208.最悪の災厄 E《Elimination》F《Fanatic》-4-
――ここに来て、新手かよ。
冗談じゃねえぞ。
名称:"冒涜"のアルティミシア
分類:ユニット
プレイコスト:???
文明:黒
性別:女
種族:人/悪魔
カテゴリ:邪神の欠片
マナシンボル:?
パワー:1000
?????
?????
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?????
?????
?????
?????1度
【効果】フィールドに?????、無効にする
今、呪文を打ち消したのはコイツか。
詳細な効果は分からんが、コイツもディードリッド同様、呪文を打ち消す効果を持っていると見るべきだ。
そして……多分、ディードリッドの効果は本当に、1ターンに1度だけしか使えないんだ。
連発出来るというなら、2枚目の命の天秤もディードリッドが消せばそれで済む話だ。
それが出来ないから――隠していた伏兵を持ち出した。
"冒涜"のアルティミシア、という切り札を。
「俺だけで倒せるなら、取り越し苦労だったという話で済むだけだ。勇者がそう容易く倒せる訳が無いからこそ、お前を潜ませておいたんだろう」
「結局、ワシも働かざるを得ないという訳か……トホホ」
白衣の下から、あれは……メスか?
刃物を取り出した"冒涜"のアルティミシアの直接攻撃が、迫る。
今のライフは1250、一応、パワー1000なら受けても耐えられる。
だが、相手の効果が不明な状態、このギリギリのライフ、受ける訳には行かない。
アイツが連続攻撃系の効果を隠し持ってたら、終わりだ。
盾で受けるならばまだしも、ライフで受けるのはリスクが高過ぎる。
「このカードを含む手札を全て追放する事で、希望のアーチを発動」
名称:希望のアーチ
分類:カウンター呪文
プレイコスト:赤緑青白黒○
文明:無
カテゴリ:
マナシンボル:虹
このカードはマナを支払う代わりに、このカードを含む自分の手札を全て追放して発動できる
このカードの発動に対し、お互いのプレイヤーはカードの効果を発動できない
1:【速攻】【条件】ゲーム中に1度
【効果】墓地のユニット1体を選択する。選択したユニットの召喚コスト×2枚のカードを墓地から追放し、そのユニットを墓地から召喚する。このカードをバトルステップ中に発動した場合、そのバトルステップを終了する。
どうせ、今は使い物にならない手札だ。
手札を全て破棄すると、その手札が虹を描きながら、地面へと吸い込まれていく。
このカードに関しては、相手に無効にされる心配は無い。
この効果を無効にするのもカード効果なのだから、発動が出来なければ無効にしようが無いからな。
「俺は、墓地からコスト5のユニットを召喚する」
か細い糸ながらも、少しでも未来を掴める可能性が高いユニットを選択する。
選択するのは当然――このデッキの、中核。
「墓地のカードを10枚追放し、英雄女王 アルトリウス、召喚。その後、バトルステップを終了する」
空から大地目掛け、七色の閃光が突き刺さる。
天に昇った魂を、再び現世へと呼び戻す虹の架け橋を、アルトリウスが滑り降りるように駆け抜けて、再び戦場へと舞い戻る。
その後、バトルステップ強制終了の効果により、攻撃の手は止まる。
「うおっと、危ない危ない……やはり勇者というだけあって、一筋縄では行かんのぉ」
「前に出過ぎるなよ、勇者の息の根は俺が止めてやる。お前は援護だけしてればそれで良い」
「言われんでも、ワシに荒事を期待するなという話じゃ」
これで、このターンの首は繋がった。
……さて。
どうせ次ターンを考慮しても、使い道の無い手札だからと全て追放した訳だが。
これで、俺の手札は0。
次のターン込みでマナは5になるが、俺は次にドローした、たった1枚のカードで、この局面を打破しなければいけないという事だ。
呪文を潰して来る、ディードリッドが健在の状況で、だ。
そして先程の動きを見るに、あのアルティミシアという女も同様の効果があると見た。
つまり、2妨害。
俺の手札は、0。
今。
今、この時こそが。
勝負を分かつ分水嶺だと、俺の直感も知識も信号を発している。
相手の見えている妨害、そして隠し持っていた妨害、それを今、吐いたのだ。
唯一、勝機を手繰り寄せられるのはこの瞬間だけ。
このターンに何が何でも動かなければいけないのに。
マナも尽きた、手札も尽きた。
次のターンが来れば、マナと手札は回復するが。
同時に、ディードリッドの妨害効果まで回復してしまう。
それでは駄目なのだ、それでは届かない。
フィールドを、墓地を、マナゾーンを、確認しても、確認しても。
認めざるを得ない事実が、突き付けられる。
手数が、足りない。
「――そうか」
うっすらと、ではなく。
割とくっきりと、頭の中に浮かび上がって来るモノがある。
盾は既に全て剥がされ、ライフも最早風前の灯。
残りの手札、盤面に今の相手を倒せる余力は無く、手数が枯渇した状態では見出せる手が無い。
侵食曇天蓋の影響で、アルトリウスの攻撃無効化も使えない。
そもそも、使えたとしてもデッキ枚数も僅か。
元々苦しい状況で、駄目押しの増援。
