240.お料理対決!
おはよう! こんにちわ! こんばんわ!
私、勇者カシワギちゃん!
元々地球で暮らしてたんだけど、ひょんな事から地球では無い別の世界、異世界エイルファートに落っこちて(物理)もう大変!
これからどうしようと困ってたら、かわいいボロ雑巾のリッピや、親切なお姫様に助けて貰ったり、街中で暴れる悪い怪物と交戦したり。
他にも軍隊相手と戦ったり世界滅亡の危機とか色々大変な事があったけど、今日も私、元気に頑張ってますっ!
ちなみに今日は、広間に座らせられて食事が運ばれてくるのを待っている所です。
ドラムロールが鳴り響き、スポットライトがぐるぐる回っている。
「――御客様を唸らせる、最高の料理を作れるのは一体誰だ!?」
どうやらこれから、料理対決が始まるらしい。
広間の中央には、何やら色んな食材が山のように積み上げられている。
小型のキッチンも複数用意されており、各自ここで料理を作るのだろう。
審査員は俺一人である。
何故ならこれは、俺にふさわしい料理を作れる理想のお嫁さん対決だから! らしい。
俺、別に料理が作れる作れないで嫁判定下して無いんだけどなあ。
そりゃ作れた方が良いだろうけどさ。
料理を作るんじゃなくて、大好きな人と一緒に料理を食べる時間の方がとても大切だと思うんだよね、俺。
「それでは、本日の挑戦者はこちらでーすっ!」
異次元ツアーガイドが、マイクを手にして司会進行を回している。
ツアーガイドなので喋るのも得意なのだろう、すらすらと台本を読み上げている。
「エントリーナンバー1番、御客様の嫁は自分なのだから既に結論は出ているっ! アルトリウスさん!」
腕組みしたまま、自信に満ちた表情を浮かべている。
……そういや、アルトリウスが料理してる所って一度も見た事無いな、するイメージも無い。
刃物を振るわせたら最強だとは思うけど。
「エントリーナンバー2番、御客様の胃袋は私が掴むっ! ダンタリオンさん!」
普段のトレードマークである黒いとんがり帽子を外して、調理帽を頭に被っており、口元にはマスクまで付けている。
使い捨ての手袋まで付けていて、完全装備といった所か。
ダンタリオンも、あんま料理してるイメージ無いなあ……
料理のレシピ本なら読み込んでそうだけど。
「エントリーナンバー3番、私がこの場に立った時点で勝敗は既に決しているっ! インペリアルガードさん!」
何かもう、始まる前から終戦してるんですが。
猫の縄張り争いを止めるのに軍隊が来たレベル。
常日頃から俺の食事を用意してくれてるので、その腕前は良く知っている。
アルトリウスやダンタリオンが、インペリアルガードより料理が上手いイメージが湧かない……
というか、こういう企画に参加する辺り、インペリアルガードって結構ノリが良いのか?
「エントリーナンバー4番、外部からの参加者ですが面白そうなので許可! ルビスさん!」
「今まで磨き上げた料理の腕前、とくと御覧あれ!」
ナーリンクレイの元お姫様、ルビス・アステリズム・ルクスライトのエントリーだっ!
お姫様が料理かあ……いや、でも磨き上げたって言ってるし、料理の腕はあるのか?
少なくともアルトリウスやダンタリオンよりは、料理出来るのかもしれない?
「以上の4名に調理して頂きます! ちなみに私個人としては、料理の腕前だけで嫁の価値を決めるのはどうかと思う所です! それでは料理開始ー!」
異次元ツアーガイドがとても良い事を言った。
最後の掛け声と共に、会場内にドラが鳴り響いた。
ノリが昔の料理番組である。
各自、作ろうとしている料理の食材を確保するべく、食材の山へと駆け出していく。
取り合いにはならなかったようで、もしかしたら各々作りたいと思っている料理は散らばっているのかもしれない。
誰のを最初に食べるかは、料理が出来上がった順のようだ。
そして、一番最初に料理を終えたのはアルトリウスであった。
「出来ました」
皿に乗せられて出された料理は、串焼きであった。
厚手の肉を串に通し、火で炙り焼きにする。
ただそれだけ、シンプルな料理であった。
シンプルだからこそ、一番最初に調理を終えたのだろう。
「何よそれ!? そんな下手したら幼稚園児でも作れるような代物をよくもまあ料理と言い張れたもんね!?」
「これも立派な料理だ、腹を空かせてる旦那様を長々と待たせるようでは嫁として失格だと思うが?」
言い争ってるアルトリウスとダンタリオンは気にしないで、早速頂いてみる。
胡椒、それと塩が振られており、噛み締めると肉汁が口の中に広がる。
程良い塩辛さが食欲をそそり、気付いたら出された串焼きを全て食べ終えてしまった。
「どうですか旦那様?」
「うん、美味しいよ!」
「では御客様、採点をお願いします!」
「じゃあ、50点で」
「何点満点ですか?」
「100点満点で、50点」
「えっ?」
何だか意外、みたいな表情を浮かべているアルトリウス。
いや、あのね。
肉焼いて塩胡椒振ってドーン! ってさ、まあそりゃ美味いよ。
余計な事一切してないから、無難に美味いし。
でも、それだけなんだわ。
焼き加減位しか料理の腕が活きる部分が無いし。
素材の味が活きてます、そして、素材の味以上には行きません。
男気強過ぎる。
仕留めた動物をその場で捌いて、焼いて塩胡椒振ってもこんな感じになると思うぞ。
……あっ、もしかしてアルトリウスってそのノリでこれ出したのか……?
