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237.変わり出す精神世界

 暗い暗い、闇の中。

 その闇の中に浮かぶ、無数の輝き。

 それは夜空に浮かぶ星々ではなく、一定間隔で切り取られた様々な空間。


 ここは、カード達が存在している精神世界。

 広大な闇の中、存在するカード達の数だけ、切り取られた空間が存在している。

 この精神世界の中で、カード達は各々、余暇に(ふけ)ったり、鍛錬に励んだり、昴の居る現実世界に睨みを利かせたり、昴のマナを使用して実体化してみたり――自由に過ごしている。


 何も変わらない、時の流れから切り離されたような空間。

 だが最近、この精神世界に変化が訪れた。

 一定周期で、闇夜から夕暮れに変化するようになったのだ。

 夕日が沈んで夜になり、そして夜が明けると……夕日が差す。

 朝が欠落した一日のようで実に不自然だが、何の変化も無いこの空間で唯一、時の流れを感じる変化であった。


 この変化は、ナーリンクレイでの戦いが終わった頃に観測されるようになった。

 何が原因でこのような変化が発生したのか、カード達に心当たりは――ある。

 だがそれは、今までを考えれば喜ばしい変化だったので、カード達もこれ以上この変化を深掘りする気は無かった。

 


 夕暮れの陽が差す中、上機嫌で鼻歌を歌うアルトリウス。

 アルトリウスは、浮かれていた。

 とっても、浮かれていた。

 何故なら、彼女にとって嬉しい事が立て続けに起きたからである。


 昴がやっと、笑ってくれた。

 昴から求められてしまった。

 昴が、自分に執着心を見せた。


 生きる屍に近しかった昴が、ようやく人らしい感情を見せるようになったのだ。

 色々な感情がアルトリウスにも向けられるようになったのだが、執着も情欲も、好きな人から向けられるのであらばこの上ない快感である。


「ああそうだ、あの二人への指導なんだが、他の奴等がやってくれないか? 何しろ私は旦那様(マスター)に、嫉妬、されちゃったからなあ! これからは安易に男に近付かないようにしなきゃな!」


 ニヤ付いている、とてもニヤニヤしている。

 普段のクールビューティーな感じの顔が台無しである。

 何処かで舌打ちの音が聞こえたような気がしたが、今のアルトリウスは湖の聖剣-カリバーンの効果適用状態位、無敵なので一切効かない。


「そうだな、ジャンヌ辺りが教えれば良いんじゃないか?」

「私は構いませんよ」


 ジャンヌは普段、ヘンリエッタ達と定期的に顔を合わせているので、その際に何度かトーマスやユウとも話していた事がある。

 知らない相手ではないので、教わる抵抗も少ないだろう。

 なのでこれからはアルトリウスに代わり、ジャンヌが剣を教えようと、二人の所を訪れたのだが。


「――こう、グワッて行ってグイッてすればズバーンって感じで!」

「…………」

「…………」

「駄目だ! こいつ教師として不適格だ!」


 ジャンヌは、確かに剣の腕は立つ。

 しかし他者に教えるという才能が、絶望的な程に皆無であった。

 なのでジャンヌに代わり、今度からはガラハッドが教える事となったようだ。


「――ユウと言ったな、君は剣以外の武器も試してみたのかな? もしかしたら、剣以外に道があるかもしれんぞ?」

「剣以外、ですか」

「戦う術は、剣だけじゃないという事だ。色々な武器を試してみろ、剣だけに全てを捧げる必要は無いんだからな」


 ジャンヌは教師としてへっぽこだったが、ガラハッドはそうでは無かったようで。

 トーマスとユウの力量を図りつつ、戦うにしてもどんな武器を使うべきなのか、それを見極めながら、様子を見る事にしたようだ。



―――――――――――――――――――――――



 恋敵(アルトリウス)が上機嫌なのが気に食わないダンタリオン。

 (マスター)の隣は自分のモノだと、勝ち誇っているのが気に入らない。

 その席に座る資格は、私にだってある筈だと、そう考えているダンタリオン。

 なので、調子に乗ってるアルトリウスを刺す事にした。


「でも主人(マスター)のハジメテは私のモノだけどね」


 調子に乗るな。

 お前が何をしようが、(マスター)の童貞を頂いたのは私だ。

 それだけは、何処まで行っても変わらない事実。

 (マスター)の初めての相手はアルトリウスではないッ!

 このダンタリオンだッ!


 ダンタリオンの挑発を――アルトリウスは、憐みの目線を送りながら、嘲笑った。


「必死に過去の思い出に縋らねば自己を保てないと見える。"旦那様(マスター)が最初に選んだ"のは、私だからな。もう決着はついたのだよ」


 この世界に来てから、昴は何度もアルトリウスやダンタリオンと(しとね)を共にしているが、それはあくまでも、二人が求めたから昴が答えた形である。

 カード達の望みは可能な限り叶えてやりたいと、二人の願いを叶えただけであって、昴本人から望んだ訳ではない。

 だが、昴は初めて、自分からアルトリウスに手を出した。

 誰も居ない二人きりの浴場、互いに生まれたままの姿で、据え膳の状況だったとはいえ、劣情に駆られて最初に手を出したのは昴の方であった。


 昴の方から求めて来た。

 それは、ダンタリオンに奪われた昴の貞操という、この世にただ一つしかない財宝の喪失、それを補って余りある程のモノであった。

 昴の身と心の内、心はアルトリウスを選んだと、態度で示したのだから。


「私が上! 貴様は下だ!!」

「今愛人(マスター)の下を自由にして良いって聞こえた気がするんだけど」

「「お前は来るな」」


 突如乱入してきたアスモデウスを息ピッタリで追い払うアルトリウスとダンタリオン。

 漁夫の利を狙う泥棒猫は断じて許さない。

 それだけは、アルトリウスとダンタリオンの間で暗黙の了解となっていた。

「良いじゃん減るもんじゃないし、ちょっと愛人(マスター)×××(ズキューン)借りるだけじゃん」

(マスター)は私の事が好きなのに……ッ!」

「なんかもー、聖上(マスター)ってば大変だねー (・3・)」

「とっかえひっかえ×××(バキューン)の乾く暇も無いってやつだねー!」

「ええい喧しいぞ貴様等! 旦那様(マスター)の女は私一人で十分だ!」

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