22話 目的地到着
目が覚めると、イザベラさんは俺の腕にしがみ付いたままだ。……このまま寝かしておいて、家の周りの様子でも見てくるか。腕をそっと引き抜いていくと、途中で柔らかい感触があった。見た目に反して、胸はあるんだな。
1階に降りて昨日晩御飯を食べていた部屋に入ると、昨日使っていた食器がそのまま残されていた。外の方を見ると、庭にはビックスクーターが停めてある。窓には血の手形が幾つもついている。機能は無かったはずだから、ゾンビが中の様子でも伺っていたのか?……さて、ゾンビに進入された形跡も無いし、イザベラさんでも起こしに行くか。
「起きて下さい」
「ん……おはようございます」
ベットの上にちょこんと、座ったまま何処か遠くを見つめている。まだ、寝ぼけているようだ。
「顔でも洗って来い。下の階は安全だぞ」
「わかったー」
「先にリビングで待ってるぞ」
リビングに戻ると、テレビを点けてみると、どこのテレビ局も映らない。……と思ったら、ひとつのテレビ局だけ映った。
『です!ただいま、私達は入り口にバリケードを張って持ちこたえていますが、突破されるのは時間の問題でしょう。……皆さん!外にうろついている人たちはもう人間じゃありません!人の形をした獣です!あと、人口密集地は避けてください!』
バキッバキャッ
テレビから何かが壊されるような音が聞こえた。その後に、男性の叫び声や、女性の悲鳴が聞こえてくる。テレビに映っているアナウンサーも逃げ出した。その後、すぐにゾンビが横切って何かに飛びついた後、叫び声が聞こえた。
ガシャン
カメラが倒れたときにテレビに映っていたアナウンサーがもがきながらも、ゾンビに食われていく姿が映っていた。
『いや!死にたくない!食べないでええええ!」
その後、映像は消えて、映らなくなった。
「おまたせ……って、何見てるの?」
「さっきまでテレビでアナウンサーの人が喋ってたけど、教われてた」
「そっか。……今日のうちにお父さんとお母さんが居るホテルにたどり着けるかな?」
「今日中にはたどり着けるだろ」
窓から庭の様子を見ると、人影は見えない。出るなら今のうちだろうな。
ビックスクーターに鍵を刺して、セルを回すと、簡単にエンジンがかかった。エンジンがかかったのと同時に塀の向こう側にいたゾンビがこっちを向いた。エンジン音でばれたな。
「ヘルメットは?」
「別にいらないだろ」
バイクに跨った跡に後ろにイザベラさんが座ると、抱きつくようにしがみ付いてきた。そう言えば、二人乗りするのって初めてだな。
少し、エンジンをふかしてみると、良い感じでエンジンの回転数が上がる。ちゃんと整備もされているようだ。ガソリンも3分の2ほど残っている。
「早く出発してよ」
ゆっくりと門から出ると、エンジン音に気がついたゾンビがゆっくりと近づいてくる。右の方がゾンビが少なそうだ。ゾンビをかわしながら進むと、少し広い道に出た。少し遠くには観覧車が見える。あの方向に進めばたどり着くだろう。問題は、この状況でイザベラさんの両親は無事なのか?
「昨日調べた道順だと、すぐそこの交差点を右に曲がって次を左に曲がって真っ直ぐ行けばホテルにつくよ」
「いつの間に調べたんだ?」
「ちょっとした時間にね」
イザベラさんの言う通りに進むと、ホテルが見えた。
「事故らないでよ!」
ホテルにたどり着くと、バイクを路肩に停める。外から中を見ると、ゾンビが数体レストランらしきところをうろついてるのが見える。この様子だと、ホテルの中は酷いんだろうな。
「もう、前みたいに腰を抜かすなよ」
「……うん」
ホテル内に入ろうにも、武器が無いことにはホテル内に入るのは危険だ。意外と、ホテル周辺にはゾンビの姿は見えない。外で武器を探してから入るのがいいだろう。
「武器を探そう。それからじゃないとホテルに入るのは危険だ」
「そうだね。何かあるかな?」
周りを見渡すと、中型トラックに、ステーションワゴン、宅配会社のバンぐらいしか止まってない。よく見ると、ステーションワゴンの車内は血まみれになっている。もしかしたら、ゾンビが潜んでいるかもしれない。あの、ステーションワゴンはやめておこう。
まずはトラックからだ。道の真ん中に停車している。フロント部分を見ると、血が少量だがついている。ゾンビでも引いて慌てて降りて逃げたんだろう。
「後ろの扉の鍵、開いていたよ」
「中に何かあるか?」
「ダンボールが山積みになってるよ」
荷台に入って近くのダンボールを開いてみると、中には大量の電子部品が入っていた。他のダンボールを開けてみるが、武器としてまともに使えそうに無いものばかりだ。
「ねぇ。武器有ったよ」
イザベラさんが、開けたダンボールを覗き込むと、包丁が沢山入っていた。……まぁ、リーチは短いけど、無いよりはマシだな。
「もう1台のほうも調べるぞ」
「え?包丁でいいじゃん」
「もう少しリーチが長い物が欲しい」
宅配会社のバンの方を調べてみるが、荷台にはガムテープが1個置いてあるだけだ。包丁でがんばるしか無さそうだ。
ホテルの入り口に立つと、自動ドアの向こう側のロビーにゾンビがうろついているのが見える。
「イザベラさんの両親って何号室だ?」
「25階の907号室だよ」
「……気を引き締めていくぞ」
ホテルの入り口の自動ドアに近づくと、自動ドアが開いた。