ゼロに近い、小数点以下の確率であろうとも、可能性があるならばそれを手にする事は有り得るだろう。
だが……次のドローで、この状況を突破出来るカードは、このデッキ内に存在していない。
そもそも存在していない、0%は、どう足掻いても手にする術は無い。
「ここが、俺の死地か」
この世界の誰も彼もが、俺の事を勇者だなどと呼ぶけれど。
俺は、勇者なんかじゃない。
物語の中のように、魔王を倒してハッピーエンドだなんて、そんな理想を実現出来る程に強くない。
何故なら、運が絡むカードゲームという戦場において、必勝なんていう言葉は存在しないからだ。
何時どんな時でも負ける可能性はあり、負ける時は成す術も無く負ける事もある。
丁度、今のように。
反撃の手立てが一切無い状態で相手からターンを渡されるような、傍から見ればまるで嬲り殺しのような惨状になる事も、ままあるものだ。
こうして勇者と呼ばれた男は、真の強敵と出遭ってしまい、その化けの皮を剥がされて、敗れ去る。
元々、ただの小市民にしか過ぎない俺にとっては、お似合いの結末だろう。
「カードという戦いの中で死ぬのなら、まあ……満足、だな」
人は、遅かれ早かれ死ぬ、それだけは絶対不変の事実。
なら……Etrangerという戦いの中で死ねるのならば、悪くない。
それに、死ぬのであらば――あっちで、父さんや母さん、春樹とも会えるだろうしな。
デッキに、視線を落とす。
「お前達のお陰で、俺の人生、本当に楽しかった」
俺の半生は、エトランゼというカードゲームと共に在り続けた。
エトランゼのお陰で、俺は沢山の人達と知り合う事が出来た。
カードを通じて、仲間も出来た。
今は全て無くなってしまったけれど、それでも、思い出として俺の中で輝き続けている。
降参はせめて、しないでおこう。
それが、ここまで俺に付き合ってくれたカード達に対しての礼儀だろう。
キチンと、最後まで決闘の中で死のう。
「――旦那様」
山札に手を伸ばそうと――その時、アルトリウスから声が掛かる。
その声の方を見上げる。
「こんな半端な、つまらない決着で満足出来るのですか? ここで……本当に、終わりなのですか?」
こちらに向けて振り返った、雨で濡れたアルトリウスの顔に――悲哀の表情が、浮かんでいた。
影が差す、とはこの事なのだろう。
普段の美しく、凛々しいアルトリウスの姿は、そこには無かった。
「旦那様、貴方はまだ満足なんて出来ていない。だって旦那様は、本当に心底満足出来たのなら。その決着の勝敗に関わらず――」
――笑っていたではありませんか。
「もう――笑う気力さえ、残っていないのですか……?」
必死に、涙を堪えているような……そんな表情で、吐露した。
―――――――――――――――――――――――
アルトリウスの言葉が、反響して頭から離れない。
難解な言葉ではない筈なのに、鉛のように重たく、思考が働かない。
何を言っているかが、理解出来ない。
この世界に来てから、俺には何故かエトランゼのカードを具現化する力が備わるようになった。
一枚の紙ではなく、現実の目の前の出来事として、カード達の活き活きとした姿を、この目で見る事が出来、共に感じる事が出来た。
最愛のカードであるアルトリウスと、一方通行の関係ではなく、相思相愛であったという事実も分かり、そんな愛するカード達と共に過ごせる毎日が、楽しいモノでない訳が無かった。
同じモノを見て、聞いて、楽しんで。
一緒に泣いたり、笑ったりして――
一瞬の空白の後――気付く。
アルトリウスの言葉の意味に、気付いてしまう。
底の見えぬ谷底へ転落していくような、恐怖が心を染め上げていく感覚。
光届かぬ深い深い水底の如き闇で、目の前が塗り潰されていく。
元居た地球所か、こんな異世界に来てからでさえ。
俺の中に、"笑った"という記憶が何処にも見当たらない。
最後に、笑ったり、楽しいと思った時って――何時だ?
笑っていない――?
俺は、笑って無かったのか――?
肉体を得て、こうして目の前で活き活きと在り続ける、カード達の姿を見続けていた筈なのに。
そんなあいつ等と一緒に、輝かしい日々を共に送っていたというのに。
俺は、楽しいと思う事すら無かったのか――?
俺は、エトランゼを楽しんでいなかったのか?
「嫌だ――」
それは、己の過去の全否定。
「――嫌だ……!」
それは、己が積み上げた仲間達の全否定。
「嫌だ!! そんな事! あっていい訳が無い!!」
それは、カードという相棒に対する最大の裏切り。
エトランゼは、友も家族もいなくなった、俺に残された最後の思い出。
これすらも無くなったならば、最早それは俺では無くなる。
必死にしがみ付いて、執着し、これだけは、これだけはせめてと、抱えて守り続けていたつもりなのに。
その輝きに、俺は自ら泥を塗っていたというのか。
それは、死すら上回る恐怖であった。
目の前が真っ暗になっていくような、錯覚。
頭を抱え、クシャリと頭を掻き毟る。
そんな筈無い、だって、俺は――
ある筈のモノが無かった事に気付いた、喪失感に苛まれる。
不意に、目の前が光ったような気がして――
LP:1250→625
そこで、意識が途切れた。




