212.蘇りし進化の力! Evolution Force!!-2-
堕ちた剣によって汚され、冥府へ堕ちた高潔な魂。
その歪んだ在り方を書き換え、勇者の魂としてヴァルハラへ導かれた、可能性の未来へと書き換える!
命ある者が種族も国境も問わず、その場で平伏してしまいそうになる程の、神域の輝きを背にし。
ただその場に在るだけで、大気すら揺るがす、圧倒的存在感。
言葉にすれば陳腐に感じてしまう程の、感嘆と祈りだけが注がれる存在。
それは正しく。
"神"そのものであった。
「なんだ――! この力は――ッ!?」
見た目が変わっただけではない。
先程までとは違う、膨大な魔力を注ぎ込まれた、他と隔絶した存在。
気圧されたディードリッドが、僅かに怯む。
「何だ? 怖気づいたのか? 無理も無い、何しろ旦那様は、今の今まで3割程度しか実力を出していなかったからな」
「……まあ、確かに"エヴォフォ"も"レゾフォ"も無しじゃ、3割が良い所だな」
ディードリッドを鋭く睨み付けながら、獰猛な笑みを浮かべるアルトリウス。
自らの動きを確かめるかのように、その翼を一度羽ばたかせるだけで、その余波は突風へと形を変えた。
そう、3割だ。
それが、今までのカードプールにおける、昴がカード達から引き出せる力の限界点。
これまでの戦いで、何度も何度も敵を圧倒し、時には理不尽な程に相手を磨り潰すような戦いもした。
それらを含めて――3割。
「――"エヴォフォ"と"進化ユニット"が戻ったなら。これで、やっと! 7割って所か!」
「だが、まだ全盛ではあるまい! それならば――」
「確かにそうだな。俺からすれば、30が70になっただけだ。だけど、そっちの視点じゃそうも行かないんじゃないか?」
その平均戦闘能力が、ここに来て跳ね上がった。
もう、ディードリッドの希望的観測は圧し折れている。
「EFは、"世界"が変わるぞ」
絶対的な世界の理にすら手を伸ばす。
それが黒だとしても白だと言えば世界が白に染まる、最早それは、事象改変能力と言って良い。
「30が70って事は、そっちからすれば2倍以上に数字が跳ね上がってるって事だ。こっからは、もう今までの俺達とは違う」
今、この時より。
昴とそのカード達は、神の領域に足を掛けた。
「展開速度、妨害力、制圧力、継戦力、供給力、破壊力! こっからは、ありとあらゆる全てが2倍以上だ!」
カードゲームの楽しみ方は、人それぞれである。
特定のキャラに愛着を持ち、そのキャラが使っていたカードだけでデッキを組む者。
ただひたすらに勝利のみを追い求める、ストイックなデッキ構築をする者。
昴の今のデッキレベル、そしてカードプールは――勝利を求める者の及第点、程度の領域に到達していた。
「それが何を意味するか――このターンで見せてやる!!」
語気が強まる。
今までとは違う。
昴の口調に、闘志が宿る。
知識だけで戦い続けた男に、ずっと燻ったままであった――闘志という、炎が宿ったのだ。
「貴様は、眠れる獅子の目を覚ましてしまっただけに過ぎん」
アルトリウスの言葉は、正にであった。
ずっと眠っていた昴の目を、覚まさせた。
「――感謝するぞ。貴様等は我が旦那様の魂に、再び炎を宿らせるに足る存在だった。見事な、『噛ませ犬』だったぞ!」
その一番の切欠はアルトリウスの言葉だったのだが、その言葉を口にするだけの切欠を与えたという意味では、アルトリウスの言う通りなのだろう。
「もうお前達は用済みだ。『雑魚』は早々に消え失せろ!!」
「アルトリウスさーん? 何か滅茶苦茶イキってない? そんなにハードル上げても、プレイヤーが俺って事を忘れてないか? 世界大会優勝者みたいなプレイング求められても困るぞ?」
「旦那様を、信じてますからね」
「そう言われちゃうとなぁ」
EFの登場は、エトランゼというカードゲームに衝撃と革命をもたらした。
超越デッキという新たな概念の登場により、様々なカードの評価が一変したのだ。
メインデッキに入らない、新たなカード。
そしてそこから飛び出す、今までのカード群とは一線を画す強力無比なるカード効果。
既存のカード群で立ち向かうのは厳しく、その圧倒的インフレを迎えた進化ユニットに対抗するべく、エトランゼプレイヤーは進化ユニットを用いざるを得なかった。
「ま、エヴォフォと進化ユニット使って良いなら――期待に応えられるだろうさ!」
メインデッキの役割も変わり、メインデッキの役目は切り札である進化ユニットへいち早く、確実に到達する為の踏み台としての役割が強くなった。
デッキの動きや自由度が大幅に高くなった事で出来る事も多くなり、この進化デッキという概念の登場はエトランゼのゲームスピードを格段に加速させるのであった。
――その速度は、余りにも速い。
このターンで、雌雄を決してしまう程に!
