228.情欲の温泉宿-4-
情欲の化身 アスモデウスは、いくつか効果を有しているが、その効果は"性別"を参照するモノである。
己と違う性別――異性との戦闘では破壊されず、異性を誘惑し、そのコントロールを奪う効果。
男を魅了する魔性の女、傾国の美女、という事なのだろう。
だがアスモデウスはそこで終わらない。
何と自身の性別を女から男へと変更する事が可能なのだ。
魔性の女から魅惑の男へ。
男だろうが女だろうが、アスモデウスの美貌に溺れるのみ。
そして自身だけでなく――他者すら、その性別を変更してしまう事が可能なのだ。
4:【速攻】【条件】1ターンに1度
【効果】フィールドに存在するユニットを任意の数選択する。選択したユニットの性別が男なら女に、女なら男に変更する
アスモデウスの持つ第4効果によって、フィールド全てのユニットの性別を変更。
恐るべき、強制性転換効果。
しかもこれ、エンドステップまでとか書いてないのよね。
変更されてしまったら、フィールドを離れるまでずっとそのままである。
「それ、俺にも適用可能なのかよ」
俺にフィールドを離れるという選択肢が存在していない以上、外的要因で変更しない限りずっと女のままだ。
「いやー、まさか出来るとは思ってなかったのよねえー。あっでも、女同士ってのもイイわよぉ~?」
「良くないわい!」
俺はノーマルだ!
TS百合とかその世界は業が深すぎるぞ!
「というか、俺に対してカードの効果は効かないってのがダンタリオンの結論だった筈じゃ……」
「本当ですよ、どうするんですかコレ」
その結論を出したダンタリオンが姿を現わす。
このまま戻らなかったらと、少し心配しているようだ。
だが、この能力を理解してる俺とアスモデウスは特に心配してない。
「んー……多分だけどぉ? 七罪は例外なんじゃないのかなあ?」
七罪は、人の抱える欲望、七つの大罪をモチーフとしたテーマだ。
今まで戻って来た『憤怒』『怠惰』『色欲』は、俺の精神状態に連動して戻ってきているようだ。
俺の精神に深く影響されているが故に、逆に俺に対して影響も与えられる……のかもしれない、というのが七罪達の結論らしい。
「まあ、今までの感じで言うなら……どうせすぐアスモデウスの効果起動条件回復するだろ」
1ターン180秒。
それが経過すれば1ターンに1度の起動トリガーが復活する。
実体化したカード達が散々繰り返し検証結果を示してくれたので、それは確定だ。
更に言うなら、一度実体化を解除して再度実体化しても起動トリガーは復活する。
アスモデウスがこちらを指差すと、視点がまた変わった。
どうやら男に戻れたようだ、おかえり我が息子よ。
「んー、つまりアスモデウスの能力があれば、俺含めて性別を何時でも変更出来るって事か」
「そうなるねぇん」
……おっ?
これ、意外と便利なのでは?
―――――――――――――――――――――――
「――所で、気になってたんだけどさ」
宿貸し出しの浴衣に着替え、自室に戻って来た後。
俺に頭を預け、寄り掛かっているアルトリウスに訊ねる。
「何ですか?」
アルトリウスもまた、浴衣に着替えていた。
うん……やっぱり目が釘付けになるような美人だ。
カードイラストを見た時、あっこれ俺の嫁だと本能が叫んだだけある。
着崩した浴衣の胸元から立派な北半球がチラリ。
いかんいかん、思い出してしまう。
「前々から思ってはいたんだが、聞くのは失礼なのでは? とか思ってて聞けなかったんだが――」
こう、ね?
アルトリウスとダンタリオンに迫られて、望まれるがままに夜の情事とか、今まで何度もしてきた訳で。
やる事やってるなら、当然。
「カード達って、妊娠するの?」
男と女が同衾してるのだ、生まれるものも生まれるだろう。
けど、これってどうなるんだ?
「……ああ、何だ。そんな事ですか」
愛おしそうに、自らの下腹部を擦りながら、アルトリウスは続ける。
「勿論、するに決まってるじゃないですか」
「えっ? するの?」
「えっ? って何ですか、肉体があるなら妊娠だって出来ますよ」
不服そうに口を尖らせるアルトリウス。
改めて視線を下へと落とす。
「……実体化してこのまま、十月十日粘れば……」
「うーん、それは無理なんじゃないかなあ」
十ヶ月も何事も起こらず、平和に過ごせるとはとても思えない。
それに、アルトリウスばかりずっと出ずっぱりというのも、他のカード達に対して不公平というものだろう。
アルトリウスの事は大好きだが、それは他のカードを蔑ろにして良いという理由にはならない。
カード達が自由に過ごせる時間は、平等でなければならない。
「――私と旦那様の子供なら、利発で元気な子になってくれますね」
それはー、どれだけアルトリウスの血が濃くなるかによるんじゃないかなあ?
美貌、知力、武力、全部持ってるアルトリウスの子ならそりゃ優秀な子になるだろうさ。
カード達はやたらと俺の事を持ち上げるけど、俺、この力を差っ引いたらただの一般人よ?
俺の血が濃かったら、そりゃ凡人になるだけだ。
「でも俺、子供作る気無いぞ」
何を今更、と思うかもしれんが。
俺は、自分が子供を育てられるような立派な大人だとは思っていない。
だから不幸な子供を生まない為に、そもそも子供を作らない。
ただそれだけだ。
「大丈夫です、子育ても家事も家の稼ぎも妻の勤めも全部私一人で出来ますから。旦那様は子種だけ提供してくれたら後は家でゴロゴロしてたまに私の事を愛してくれるだけで良いですから」
何が大丈夫なんだ、それ全部一人でやるってどんな超人だよ。
超人だったわ。
物理的に時間が足りないだろと思ったけど、カード達って実体化解除したら睡眠も食事も不要なんだった。
アルトリウスならマジで全部やりそう。
それ、俺の立ち位置がヤリ捨てのクソ野郎かヒモの二択しかないんですが。
母親が育児してる中、隣でヒモやってる父親とかカスの極みじゃねえか。
「主人」
俺の正面、机を挟んで向かい側に、両手で頬杖を付いた状態でダンタリオンが姿を現す。
真っ直ぐにこちらを見ながら。
「私も主人との赤ちゃん欲しい」
開口一番、そう一言だけ口にした。
部屋の中を、沈黙が支配する。
その沈黙を破ったのは、ゆっくりと襖を開けて部屋に入って来たインペリアルガードであった。
後ろ手で襖を閉め、僅かに開いた目で、じーっとこちらを見詰めてくる。
何も言わない、それ以上誰も喋らない。
重いを通り越して圧迫感すら感じる静けさ。
ぬるっとアスモデウスまで現れた。
すっごい良い笑顔でサムズアップしてた。
「――よし、外でもブラブラするか!」
「では、車の準備を整えておきます」
このままこの部屋に留まるのは不味い。
何だか分からんが、俺の直感がそう叫んでる気がしたので、宿から脱出するべく、外出を提案するのであった。
逃げるんか?