もしそうなら、料理が雄々し過ぎるぞ。
「では、出来た順という事なのでわたくしめが」
次に運ばれて来たのは、インペリアルガードの料理である。
お椀に入れられた、汁物。
「味噌汁です」
そう、日本人ならば一度は見た事があるだろう。
味噌汁、ただそれだけである。
他には一切何も付随していないが、これは今回の料理対決は一人一品までというルールに基づくものである。
多分、このルールが無かったら定食みたいな感じになったんじゃないかなあ?
一口啜ると、口の中に広がる味噌と出汁の風味。
具は、四角く切り揃えた豆腐、わかめ、そしてなめこ。
良く火が通っていて、柔らかい食材が多いので、するすると喉を通って行った。
心が落ち着く。
「うーん、これは80点。毎日飲みたくなるね」
「有難う御座います」
「おーっとこれは高得点だー! 流石インペリアルガードさん! 料理も一流だー!」
普通に美味しいし、さっきのアルトリウスと比べればちゃんと料理だったけど。
味噌汁単品だとね……ちょっと、物足りない。
一人一品制限が無かったら、ご飯とおかずも合わせて恐らく100点出してたと思われる。
その信頼が、インペリアルガードにはある。
「御主人様は小食なので、メインディッシュばかり来ても食べ切れないだろうと考えて、今回はあっさりとした汁物にしておきました」
インペリアルガードのやつ、そこまで考えて……!
読めなかった、このスバルの目をもってしても!!
「肉を焼いて料理とか言い張ってる奴に見せてやるわよ、本当の料理ってやつをね!」
「それはそれは。私の料理を先に食べていなければ旦那様がひもじく飢えているであろう、それを横目に長々と時間を掛けて作った料理とやらがどんなものか、是非とも見せて欲しいモノだな」
相変わらず、アルトリウスとダンタリオンのレスバが続いている。
仲が良いなあ(適当)。
ただ、ダンタリオンが何作ってたのかは匂いでもう分かるんだよなあ。
「カレーライスです! 好きでしたよね主人!」
そう、匂いを嗅げば一発で分かる強烈な香り。
香辛料タップリ、皆大好きカレーライスである。
カレーが嫌いな奴なんてあんま居ないんじゃないか?
俺も大好きです、そもそも嫌いな食べ物があんま無いけど。
人参、ジャガイモ、牛肉にタマネギ。
白米も炊き立て、福神漬けまで添えられている、完璧だ。
スプーンで掬い取って口に運べば、香辛料の比率とかが違うのかな、市販品のルーとは違う感じではあるが、俺の良く知るカレーの味わいが口いっぱいに広がる。
カレーの味が少しくどく感じて来た頃合いで、福神漬けを食べる事で口の中をリセット。
キッチリ完食しました。
うーん、お腹いっぱい。
「では御客様、採点をお願いします!」
「んー……そうだなあ、じゃあ70点で」
「これも高得点だー! しかし、80点のインペリアルガードさんにはあと一歩及ばず!」
「くっ……! で、でもアルトリウスには勝ったし!」
カレー自体は、とても美味しかった。
でも、ちょっと量が多かったかな……最後の方少し食べるの辛かった。
アルトリウスが初手からガッツリ肉! って感じで来たのもあるけど、もうお腹いっぱいなんだけど。
これ、インペリアルガードが味噌汁というアッサリ系で来てくれなかったらヤバかったかもしれない。
まさかインペリアルガードのやつ、そこまで考えて……!
読めなかった、このスバルの目をもってしても!!
