにないけど。
「さて、戻るか」
車を道で方向転換して戻る。家に戻ると、次第に雨がやんできた。ようやく雨が止んだか。
「様子変じゃない?」
いきなりどうした?家の様子は……1階の窓が割れている。助手席のイザベラが散弾銃を持った。これは気を引き締めたほうがよさそうだ。
「一は車から降りないで待機してて。もしかしたら逃げることになるかもしれない」
「わかった」
イザベラ一人で散弾銃を構えながら家の窓が割れているところへと向かう。一体何があったんだろう?ゾンビ1体くらいなら、もう倒していてもいいころだ。周囲を経過しながら車で待っていると、2階の窓から中村の姿が見えた。一体、中はどんな状態になっているんだ?そのまま、中村が身を乗り出して2階の窓から飛び降りた。そして、そのままこっちに向かって走ってくる。イザベラはどこに行ったんだ?
「イザベラは!?」
「家の中に入っていった。何があったんだ?」
「熊!」
熊?
次に、イザベラが家に入ったところから出てきた。イザベラもこっちに向かって走っている。その後ろには大きな黒い毛玉がイザベラを追いかけるように走ってきている。うん。熊だ。体長は3メートルほどあるだろう。イザベラが振り返って散弾を撃った。
「ねぇ、効いてないよね」
熊に散弾は当たったが、熊は少しよろけただけで効いている様子はない。再びイザベラがこっちに向かって走ってきた。そして車に乗り込んで来た。
「早く出し……」
熊がイザベラが乗り込んできた左側に体当たりしてきた。車が大きく傾いた。ヤバイ!横転したら熊に襲われて死ぬ!
アクセルを踏み込んで熊から逃げる。だが、バックミラーを見ると、熊が追いかけてきている。嘘だろ!?こっちは狭い山道で30キロは出してるんだぞ!
「もっとスピード出してよ!」
「バカ言うな!こんな道でこれ以上出せるわけないだろ!」
バスン
「今の音はなんだ?」
「……さあ?」
いきなり車体がガタガタ揺れ始めた。……石か何か踏んでパンクしたのか!?これじゃあ熊から逃げるなんて……あれ?熊がいなくなっている。
「熊はどこ行った?」
「居なくなったね」
もう少し進めば資材置き場があるはずだ。それまで走らせて、パンクして駄目になったタイヤを資材置き場においてあった車からタイヤをもらうか。そのまま資材置き場までたどり着いたが、熊は追いかけてはこなかった。




