244.第一回Etranger大会-1-
ある程度目途が立ったので投下
定期的にカード達がドタバタ騒動を起こしながらも、穏やかな日々が続いていたメガフロート内での日常。
食糧を確保する為の漁や農作業を行い、一日を過ごせるだけの食事を用意したら、不漁に備えて残りの収穫分は冷凍して保管。
後は各々自由時間、ここで毎日営まれている、文字通りの意味で世界から隔絶された、代わり映えのしない日常。
そんな日常に、ほんの少しだけ、変化が現れる。
「何ですか? コレ?」
昴が経営……金銭が一切発生していないので経営と言うと疑問符が浮かぶが、営業しているカードショップ。
そこに、何やら大きなポスターが貼り出されていた。
昴が貼り出したその見慣れぬポスターを見ていたヘンリエッタが、昴に対して尋ねた。
「Etrangerの大会を開くんですよ。人数が集まらないなら、中止ですけどね」
このメガフロート内で、昴がカードゲームの布教を始めて、そろそろ一年が経過しようとしていた。
外界から隔離されている状態で、衣食住に不安も無く、時間は豊富にある。
この状態では余暇を過ごす娯楽はとても貴重で、Etrangerはここで暮らす人々のほぼ全員が手を出していた。
なので、一年の節目に大会を開こうと昴は画策した。
限られたカードプールの中、誰がどんなカードで戦うのか――それを、見てみたくなった。
「大会に優勝すると、特別なカードが景品として手に入りますよ」
「どんなカードなんですか?」
「それは、秘密です。ですが、パックからは出て来ない、特殊な加工がされたカード、とだけは言っておきます」
主催者は昴なので、当然景品の正体も知っている。
そしてその景品となるカードは、唯一無二のカードではない。
既に在るカード、もしくはこれからパックで登場する予定のカードである。
但し、加工が違う。
その光り方をしているカードは、この一枚だけ、というタイプの景品である。
「スバル様も参加なさるのですか?」
「私は審判を務めるので、参加しませんよ」
当然のように昴の隣に居たルビスに対し、否と答える昴。
ルビスは温泉街以降、何故か昴こそが本当の勇者だと確信しているようで、メガフロートに戻ってからはずっと昴に付きまとっている。
昴と会話する切っ掛けにする為なのだろう、当然ながらEtrangerにも手を出している。
ルビスは昴が参加するものかと考えていたようだが、それは違う。
昴個人としては参加したい気持ちもあるようだが、それでは司会進行やルール確認をする審判役が居なくなってしまう。
大会を円滑に進める為には、審判役が必須だ。
それが出来るのは、長年Etrangerに触れ続けて、効果処理やルールに精通している昴だけである。
「そうなのですか……でも、審判という事はその日もここに居られるのですよね?」
「そうですね」
「でしたら、ワタクシも参加致しますわ!」
昴の存在こそが行動理由のルビスなので、大会だろうが何だろうが、昴がそこに居るなら当然参加を表明するのであった。
時は流れ、大会開催日。
実際にカードを触り、Etrangerに興味を持った者達全員が大会に参加希望を出した。
人が足りなくて中止という予想が外れて、昴の表情も明るかった。
「……店長さんが笑ってる所、初めて見た」
信じられないモノを見たかのように、口元を手で被いながら、目を見開くサンドラ。
彼女はカードショップを開いてから、真っ先にカードを触り始めた、このメガフロート内におけるEtranger古参プレイヤーの一人である。
それだけ何度もここに通っていたという事もあり、昴もその顔を覚えていた。
恐らく彼女は参加するだろうなと、昴が予想していた一人でもある。
「そうですか?」
「そうだよ。何時見ても仏頂面っていうか、ぼんやり無気力みたいな顔してたからさー」
そして、顔を覚えているのはサンドラも同じであった。
何度も顔を合わせていれば、当然色々な事が見えて来る。
普段の言動や、趣味嗜好やら。
何時見ても光の宿っていない、死んだ魚のような目をしていた昴。
受け答えはしているが心ここに在らず、そんな状態だった昴だが、最近は目にも光が灯り、表情も変化するようになった。
時々だが、笑うようになったのだ。
声色にも、覇気とでも言うべきか、活力が宿ったようにも感じる。
簡潔に言ってしまえば、暗かったのが明るくなった。
「何か、変わったよね。良い意味で、だけどね」
クスリと笑うサンドラ。
どうして変わったのか、その原因まではサンドラには分かる筈も無いが。
それが好ましい変化である事は間違い無かった。
「そうですか」
サンドラの言葉を軽く流す昴。
今、昴の脳内は他の事を考えていられる程の余裕は無い。
時計を確認し、時刻が2時になったのを確かめる。
何故ならば……
「――では、時間となりましたので第一回戦、始めて下さい」
今、昴の頭の中は、Etrangerでいっぱいだからである。
大会開始時刻を迎える。
司会進行兼審判役である昴が、合図を出す。
第一回Etranger大会の開始である。
続きはちょっとずつ進めていく