「じゃ、主人もお腹いっぱいみたいだし、これで閉幕って事で」
「そうだな。この後はどうしますか旦那様?」
「ちょっとお待ちなさい!」
アルトリウスとダンタリオンが解散の空気を出し始めたが、それを察知し割って入って来たのはルビスであった。
二人揃って小さく舌打ちしたのが聞こえた、仲良いなお前等。
「勇者様にはワタクシの料理を是非とも食べて頂かねば!」
「悪いが、もう旦那様の腹は十分膨れたのでな、また今度にしてくれ」
「所で、何を作ってたの?」
「それは、これです!」
小さなカップに収められた、ぷるぷるの固体。
とても見覚えがある。
「プリンですわ!」
見た目だと茶碗蒸しとの二択だったが、具が見当たらないのでやはりプリンで正解だったようだ。
プリン、プリンか。
もしここで更に丼物とかがドーン! って来たら流石に無理だったけど、これ位なら食べられるぞ。
甘いモノは別腹理論。
スプーンで掬い上げ、口に運ぶと、優しい甘みが口に広がる。
カレーでくどくなった口内が洗い流されていくようだ。
カップの底には、ちゃんとカラメルもあった。
甘苦い風味は、俺の良く知るプリンそのものだ。
凄いな、ちゃんとプリンだ。
プリンって作るの難しくはないだろうけど、簡単でも無いと思うんだが。
日本で食べた市販品と何ら劣らない。
これを手作りで作れる辺り、ルビスの料理の腕は確かにあると認める他無い。
少なくとも、肉焼いて塩胡椒してるだけのアルトリウス以上なのは間違いない。
「では御客様、最後の採点をお願いします!」
「じゃあ80点で」
「何と! あのインペリアルガードさんと同点ですっ!」
「えっ?」
何か信じられないモノを見たのか聞いたのか知らんが、驚いたまま硬直するダンタリオンがそこにいた。
しょうがないじゃん、何か80点って気分だったんだもん。
というか、こんな俺の胸三寸で決まる採点に一体何の意味があるというのか。
いかん、お腹いっぱいになったせいか心の奥底に押し込めていたマジレスの頭が出て来た。
「……所で、あの残りはどうするの?」
肉焼いただけのアルトリウスはともかく、インペリアルガードや、特にダンタリオン。
この二人は余りが大量に出てしまっている。
味噌汁を茶碗一杯分だけとか、カレーを一皿分だけとか、手作りで用意するとなるとまあ、面倒よね。
鍋一杯分作るのが普通だし、俺が小食なのもあって、思いっ切り残っちゃった。
「夕飯として残りを出すか、もしくは捨てるかですね」
「私は主人以外に手料理食わせる気は無いから、主人が食べないなら全部捨てるよ」
「そうか……」
捨てる。
まだ食べられるのに?
勿体無い。
俺が小食じゃなければ全部食べるのに。
とはいえ、現実問題もうお腹はいっぱいな訳で。
というか、ここに積み上がった食糧もどうすんだよ。
俺一人しか食べる奴が居ないのに、こんなに用意しても食べ切れる訳無いって分かるだろ。
べちょり。
湿度と粘性を宿した音が、背後から響く。
振り向くとそこには――液体が、あった。
ちょっと濁りのある半透明で、固体の液体、とでも例えるべきか。
その液体は、水気の多い音を立てながらゆっくりと移動し、食材の積み重なったテーブルに辿り着くと、それを次々と呑み込んでいく。
液体の中に取り込まれた食材は、酸で溶けるかのようにボロボロと、黒く炭化していき、そして欠片一つ残さず分解していく。
更には食材だけでなくテーブルも、味噌汁やカレーも鍋ごと、次々に自らの内へと取り込み、消化していった。
「なっ、何ですかこれは!?」
突然の光景に、悲鳴を上げるルビス。
こんな良く分からんヤツが急に現れたらビックリして当然だろう。
えーっと、誰だコイツ?
見た目は……そう、スライムだ。
固体のような液体、という形状は正にスライムそのもの。
ただ、スライムって見た目の特徴が全然無いのよ。
カードイラストで見れば分かるけど、実体化した状態で見ても誰なのか分からん……
「グラットンじゃん、アンタ戻って来たんだ」
ダンタリオンが、その名を口にした。
グラットン、暴食の粘菌 グラットンか。
七つの大罪である『暴食』が元ネタとなった、カテゴリ:七罪の一体。
七罪というかスライムデッキの中核になるカードなので、こいつが居ないせいでずっとスライムデッキが組めないままだったのよね。
なーんでスライム呼び出す効果にターン1が書いて無いんだろうなー?
「このスライムはわたくしめ等の仲間ですので、警戒する必要はありませんよ」
「スライムまで手懐けているのですか……流石勇者様ですわ!」
「まあねっ☆ 勇者ちゃん様ってばさいきょーだからっミ☆」
七罪も徐々に揃って来たなあ。
まだ手元に無いのって誰だっけ……?
憤怒の化身 ラース
怠惰の偶蹄 アケディア
情欲の化身 アスモデウス
嫉妬の大海竜 レヴィアタン
暴食の粘菌 グラットン ←New!




