50話 大量の食糧
「カーナビで調べるか」
助手席からカーナビを操作していると、近くに珍しい地形の場所がある。きれいに区画整理してあるところがある。しかも、そこにはスーパーがある。
「この場所にスーパーがあるみたいだ。行くか?横は住宅地みたいだけど」
「様子だけ見てみましょう。もし、ゾンビが多いようなら引き返そう」
カーナビでスーパーのある場所を目的地として案内してもらう。そこまで距離はないようだ。周囲をカーナビで確認していると、住宅地の横には工場地帯も広がっているのか。
そのまま、進むと、大きな通りに出た。どうやらこの道をしばらく進めば目的地にたどり着くみたいだ。途中、東名高速の下を通ったが、高速道路の防音壁から大型トラックの頭が突き出ている。この様子だと、東名高速は使えそうにないな。
『700メートル先右です。その先200メートルで目的地周辺です』
もうたどり着く。後ろのイザベラを見ると、イザベラが散弾銃を持って座っている。準備はできてるみたいだ。交差点を右に曲がると、片側2車線の道路に変わった。ゾンビの数は数十体程いる。さすがに住宅街横だと多いな。
ボコッ
道の真ん中を歩いていたゾンビを跳ね飛ばした。
「おい、あんまりゾンビを跳ねるな。車の方が持たなくなる」
「ごめん、避けたくても避けれなくてさ」
『目的地周辺です音声案内を終了します』
目的地のスーパーが見えた。建物自体は綺麗なままだ。正面のガラスは1枚も割れてはいないが、自動ドアは開きっぱなしになっている。駐車場には横転した軽バンに、フロント部分が潰れたセダン。ゾンビの数は数体程だが、死体もそれなりに転がっている。この様子だと、中の商品はもう持ち出されているのかもしれない。だが、調べてみないことには分からない。
「どうする?いく?」
「ゾンビも少ないし、行ってみる価値はあるんじゃない?」
「問題は武器だ。今のところ、イザベラの持っている散弾銃しかない。しかも、撃てば駐車場のゾンビはこっちの存在に気が付くだろ」
「……店の中に包丁くらいあるでしょ」
「包丁じゃ無理だろ」
中村が店の入り口の自動ドアにバックで車を付けた。店の中は暗いが正面に大きなガラスがあるおかげで外の光が入ってきている。ドラッグストアよりはマシだ。店内の床にはモノが散乱しているが、店の中の商品はそれなりに残っている。保存のきくものだけ持ってさっさとズラかろう。
入り口付近にある買い物カートを押して、米の置いてある場所へと向かう。店内からは物音ひとつしない。
「誰もいないみたいだね」
「米だけじゃ寂しいから缶詰や飲料水ももらっていこう」
俺の押しているカートは米だけでいっぱいになった。1、2……これで60キロか。どれだけ持つんだろうか?一度、車に乗せよう。
「ちょっと、車に乗せてくる」
「行ってらっしゃい」
車に戻ると、米を積み込む。全部乗せ終えても、まだまだ積み込むことができる。もう一度、米を取ってこよう。次で残りを全部乗せることができるだろ。米売り場に向かう途中に、中村を缶詰売り場で見かけた。カートの買い物籠の中には大量の缶詰が入っている。
「調子はどう?」
「米はもう一回運べば終わる。そっちは?」
「一応、缶詰は全部積んだ。もうちょっと乗せれるからカップ麺でも乗せてくる」
そのまま中村はカップ麺売り場へと向かっていった。食べ物ばかり持って行ってるが、ほかにも日用品とかも持って行ったほうが良いだろ下の段には米を積んで上には日用品を入れるか。米を積んでいると、イザベラが飲料水を持って来た。
「まだ、米積むの?」
「いや、上の段にはそこら辺の日用品を入れるつもり」
「もうそろそろ出発したほうがよさそう」
駐車場を見ると、さっきまで少なかったゾンビが3倍ほどに増えている。おかしい。物音は立ててないし、車のエンジンも切っている。
「わかった。とりあえず、俺は日用品を積んですぐに車に戻る。イザベラはカップ麺売り場にいるから呼んできてくれ」
イザベラは無言で頷くと中村の方へとカートを押していった。
まずは、医療品だ。……とはいっても、消毒液とか包帯の簡単なものしかないけどな。あとは……下着とかも入れとくか。一通りカートに詰め込むと、車に戻る。車に戻ると、イザベラと中村が車に荷物を詰め込んでいた。すでに荷台は食料であふれかえっていた。
「早く載せていくよ!もっと増えてきた!」
カートに積んであるものを車の中に放り込む。そして、後部座席に乗り込む。
「出発するよ!」
中村が車を急発進させて目の前のゾンビを跳ね飛ばした。ゾンビをなるべく避けながら進むが、運転席側のスライドドアに1体のゾンビがタックルしてきた。その瞬間、車が大きく揺れた。おいおい、ちょっと体格のいい奴が体当たりすれば車は横転するんじゃないか?
