229.♂⇔♀
折角なので温泉街の散策でもしようと思う。
そう、散策だ。
温泉宿に着いたからといって、ずっと宿の中に引きこもっていなければならないという理由は無い。
決して逃げた訳ではないぞ。
「木刀がある」
何となくふらりと寄った土産物屋に、いくつも木刀が置いてあった。
木刀と言えば龍だよなあ、今は別行動中なのでここには居ないけど。
一緒に来てるメガフロートの人達と行動中なので、動向次第では何処かで出くわすかもしれない。
柄の部分には里美原と漢字で掘られてる、そう書くのね。
木刀って修学旅行先の定番のような気がするけど、温泉宿で売るのってどうなんだ?
何か良く分からない、格好良さそうな金属製のキーホルダーもあった。
店員によると木刀はあんまり売れないが、このキーホルダーは売れ筋らしい。
良く売れてるのか、人気無いかと思ったのだが。
温泉饅頭もあった、温泉といえばやっぱこれだよね。
「旦那様、指輪がありますよ」
アルトリウスが指差した先を見ると、めっちゃゴツい指輪……というかシルバーアクセがあった。
ドクロとか付いてるやつ。
「買って頂けませんか?」
何故か手の甲を上にして片手を差し出しながら、おねだりしてくるアルトリウス。
別に買うのは構わないが……アルトリウスには似合わないと思う。
いや、違うな。
そういう事じゃない。
「婚約指輪とか、そういうのじゃないからなコレ」
アルトリウスの眉が垂れた。
「そういうのが欲しいなら、ちゃんと考えるから」
ぱあっ、とアルトリウスが満面の笑顔を浮かべた。
どうやら推測は合っていたようだ。
「主人、私も欲しい」
便乗してダンタリオンも挙手してきた。
検討します。
「愛人、私も欲しい」
「お前は特定の相手に操捧げるタイプじゃねえだろ」
アスモデウスも便乗してきたが、結婚とか程遠い存在なのでお祈りメールを送りました。
男が恋人に求めるモノ、妻に求めるモノ、母に求めるモノ、それぞれ違うってのを何処かで見た気がするが。
アスモデウスは恋人に求めるモノだけが一点突破で尖がって、他が全て皆無なタイプだと思われる。
だってコイツが家事育児してる姿が全く想像出来ないもん。
育児放棄して男遊びしてる所だけはすげー想像出来るけど。
「えー? 愛人が望むなら不本意だけど愛人にしか××××使わせないしー?」
「公衆の場ではもうちょっと使う言葉選ぼうね?」
あと服装もね。
周囲に居る男の目が凄く分かり易いぞ。
その格好ちょっとでも激しく動いたらポロリしそうなんだよ。
アスモデウスは分かっててやってそうだけど。
「それにほら、設定上は初めてじゃないけどこうして実体化出来るようになった初モノ、愛人も召し上がりたいんじゃないかって、念の為ココ濡らして待ってるんだけど?」
「言い方」
しないぞ。
しないったら。
しないよ?
多分。
「ぶーぶー。これでも私、愛人の事愛してるのは本当なんだぞー? そうじゃなきゃとっくにそこらの適当な男相手にして×××の方使ってるっての」
当然の如く下ネタワードを連発するアスモデウス。
コイツ放置してると色々アカン気がする。
もうちょい取り繕え。
建物の影で、コッソリとこちらを凝視するインペリアルガードがいた。
よーく見ないと目を開けている事に気付けないが、どうやら開いているので凝視で合っている。
何かを訴えているような気がするが、何も言わずに影に引っ込んでしまった。
何だ一体。
「――何だとテメェ! 言い掛かり付ける気か!?」
「言い掛かりを言ってるのはそちらだと思うのだが?」
何だ一体。
声のする方に行ってみると、人相の悪い二人組の男が、女子供に絡んでいた。
というか、ジャンヌとヘンリエッタさん達だなあれ。
一緒の子供達を庇うように、ジャンヌが男達の前に立ちはだかっていた。
何かトラブルだろうか?
まあジャンヌが一緒なら武力行使されたら大抵捻じ伏せられるだろうけど。
それを見越して同行させてる訳だし。
「耳揃えて弁償か――それとも、コッチの方で払って貰うってのも良いかもなあ?」
男の顔に、嫌らしい笑みが浮かんだ。
その手がジャンヌの胸元に伸び――
「それ以上近付くなら、こちらにも考えがありますよ」
ジャンヌは、剣を抜いた。
「人の酒割っておいて! おい誰か! 衛兵を呼べ!」
良く見ると、男の足元には割れた瓶が転がっていた。
途中からしか見てないけどジャンヌ達の方を全面的に信じるなら。
状況的に男達が当たり屋したって事かな?
