218.勝利への一閃
最悪の災厄と呼ばれ、過去の勇者に苦渋の決断を余儀なくさせた邪神の欠片――"廃絶の狂信者"。
他の邪神の欠片の命を喰らう事で、幾度となく復活出来るという効果を有しており、ディードリッド達の策略により、前もって邪神の欠片を倒させる事により、膨大な復活コストを貯えた上で、昴と激突した。
だがその復活コストは、聖天戦女神 アルトリウスの鬼気迫る猛攻に晒され、全て溶け切っていた。
それでも最後の意地とばかりに、昴の真の切り札である、聖天戦女神 アルトリウスを道連れにして――果てた。
かつての勇者に辛酸を舐めさせた、最強の邪神の欠片は、今この時、遂に討ち滅ぼされたのであった。
「――ハ! ハハハハハハァァ!! どうだ! 耐えた、生き残ったぞ!! 貴様の真の切り札とやらも、ここまでだ!!!」
激しい戦いの中。
完全に意識の外へと逃れていた男――"烙印"のディードリッドは、勝利の雄叫びを上げた。
その声の主に、視線を向ける昴。
だがその目に、自らの切り札を喪失した焦りの色は存在しない。
忘れてなど居ない。
例え効果を無効にしようとも、この男は一撃で、昴の命を吹き飛ばせるのだから、脅威でない訳が無い。
「よもや"廃絶の狂信者"を、本当に殺し切るとはな! 流石の勇者様だと褒めてやろう! だが、どうやらとうとう万策尽きたようだな!? 知っているぞ、お前はカードとやらの力を行使するという"法則"で世界を歪める、それが貴様の力の本質! その法則は強固であるが故に、お前とて破る事は出来ない! そして、その力の代償として、お前自身は無力だという事もなァ!」
ディードリッドを守るモノは、最早誰も居ない。
そして、昴を守るカードもまた――何も無い。
聖天戦女神は、地に堕ちた。
ターンを終えれば、次に来るのは――ディードリッドからの、正真正銘トドメの一閃。
盾も無くなり、ライフも尽きかけ。
ディードリッドのパワーであらば、最早小突くだけで昴は絶命するだろう。
「……最後の最後で、足りなかったか」
「ああそうだ! 貴様は後一歩届かなかった!! 次に俺が動けるようになったその時が――」
「装備呪文か、治癒師 ブエル――その、どちらかで良かったんだけどな」
視線を向けたのは、僅かに残ったそのデッキ。
10枚に満たない、最早アルトリウスの効果起動が叶わぬ枚数。
そこに、墓地に送らなければならないカードが残留してしまったのだ。
低め、裏目、確率の闇。
大抵は起こる、それはつまり、逆に言えば低い確率で外すの裏返し。
昴は、最後の最後で――不運に、自らの足を絡め取られた。
それによって、本来想定していた動きをする事が不可能になってしまった。
「どちらかの条件さえクリアすれば、共喰いウロボロスが確定で墓地に送れる。その共喰いウロボロスすら、デッキに埋もれてしまったせいで……俺には、聖天戦女神 アルトリウスを破壊する手段が無かったんだ」
「……は?」
おかしい。
ディードリッドは、訝しむ。
目の前の男は、死を前にした恐怖を感じているように見えない。
間違いなく、切り札を失った筈なのに……どこか、余裕すらあるように感じられる。
「俺がこのターンで最大出力を出すには、共食いウロボロスが1枚で良いから、デッキから墓地に落ちる必要があったんだ。さっきまでは、落ちていた。だが、再転する運命は必ず全ての墓地をデッキに戻す。共食いウロボロスだけを残す事は出来ない。そして再転する運命を使用しなければ、道中のデッキコストが足りなくなる。だから、使わざるを得なかった。何故、共食いウロボロスが墓地に行かなければならなかったかと言うと――」
一呼吸置いて。
昴は、トドメの言葉を言い放つ。
「そうしないと、聖天戦女神 アルトリウスを自発的に破壊できないからだ」
「……何を」
「そして、デッキを削り切りながら聖天戦女神 アルトリウスの最大攻撃回数を叩き込む為には、あのデッキ枚数だと、墓地に装備呪文が3枚揃うか、治癒師 ブエルが落ちて攻撃回数を捻り出すか、どっちかを満たす必要があったんだが、そのどっちも駄目だった。だが――"廃絶の狂信者"が、相討ちという形で退場した。こうなると、話が変わる」
「何を、言っている」
例えるならばそれは、切り札の一撃を放つ為のボタン。
それさえ押せれば勝利に至れるのに、後一歩が届かなかった。
伸ばした指先は、ボタンに触れない。
そして敵は、そんなボタンを勝ったとばかりに嘲笑いながら――"踏み潰し"た。
最後の最後の不運により、昴は自分では最後の一押しが出来なくなってしまった。
だが――その一押しを、敵が押してしまった。