よく見ると、住宅街の家の間からゾンビがワラワラと出てくる。一体、どこからこんなに沸いてくるんだ?地図で見た限り、そんなにでかくはない住宅地のはずだ。
「目の前の集団に散弾撃って!」
「わかった!」
イザベラが、散弾銃を持ったまま箱乗りをして身を乗り出した。車の進む先にはゾンビの集団がスーパーの入り口をふさいでいる。その集団に向かってイザベラが散弾を撃った。ゾンビの集団の先頭の奴らは倒れたが、後ろの奴らには当たらなかったようだ。
「もう一発!」
イザベラが再び散弾を撃った。今度はほとんど倒すことが出来た。ゾンビの死体を乗り越えた際に、柔らかいものを踏んだような音がした。そのあと、車が少しだけ滑った。
「どうした?」
「死体を踏んだ時に体液とかで滑ったみたい」
「事故らなくてよかった。今度から無闇に死体を踏みつぶさないようにな」
「はーい」
返事しながら道の真ん中の死体を踏んだ。このまま続ければまた、車を乗り変えないといけなくなるな。……それにしても、どんな車が理想的なんだろうか?積載性を求めるならトラックだが、大きすぎるし、エンジンの音も大きい。なら、今乗っているようなミニバンか?……囲まれたときに突破する力が足りない。……そんなこと言ったらキリがない。
「これからどっちに向かえばいいの?」
「見えてる山に向かえばいいと思うよ」
「カーナビがあるんだが、走行中は使えないみたいだ」
「めんどくさい機能。道がわからなくなったら車を止めて確認しよ」
次第に遠くに見える山が近くなってきた。それにつれて家の数が少なくなって、ゾンビの数も少なくなった。どこからか、山に入れそうな道はないのか?しばらく走ると、山へと向かいそうな道が一本、伸びていた。
「そこの道に行ってみるよ」
車はすれ違いのできないような山道をひたすら進む。こんなところに家はあるのだろうか?もし無かったら途中で車中泊したほうがよさそうだ。日が傾き始めている。この山道を抜けるころには日が暮れてそうだ。
しだいに、舗装が荒れてきた。ここら辺はまともに整備する人がいないんだろう。だが、ゾンビもいない。
「あ、家があるよ」
確かに家があった。見た目は比較的綺麗で数年前まで誰か住んでいたのかもしれない。
車を敷地のコンクリートで舗装されているところに止めて、イザベラが散弾銃を持って先頭を行く。玄関の扉を開けようとするが鍵がかかっていて開かない。家の周囲を見ても雨戸が閉まっている。裏口も見てみるが……駄目だ。雨戸って外から開かないのか?
試しに、雨戸をガタガタ揺らしてみると、何かが引っかかっていて開かない。やっぱり鍵がかかっているのか?
「駄目そう?」
「駄目かもしれない」
そのまま揺らし続けると、何か音がして開いた。雨戸をあけたときに何か壊れた部品が落ちてきた。鍵が壊れたのか。窓の方も鍵がかかっている。
「離れて」
イザベラが散弾銃の銃床でガラスを割った。
「おい……中にゾンビがいたらどうするんだよ。」
「こんな数年間放置されていたような家に誰もいないでしょ」
「そんなのわかんないだろ」
「そんなことはいいから中を探索しようよ。早くしないと暗くなる」
家の中を隅々まで調べたがゾンビの姿は見えなかった。