真実は違うかもしれないけど。
こういうトラブルを想定してメガフロートの人達にはカード達を護衛として付けてるんだけど。
うーんこういう手で来たかー。
シンプル武力想定しかしてなかった俺がちょい甘かったなあ。
割って入るか?
いや、でもなあ……
「あっ」
そうだ、丁度良いの居たわ。
―――――――――――――――――――――――
私は女。
私は別人。
私は似ても似つかぬ性格。
誰かを真似る、誰を真似る?
そうだなそれじゃあ――
「やあやあおにーさん。これは一体何の騒ぎだい?」
「ああ!? 誰だおめえは!?」
「こんな女子供に怒鳴り散らすなんてただ事じゃないと思って、ちょーっと気になっただけだよ。一体どうしたのさ?」
「どうもなにも! そいつ等が俺達にぶつかって来て折角の酒を台無しにしやがったんだ!」
「ふざけるな! 私は見たぞ! お前達の方からぶつかってきて、しかもわざと酒瓶を落としたのをな!」
ジャンヌが反論する。
やっぱり当たり屋だったようだ。
そしてジャンヌがそう証言するというならば、俺はその意見を全面的に信じるとしよう。
それが真実か嘘かは、どうでもいい事だ。
俺にとっての"真実"とは、カード達が在りのままでいられるように在る事だ。
「わざと落とすだと!? 良く見ろ! こいつはアルネールワインだ! 一本金貨50枚もする超高級品だぞ! わざと落とす訳無いだろうが!」
「ありゃりゃ、見事に割れちゃってるねえ」
割れた瓶に張られていたラベルを拾い上げると、アルネールという文字が確認出来た。
多分ラベルは本物なのだろう。
さて、中身は本物だったのかな?
挿げ替えた安物なんじゃねえのか?
残念ながら、俺にそれを特定する事は出来ない。
ちらっ。
頭は動かさず目線だけ動かすと土産物屋の柱、その物陰から、ダンタリオンがこちらを見ていた。
親指を立てて、それを自らの首に添えて、掻き切るジェスチャーをした。
ああ、成程了解。
「んー、じゃあこうしよう。私が金貨50枚を代わりに弁償するよ。その代わり、この子達は私が連れて行くけど、それで良いかな?」
「……払えるってんなら、良いさ見逃してやるよ。なら今すぐ、ここに、金貨50枚持って来いよ、持って来れるもんならな。言っとくが一枚たりともまからねえぞ?」
男達はそう言い切って、鼻で笑った。
こんな大金が払える訳無いだろうと、タカを括っているのだろう。
「はい、金貨50枚ねー。ちゃんとあるか確認してね」
なので、持ってくる。
正真正銘、寸分違わず、金貨50枚である。
本当に金を用意して来るとは思って無かったのか、男達は狐につままれたかのようだ。
「じゃ、これで問題解決って事で。行きましょ皆」
ジャンヌ達を引き連れて、この場を後にする。
そのまま留まってるとまたトラブルが再発するからな。
「申し訳ありません、どなたかは知りませんが助かりました。ですが、あんな大金を……」
「ああ、良いの良いの~。私の懐は全く痛んでないからねー」
そう、本当に痛んでないのだ。
ジャンヌの耳元で、小声でネタバラシをする。
「――呪文カード、複製を使ったからな。正真正銘この世界の金貨をコピーしたから、見分けなんか付かねえよ」
他のカードをコピーする効果のカードだが、この世界で使うと本当に、あらゆるモノをコピー出来てしまった。
そのコピーは、通貨にも有効だった。
発動には5マナが必要なのと、この5マナを引っ込めるとコピーが消滅してしまうので、無制限に好きなだけ増やせる訳ではないが。
こうして5マナを使っている間は、あの男達の所に金貨が残っているという訳だ。
当然、使わせない。
5マナは今回収しました、これであっちの複製金貨も消滅です。
後で文句言われても、ちゃんと払った、本物である事も確認させた、その後の事はお前等が金貨を落っことしたんだろとゴネて終わりだ。
ジャンヌが、困惑した表情を浮かべていた。
そういや、実体化したまま別行動してたから、アスモデウスが戻って来た事をジャンヌ達はまだ知らないのか。
見た目が女だから、頭の中にある俺と存在が合致しないのだろう。
「えっ……と……?? 団長……なんですか……?」
「Yes」
まさかこの世界の人達も、俺が自由に性別を変更出来るとは想定してないだろう。
女の状態で振る舞えば、どれだけ俺が目立ったとしても、男の俺に繋がる事は決して無い。
もう一人の自分を作り出せるとなると、この世界での立ち回りがかなり楽になるなあ。
面倒な事は全部女の自分に擦り付けてしまおう。
流石勇者ちゃん様!




