238.メガフロート殺人事件
カーテンの隙間から朝日が瞼越しに差し込み、まどろみから身体を起こす。
潮の音が僅かに聞こえる、何時も通りの朝だ。
身支度を整えて部屋から出ると、そこにはダンタリオンがいた。
どうやら、植木鉢に生えてる草木に水やりをしているようだ。
何か、見た事無い外見をしている。
草木なんだろうけど、何か妙に人型っぽい形状をしている。
目は無いが、丁度口の部分にハエトリグサみたいな形状の口が付いている。
いくつもの根っこが絡み合ったような腕が両脇から伸びていて、頭の上には双葉が手を広げるように生えていた。
「……何だそれ?」
「それじゃなくてこの子、ですね」
「この子?」
「ただの草じゃなくてマンドラゴラですよ、この子」
マンドラゴラ。
引き抜くと死ぬとかいう空想上の植物だっけか。
あれ? そういう名前の植物自体は地球にもあるんだっけか?
「何でこんな場所に」
「拾ってきました」
ダンタリオンから聞く所によると、以前ナーリンクレイで邪神の欠片との戦いに巻き込まれ、結構な範囲の木々が焼け落ちたらしい。
その焼け落ちた跡地でぐったりしてたのが、このマンドラゴラらしい。
「どうせあのままだったら毒と炎で死んでましたし、周囲の他の個体も全滅してたみたいですから、まあ良いかって感じで」
まあ良いか、というノリで持ち帰ったらしい。
それ、ええんか?
「ママ!」
そのマンドラゴラが一言、そう喋った。
妙に濁音混じりの声色だったが、確かにそう聞こえた。
マンドラゴラの声って聞いたら駄目なヤツじゃなかったっけ……いや、抜いてないからセーフなのか?
「そうそう、それとこっちがパパですよー?」
「ママ! パパ!」
「そう、パパですよー? 良い子だねー」
誰がパパやねん。
パパってガラじゃねえんだわ俺。
「こうしてると、何だか夫婦みたいですね……♪」
「そうか?」
うっとりした表情で、腕を絡めて来るダンタリオン。
柔らかい感触が伝わって来る。
このマンドラゴラが子供って事?
俺、子供育てる能力無いと自覚してるから、子供は作らんぞ。
熱っぽい上目遣いで、こちらを凝視するダンタリオン。
意味深に下腹部を擦っている。
それは一体何を意図してんだ。
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カーテンの隙間から朝日が瞼越しに差し込み、まどろみから身体を起こす。
潮の音が僅かに聞こえる、何時も通りの朝だ。
身支度を整えて部屋から出ると。
ダンタリオンが、死んでいた。
背中から剣で一突き、一目で分かる致命傷であった。
床には血だまりが出来ており、まるで血の湖だ。
ダンタリオンの背に突き立てられた一際目立つその剣は、湖の聖剣-カリバーン。
究極呪文に分類される、マジモンのパワーカードである。
さながら血の湖の聖剣ってか、喧しいわ。
「ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー? ママダヨー?」
「ゲ...ゲギョ...」
鉢植えのマンドラゴラの側でしゃがみ込んで、笑顔でオウムの如く同じ言葉を繰り返すアルトリウス。
その圧に気圧され、言葉に詰まったような小さな声で呻くマンドラゴラ。
その身体は微妙に震えていた。
「密室の中の死体! これは! 密室殺人!」
喫煙パイプを片手に、片眼鏡を掛けた一人の男が姿を現す。
声高々に、これは密室殺人だと断言した中年の男は、服装といい、頭に被った帽子といい。
創作で良くある、見るからにシャーロックホームズです、という典型的な見た目をしていた。
噂の迷探偵。
5マナの青文明ユニットであり、ファーストユニットとして出て来れる上限目一杯のユニットでもある。
つまりマナ数的には、アルトリウスと同格のユニットという事になる。
効果的には、ああコイツ何か変な事するんだろうなあ、と見た瞬間察するタイプである。
効果自体は手札増強とマナ加速なので普通に強いのだが、処理が運任せなので、アルトリウスの墓地肥やしと違って全然安定しない。
こいつの本領は、EFを使った後から発揮されるので、これ単体だと結構使い道に困るやつでもある。
そういえばあの服って、何て名前なんだろうか?
「この場所は、普段施錠されていて依頼人以外の人物がこの場に立ち入る事は出来ません。つまり、犯人はこの中に居ます!」
「な、何だってー!?Σ(゜ω゜ノ)ノ」
噂の迷探偵の発言を受けて、身体の動きで目一杯驚きを表現してみせるブエル。
こうやって好き勝手出たり消えたりしてる時点で密室もクソも無いんだが。
その気になれば実体化解除して普通にこの場から立ち去れるだろ。
「ですが、ご安心を! この私が来た以上、必ずやこの事件の真犯人を解き明かしてみせましょう!」
「やったのアルトリウスだろ」
「ママダヨー?」
アルトリウスは植木鉢を抱え込みながら、まだ呟いていた。
「状況を見るに、この凄まじい力を宿す剣で一突きですか、これは助かりませんね」
「その剣、使えるのアルトリウスだけなんだけど」
アルトリウスの名を持つユニットにのみ装備可能、っていう制約がある装備呪文なんだわ。
アルトリウス以外使用不可なんだわ。
装備のコントロール変更とか手札を奪うとかしても使えないんだわ。
装備対象不適切だと破壊されるからな。
「アルトリウスさんですね、貴女が第一発見者との事ですが」
「許せないから刺した、私を差し置いて旦那様と子育てまがいの事をするなど、断じて許さん! 旦那様と子を成すのは私の権利だ!」
「自白じゃん」
白状してんじゃねえか。
あ、ダンタリオンの死体が消えた。
というかそもそもカード達は死んだら消えるんだから、丸々死体が残ってるって状況がおかしいじゃねえか。
さっきまで生きてたのね。
あと、しれっと子作り宣言しないで。
「成程、この事件は迷宮入りですね!」
「お前何の為に出て来たんだよ」
推理をしろ推理を。
推理も何も無い状況だけど、せめて推理する振り位しないと探偵ですら無いじゃないか。
「ちなみにあの服、インバネスコートって言うらしいですよ主人」
「うん、補足ありがとうダンタリオン!」
被害者が復活してあのコートの名前を教えてくれました。
へー、あれってそういう名前なんだー。
何なんだこの状況。
198話で何やらコソコソしてたのは、この子を拾っていたのです。




