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220.一番ムズいのを頼む

第二部スタート

 国境の街 シャルガザール。

 商業都市郡 リレイベルの首都から見て、丁度真南に位置する場所にあり、国境の街と名にある通り、武闘国家 リィンライズとの国境付近にある街だ。

 リレイベルとリィンライズを繋ぐ重要な場所であり、百万人規模の人々が在住している大都市の一つでもある。

 そして当然ながら、これ程の大都市ともなれば仕事も沢山存在する。

 荷運びの護衛、積み下ろし、臨時の日雇い、近隣の魔物退治や失せ物探し……より取り見取りである。


 そんな数多の仕事、依頼人と日雇い人を繋ぐ仲介を担うのが、各国に支部を置く"ギルド"と呼ばれる存在だ。

 このシャルガザールにも、そのギルドは存在している。

 飾り気のない、レンガとモルタルで作られた二階建ての建物。

 そんな建物の正面入り口となる、木製の扉が勢い良く開け放たれる。


「ここが例のハウスね! んー、ここから私の出世街道全速前進うなぎ登りが始まるのね! 俄然やる気が漲ってキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」


 十人にも満たない、静かなギルドの受付に無駄に元気な……というより喧しい声が響いた。

 声の主は女性であった。

 少し癖っ毛がある黒いショートカットに黒い瞳、成人はしてるのだろうう、背丈は女性にしてはやや長身。

 シャーマンとでも言うべきか、呪術的な意味合いを持ちそうな摩訶不思議な衣服で全身を覆っており、その上から厚手のフード付き外套を着込んでいた。

 その女性は真っ直ぐにカウンターへと向かい、机の上にギルドカードを勢い良く叩き付ける。


「こんにちわ! 今残ってる仕事で一番ムズい仕事の紹介を頼もーう!」


 その女性のテンションに少し表情を歪めながらも、ギルドカードを確認する女性職員。


「……貴方の評価は最低ランクとなっておりますので、下水掃除や失せ物探し、近隣のコボルト討伐辺りが紹介できる限度となっています。そして、それ等の仕事は既に割り振りが終わっています」


 時刻は昼、既にギルドで働く日雇い労働の人々はとっくに現場に向かった後である。

 ギルド内が閑散としているのはそれが理由だ。

 こんな昼間から仕事を探しても、ロクな仕事は残っていないのだ。


「チッチッチッ! 私は"ムズい仕事"を頼むって言ったのよ。この私――"勇者"であるこの私に相応しい! 危険とロマンが溢れる冒険心をくすぐるような! そんな困難な仕事こそ、私が求めるモノ! だから良い感じにムズい仕事プリーズ」


 その女はやたらハイテンションで喧しい、わざとらしい挙動を交えながら手を差し出す。

 仕事をくれ、という意味を込めた手なのだろう。

 そんな彼女に対し、無表情のまま冷たい目で対応する女性職員。


「――そういう事でしたら、あちらからどうぞ」


 女性職員は、普段仕事が張り出されている掲示板ではない、その横にひっそりと置かれた、もう一つの掲示板を指し示した。

 そこにはいくつも依頼書が提示されており、選り取り見取りであった。


「んー、どれが良さそうかなー? こう、ビビッと来るのを精霊さん、教えて頂戴っ!」


 そう口にすると、黒髪の女は日焼け気味の、見るからに長期間塩漬けになってる依頼書を手にしてカウンターへと叩き付けた!


「この仕事やりまーす! それじゃあ行ってきまーす!」


 女性は元気良く、ギルドを後にした。

 その女性が立ち去った後、まるで嵐が過ぎ去ったかのように、再びギルド内は静けさを取り戻すのであった。




「――はっ、なーにが勇者だよ」


 黒髪の女が立ち去った後、ギルド内に併設された軽飲食店で食事を取っていた男の一団がポツリと呟く。


「最近増えてんだよ。ほら、聞いた事あるだろ? ナーリンクレイの国家存亡の危機を勇者様が救ったっていう」

「ああ、聞いた聞いた。新しい勇者が現れたって話だけど、結局どれも曖昧な感じだったからなあ」


 フィルヘイムに現れた、グランエクバークに現れた。

 そうは言うが結局の所、じゃあその勇者様とやらは何処に居るんだと。

 明確な答えは、何処にも無かった。

 フィルヘイムの時は民衆が混乱状態の中、邪神の欠片を打倒してさっさとそのまま姿を晦まし。

 グランエクバークの時はそもそも衆目が無い、そしてあった目は潰されてしまった。

 だが、ナーリンクレイの騒動の時、ようやく勇者の雄姿が衆目に晒されたのだ。

 この時代の勇者、ここに在りと。

 しかも、先代勇者がついぞ打倒が敵わなかったという、最悪の邪神の欠片を完全に討ち滅ぼしたという、歴史に名を残す戦いだ。

 遂にこの時代、この世界に、新たな勇者が出現したと、大衆に知らしめるには十分であった。


「結局、勇者は男なのか女なのか曖昧なまんまだろ? 姿形が分からないもんだから、俺も私も勇者だって、色んなヤツが名乗り出てんだよ」


 フィルヘイムの公式見解は男。

 ナーリンクレイで亜人達が見たと言われているのは女。

 グランエクバークは性別不詳だが勇者が現れたというのは確かだと公的に表明している。

 それ以外の場所でも勇者を見たと言う情報もあるが、女の騎士だっただとか、女の魔法使いだったとか、冴えない男だったとか、見事に情報がバラけていた。


 昴とカード達は、勇者像がボヤけるように意図的に振る舞って来た。

 昴という正体に辿り着かれないよう、カード達自身が自らを勇者だと自称し続けた結果、この世界の大衆にはこの時代の勇者である昴が、男なのか女なのか、どんな人物なのかが不明瞭のまま広がっている。


 そして――何時どんな世界でも、有名人を騙る者というのは現れるものだ。

 外見も性別も不明瞭である事を良い事に、世界中で勇者を自称する者がポツリポツリと出現し始めていた。


「じゃあさっきのねーちゃんもその一人って訳か」

「勿体ねえなあ、勇者騙るなんてアホな真似して……」


 先程、誰からも見向きされずに塩漬けになり続けていた仕事。

 黒髪の女が取ったのは、その中でもとびっきり危険で困難な内容――ドラゴンの討伐。

 一度人里に現れれば、あの邪神の欠片にすら匹敵する程の被害が出る、生きる災害、暴力の化身。

 ドラゴン退治などという、達成不可能な仕事を取って、そして失敗して帰って来るのだろう。

 結果、身の丈に合わない仕事を受ける馬鹿という烙印を押されて、その経歴に傷を自ら刻むのだ。

 いや、失敗して帰って来るならまだマシだ。

 あの依頼書は片道切符なのだ。

 行先はドラゴンの腹の中、帰りの便は残念ながら存在しない。


「美人……って程じゃねえが、娼館で出て来たらぼちぼち当たり位の見た目なのになあ」

「胸は無かったけどな」

「全体的に細かったからなあ、もうちっと肉付き良くねぇと抱き心地がイマイチなんだよなあ」


 先程の女性の外見に好き放題言う男達。

 だが、それを諫める者は誰も居ない。

 そもそもギルド内の人数が少ないし、更に言うなら……あの依頼書をわざわざ受けている時点で、アレは馬鹿女だ、というのがこの場に居る者達の共通見解になってしまっていたからだ。

第十章はサブクエ消化みたいな感じのストーリーになります

短い話が多くなるのでボリューム少なめ更新頻度高め(低め)な感じで行きます

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