「――何じゃ、かなり旗色が悪そうじゃのう。ここは、戦略的撤退が正解かのぉ?」
昴達の意識がディードリッドに集中しているその瞬間、"冒涜"のアルティミシアは既に逃走の算段を付けようとしていた。
彼女が今まで収集し続けた、邪神の欠片、その細胞群。
その組織を取り込む事で、自らの能力として一時的に行使する事が可能という、万能に近い能力。
数多の効果を有した細胞サンプルを適切に使えば、昴から逃げ切れるかもしれない。
取り出したのは、今は亡き"暗躍"の生体組織。
逃げを打つというのであらば、これ以上に適したサンプルは無い。
相手が隠していた爪を見た。
その情報があれば、一度立て直し、今度は対策を打って再戦する事も出来るだろう。
次は負けない。
だがそれは、逃げ切れればの話だ。
「聖天戦女神 アルトリウスが召喚に成功した時、フィールド全ての黒文明の効果は無効となる!!」
1:【強制】【条件】このユニットが進化召喚に成功した時
【効果】フィールドに存在する黒文明の効果は無効になる
戦場一帯――所ではない。
頭上に広がる、天空全てを覆い隠さんばかりに、迸る光と魔力。
もし、このエイルファートを宇宙から見ているモノが存在したならば、ナーリンクレイを中心として、この星全てを飲み込まんばかりに眩く輝く光が観測出来ただろう。
「貴様等はここで――朽ち果てろ」
アルトリウスが手を掲げると、その光はより一層、輝きを強めた。
何処へ逃げようが、絶対に、逃がさない。
EFの力を得て、神域に至ったアルトリウスの効果は、正真正銘、神の力と言うべき代物。
邪神の欠片風情が、抵抗しようというのが烏滸がましい。
「な――なんじゃ……それは……っっ!?」
余りにもデタラメな魔力量、効果範囲が見て取れた、アルティミシアの表情が歪む。
普段の薄ら笑いが砕け散り、初めて焦燥の色が浮かんだ。
常に安全な場所から、有利な状況に身を置き続け、高みの見物という形を取り、いざとならば何時でも逃げられるように動き続けた。
だが、昴の一手で何もかもが変わってしまった。
風向きが変わり、昴はアルティミシアの更に頭上へと飛躍した。
見下ろされる立場となり、いざとなったらの逃げの一手……それが、根こそぎ無力化されようとしていた。
アルティミシアは初めて、"対等な戦い"という舞台に引き摺り出されたのだ。
自分が死ぬかもしれないという、今まで一度しか感じた事が無い恐怖に襲われていた。
死ぬのか? ここで? あの時のように?
その恐怖から逃れねば、逃れられない、逃れる為には――
「――アルティミシアアアァァ!!」
「それは、させんぞ!!」
ディードリッドが叫んだ。
それは自分だけ逃げる事など許さないという叱咤か、それとも、そもそも逃げる暇など無いが故の命令か。
どちらにしろ、アルティミシアに今、残されている選択肢は一つしかない。
退路は無い、逃げようと背中を見せれば、間違いなく背中から撃たれる。
前進以外に活路は残されていなかった。
年末年始は連続更新です
理由は今アクセル踏むタイミングだからです




