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210.目覚めし異邦人

 昴という男は、奇跡を起こせない。

 この異世界(エイルファート)において、昴は数え切れない程に奇跡のような所業を行ってきたが、それはカードの持つ力を理解し、カードの出来る範囲でやれる事をやっているだけであり、それは奇跡と呼ぶような事柄ではない。

 そして、運が絡むカードゲームという舞台においても、昴は奇跡を起こさない。

 磨き上げた構築のデッキを用いて最善手を求め、最善手が実行不可能ならば次善策を用い、次善策が駄目ならば妥協点へと着地する。

 今まで積み上げた昴の勝利は、カードの力と確率を制するデッキ構築という策によって成し遂げた物ばかりであり、運に縋るという、奇跡によって引き起こされた勝利は一つとして存在しなかった。



 ――昴が、己が生涯に刻む、奇跡などと言うモノがあるとすれば。


 それは、このただ一度のドロー。

 このドローこそが、最初で最後の奇跡(デスティニードロー)であった。

 


 運命(デッキ)が、書き変わる。



―――――――――――――――――――――――



 ――静かだ。

 降り注ぐ呪いの雨が大地を打つ音も、吹き荒ぶ風の耳鳴りも、あるはずの音は何も聞こえない。

 自らの胸を叩く、心臓の鼓動音が聞こえる程の静寂。

 全てが静まり返ったかのようだ。


 引き抜いたカード。

 それが何であろうと、今用いる事が出来る全てのカードを用い、俺の全てをぶつけると決めた。

 何しろもう、猶予なんてモノは残っていない。

 盾は全損、ライフも風前の灯火である以上、このターンしか動けるタイミングは存在しないのだから。

 残った全てを搔き集めて、それで負けたのであらば――未練も悔いも無い!


 これが俺だと、これが俺の目指したエトランゼプレイヤーの姿だと。

 カード達に胸を張って誇れるような在り方であろう。

 そして最後は、笑って終わらせると。

 そう、決めた。



 手を返す。

 ただただ純粋な祈りのみを込め、手にしたそのカードへと目を落とし――


 目を見開く。


 引いたカード、それは。


「――このカードは……!」



 頭に思い浮かべていたカード――では無かった。




 鼓動が一際大きく高鳴る。

 それは、俺がずっと探し続けていたカード。

 何度、胸中に思い浮かべても。

 決してこの手に収まる事は無かった。

 だから、そのカードの存在を、完全に無いモノとして考えて動いてきた。


 これ1枚があるか無いかで、大きく戦術の幅が変わる。

 何処にも無かったそのカードが、突如自らの手元に現れたのだ。


 何でこんな局面でこのカードが……!

 一瞬の驚愕、だが、妙にストンと腑に落ちた。

 理由は説明出来ないし、このカードなのは予想外だが、それを引き込む事自体には、不思議と納得している自分が居た。


 この1枚は、何度も使い続けた、とても良く知ったカード。

 そう、このカードは知っている。

 何百、何千、何万回使ったか、使われたか。

 覚えてすらいない。

 あって当然、使って当然で、それが無いからこそ今まで――


 脳内を走る、雷閃。

 闇を切り裂き、それは今まで存在していなかった新たな道を切り開く!

 崩れ閉ざされていた道筋が再び蘇り、活路が開いた。

 行ける道筋が、大幅に増えた。

 今までは使えない、候補に存在していなかったカード効果が脳裏を過ぎり、見える。


 小手先でも付け焼刃でもない、延命でもその場凌ぎですらない。

 一撃で盤面を引っ繰り返す。



 ――逆転勝利への道が!



「ふ……ハハ、ハハハ!」


 笑いが、止まらなかった。

 笑うと同時に、涙まで零れ始めた。

 堰を切ったかのように、感情の波が溢れ出てくる。

 まるで、今まで内に溜め込んだ感情を全て吐き出すかのように。

 自分の感情な筈なのに、止めようにも止められない、決壊したダムか何かのようであった。


 何だよ。

 何なんだよコレはよ!

 何処の物語の主人公だこの状況はよぉ!

 出来過ぎにも程があるだろ!

 俺は、主人公補正に恵まれちゃいない筈だってのに、これか!


「……命より先に心が壊れたか」


 目の前の相手(ディードリッド)が、見当違いな事をほざいた。

 ――いーや、違うね。

 過去に置き去りにしたままの心が、やっと取り戻せたんだ。


「笑えた方が良いだろ、って抜かしてた本人が、一度たりとも笑ってないなんてな。それこそ笑えない冗談だ」


 昔となんら変わらない、とはとても言えないけれど。

 それでも、今の俺は……とても、楽しい。

 本当、本当に――本当に久しぶりに、エトランゼを楽しいと感じている。


「成程確かに。過去の勇者が倒せなかったってのも納得だし、この世界で見て来た誰よりも、お前等が脅威である事は認めるよ。今までの俺のデッキじゃ、追い付けない程にな」


 心が昂ぶる。

 先程の俺からすれば考えられない程に、饒舌に口が動く。


「だったら俺も、昔懐かしの戦い方なんて捨てて、もう一つ上の(インフレした)次元の戦い方をしねえとな――!」


 まだ勝敗は決していないというのに。

 ともすれば、次のターンには自分が死んでいるかもしれないのに。

 

「このターンで見せてやるよ、たった1マナ、たった1枚の可能性(ちから)って奴を!!」


 今の俺は、本当にエトランゼが楽しくて楽しくて仕方が無かった。

 このターン、何をするべきか。

 熱意という動力を得て、思考の歯車が、今まで以上の速度と規模で回り始める。


「この程度の布陣で俺を――俺達を()れると! そんな舐め腐った判断! 正面から食い破る!!」


 ああ、やっと――やっとあいつ等(カード達)の隣に並べた気がする。

 進化の力(・・・・)は俺の手に舞い戻った。


「ここが敗北だと言うならば、天地を(かえ)して勝利に至るのみ!」


 だったら、見せてやろうぜ!

 俺達の本当の力、その片翼を!!


「リカバリーステップ、メインステップ! マナゾーンを疲弊させ、黒マナ2と白マナ1と虹マナ1を生成! 行くぞ、アルトリウス! この世界に、異邦人(おれたち)の力を見せ付けてやれ!!」



―――――――――――――――――――――――



 昴は、この世界へと流れ着いた時、余りにも弱くなっていた。

 それは、エトランゼというカードの腕前という意味ではなく、心が弱くなっていたのだ。

 持っていた筈のカードという力も失い、元々は強かったはずなのに、弱くなってしまった。

 その様は、有る意味退化と呼べるだろう。


「この"進化(・・)"で、劣勢を切り裂き! 再び旦那様(マスター)へ勝利を!」



 そして退化したモノが、必要に駆られて元へと戻るのは。

 見方を変えれば、それは"進化"と呼べるのだろう。



「黒マナ1を使用し――歪められし事象をあるべき姿へ! 究極の力を解き放て!」



 その"進化の翼"は――



覚醒呪文(・・・・)!」



 "世界"を、変える。

 


「  (Evolution) (Force)  !  !  」





 第九章

 ~Recall(思い出せ)"Evolution(進化の)Force()"~

 


 進化(エヴォリューション)ユニット 制限(リミット)解除(リリース)

 超越(エクシード)デッキ 限定解放 アクセス開始...


 明暗流転 英雄は闇夜の帳を破り、蒼穹駆ける白き天翼と至る

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