「お前がこのターンを生き残るには、この最後のタイミングで、"廃絶の狂信者"がパワー上昇効果を使わないのが条件だった。俺にアルトリウスを破壊する手段が無い以上、そうしてれば連続攻撃はここで終わりだった。ここから更に装備呪文を追放しようにも、カードを除外し過ぎてコストが足りないからな」
戦闘で勝利しては、聖天戦女神 アルトリウスは破壊されない。
"相討ち"でなければ、ならなかった。
「俺は、ただ最後の最後で運が悪かった。だが、そっちは最後の最後で致命的なミスを犯した」
立て直しが出来るだけの猶予があるならばまだしも――これは、最後の勝負所、土壇場での――ミス。
余りにも、致命的。
「悪いが……宣言させて貰うぜ」
――昴は、ディードリッドに対し、最早カードを持つ為だけの最低限しか残っていない、人差し指を突き付ける。
驕りも油断もない、確定した事実を高らかに宣言する。
「次など無い! ここがお前の、ファイナルターンだ!!」
英雄女王 アルトリウスの上に重ねる形で、聖天戦女神 アルトリウスは進化召喚された。
その聖天戦女神 アルトリウスがフィールドを離れる時、下に重なっていたカードも同時に、墓地へと送られる。
「――聖天戦女神 アルトリウスの最終効果! このカードがフィールドを離れた事で、墓地から英雄女王 アルトリウスを復活させる!」
6:【強制】【条件】このユニットがフィールドを離れた時
【効果】自分の墓地から英雄女王 アルトリウス1体を選択し、召喚する
朝の日差しを受けて、風に舞った黒髪が輝く。
例え肉体が滅びようとも、魂は死せず。
再び、戦場に英雄女王は蘇る。
「そして蘇った英雄女王 アルトリウスは、当然攻撃権利を残している! 俺は――英雄女王 アルトリウスで、"烙印"のディードリッドを攻撃!!」
昴の命に従い、ディードリッド目掛け踏み込むアルトリウス。
英雄女王 アルトリウス:パワー 2000
"烙印"のディードリッド:パワー 15000
例え、ディードリッドの効果は無力化されていても、純粋なパワー差は歴然。
そのままぶつかれば、必ず敗れる。
故に、先程刃を交えた際に力量を見抜いていたディードリッドは、嘲笑った。
「馬鹿が! 貴様との決着は既に先程付いている! 貴様では俺には勝てん!」
「聞いていなかったのか? 旦那様は、次など無いと言った筈だ」
アルトリウスは、ディードリッド目掛け、何も無いその手を振り上げる。
「その言葉が、どれ程の重みを持つか――」
振り上げたその手中に――輝きが、宿る。
「俺は墓地から、湖の聖剣-カリバーンの第5効果発動!!」
昴の言葉で、一度失われた筈の究極呪文が、再び世界に姿を現した。
「俺の盾ゾーンが1枚以下の時、英雄女王 アルトリウスを選択し、墓地のこのカードを装備する!」
その光は、今まで以上の強き光――太陽の如き、何もかもを光で焼き尽くさんばかりに、強烈な閃光を刃から放ちながら、ディードリッドへと振り下ろされる!
「この効果で湖の聖剣-カリバーンを装備した時! 対象のユニットのパワーは俺の墓地のカードの数×1000アップする!!」
5:【速攻】【条件】このカードが墓地に存在し、自分の盾ゾーンのカードが1枚以下、ゲーム中に一度
【効果】自分のユニット1体を選択する。このカードを選択したユニットに装備し、そのユニットのパワーを自分の墓地のカード枚数×1000アップする。この効果を発動した場合、このカードがフィールドを離れる時、代わりにマナゾーンに疲弊状態で置く
「俺の墓地のカードは22枚! よって――!」
英雄女王 アルトリウス:パワー 2000→24000
"烙印"のディードリッド:パワー 15000
手札も墓地も、盾もデッキも、命さえも、何もかも燃やし尽くした。
昴の持つ、持ち得る全て、全身全霊を叩き付けた。
これが、正真正銘――最後の一撃!
ディードリッドの足が、後ろに下がった。
アルトリウスの気迫に気圧されたか、逃げ腰になったのか。
真意は、分からないが――
「――その身で味わえ!!」
アルトリウスの放った、最後の一閃。
それはディードリッドの身体を頭頂から一刀両断に斬り裂き――その存在に、終焉を与えるのであった。
「これが――かつて環境を塗り潰した、進化ユニットの力だ!!」
勝利の一撃を叩き込み、昴は勝利の咆哮を挙げた。
日が差さぬ筈の世界に朝日が昇り、夜空と共に、カードが消えていく。
ナーリンクレイを揺るがした、邪神の欠片の襲撃、そして適合者と廃絶の狂信者との激闘。
それが今ようやく、夜明けを迎えたのだ。
「――アルトリウス」
昴の呼び掛けに、振り返るアルトリウス。
昴は微笑を浮かべながら、その片手を挙げた。
意図を察したアルトリウス。
昴の側へと歩みより、自らも片手を挙げて、その手を互いに勢い良く打ち鳴らすのであった。
「あっ痛……っ」
「す、すみません! ちょっと気分が乗って力が……!」
第一部最終決戦、完!




