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204.それが"償い"だから

 歓迎会でどんな事があったのか、カード達から聞き取り調査をしている内に、何処かのタイミングで寝落ちしていたようだ。

 起きたら朝ではなく真っ暗闇であった。

 生活リズム乱れてるなあ、もっと健康的な睡眠リズムにしないと。

 このメガフロートって昼夜の概念が無いに等しいから、意識してないとすぐ生活リズム崩れるな。

 そんな事を考えながら窓辺に近付き……何か外が騒がしくない?

 賑やか、って感じでは無い。



 この空気――あの時のような――



「おはようございます、御主人様(マスター)

「全然はやくないけどな、何が起きてる?」


 俺が起きたのとほぼ同時なんじゃないか、ってタイミングで即座に姿を現した、インペリアルガードに状況を尋ねる。

 何でも、俺が寝落ちしたのとほぼ同時位に邪神の欠片が大量に襲撃してきたらしい。

 なにそれ聞いてない。

 だけどそれはカード達が既に殲滅し終えたらしい。

 なにそれ聞いてない。

 そして戦いに巻き込まれた現地の人々を救助している最中――また、邪神の欠片が現れたらしい。


「なにそれ聞いてない」

「わざわざ報告するまでもないと判断しましたので、こちらで処分を終わらせた次第であります」


 俺の知らない所で何か凄い物事が進展してたようだ、報告は欲しかったなぁ。

 邪神の欠片を倒すというのは、エルミアとの約束だ。

 それが償いである以上、俺に逃げる事は許されない。

 俺は、それを成さねばならないのだから。


「ですが、どうやら今回もそうは行かないようです」

「すまない団長(マスター)、後れを取った。負傷してた以前ならまだしも、万全の状態で撃ち負けるのは流石に想定していなかった」


 戦場から戻って来たハイネから、報告を受ける。

 "(Elimin)(ation)狂信者(Fanatic)"と呼ばれる、厄名持ち(ネームド)邪神の欠片(ディザスター)

 遥か昔の勇者によって封印されていた筈の存在が、今はその封印から解き放たれ、こちらに向かって進んでいるらしい。

 その進攻を阻むべく、バエルとハイネの両名が交戦したが、バエルは負傷、ハイネ達は砲撃によってまとめて消し飛ばされた、との事。


「……撃ち負けた? お前等が? 不意打ちとかじゃなくて?」


 伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)撃ち(バトルで)負けただと?

 事実上、必ずバトルで勝利するって効果に等しいこいつ等が?


 単純な戦闘耐性なら負ける訳が無い。

 信じられない位の数値による暴力なら、そんなヤツが暴れてこの世界が無事で済む訳が無い。

 ふーん、成程。


「じゃあ行くか」


 壁に立て掛けたエアフロートボードを手に取り、外へと身を乗り出す。

 ……言葉で言い表せないが、何だか嫌な臭いだ。

 だが、行かないという選択肢は無い。


主人(マスター)、アイツ、私が想定していた以上に危険極まりないです。バエルが一度倒したらしいのですが、結局復活されました」

「でしょうね」


 俺の隣を追走するように現れるダンタリオン。

 伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)が真っ向から打ち破られてる時点で、もう明らかにヤバい。

 この世界で何度も邪神の欠片と呼ばれている存在と戦って来たが、その中でもとびきり一番危険だと見た。

 昔の勇者が勝てなかった、というのは嘘でも誇張でも無さそうだ。


「ん? 一度倒せたの?」

「バエルの言葉を信じるなら、どうも一回倒したようです。結局、蘇ってバエルやハイネの姿と力を利用されましたが」


 伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)を真正面から倒すようなヤツを、バエルは倒したのか。

 効果破壊は通るって事?

 しかも一回倒したのに、蘇ったのか。

 それで、カード達の力を利用された?

 ふーん、成程。



 空を飛び続けていると、顔に水気が当たり――当たらなくなった。

 ダンタリオンが雨に当たらないように透明な防壁を展開したらしい。


「もう、ここからは邪神の欠片の勢力圏です。この地では常にこの雨が降り続いているそうで、雨に当たると少しずつ、あらゆる生物の生命力が奪われていきます」

「えっ、雨降ってるの?」


 それヤバいって。

 カードが濡れるじゃん。

 えっ、もしかして逃げた方が良い?


 とかそんな事を思ったが、ダンタリオン曰く、俺の手持ちカードは雨に濡れた程度では汚損しないらしい。

 普通、カードは濡れたら一発アウトなんだけどなあ……

 アレか、濡れると駄目になるけど濡れないし、手で破れるけど鉄や岩を断ち切れる強度があって、手裏剣のように突き刺したり光ったりする謎素材で出来てるって事ですか?

 何か魔法的な不思議パワーによる保護が働いてる?

 でもまあ、濡れても大丈夫って事なら雨天でも安心か。




 闇に包まれた夜空を飛び続ける。

 メガフロートから飛び立った時は星明りがあったのだが、空は曇天に覆われ、完全な暗闇となったこの場所では、俺の目で何も見る事は出来ない。

 光を灯しながら先導するダンタリオンが居なければ、平衡感覚を失って墜落していたかもしれない。

 何も見えない闇夜だが、何らかの戦闘音だけは聞こえる。

 音を頼りに――いや、見えた。

 何か凄い炎とか雷とかでめっちゃ光ってる、絶対あそこだろ。


 岩位しか転がっていない、何も無い地面に降り立つ。

 雨が降っているはずなのに、不思議と地面がぬかるんでいる感じが無い。

 常に雨が降り続けるというのも気象としては不自然過ぎるので、何か魔法的な雨の類なのかもしれない。


「――遅かったな」


 俺達を視認した、一人の大男がそう呟いた。

 フード付きの外套を羽織った、筋骨隆々の大男。

 短く切り揃えた茶髪、無精ひげの映えた浅黒い肌には、細かい古傷が刻まれていて、一目で分かる強者(ツワモノ)の風貌。

 金属的な防具を身に付けている様子は無く、戦士として見るなら余りにも軽装過ぎる格好。

 俺は別に背が低い訳ではないんだが、相対すると二回り位背丈で負けている気がする。

 縦にも横にもデカい、巨漢というのは正にこういうのを言うのだろう。

 そして、その巨体に匹敵する程の巨大な剣。

 業物とかそういうのを見極める目が無いので分からないが、無駄な装飾が無くてとにかく頑丈そうだとは思った。

 その手にした大剣で、バエルが胴体を貫かれていた。

 誰が見ても分かる、致命傷。

 重量感を一切感じさせない、棒切れでも振るっているかのように軽々しく、大剣をバエルから引き抜く。


「一足先に楽しませて貰ったぞ、お前がこの時代の勇者という訳だな」


 地面に斃れ伏し、黒い雨に打たれるバエル。

 挑発するように、その亡骸を踏み付けようとして――バエルの姿が消滅した。


「お楽しみの所悪いけど、私達に死という終わりは無いから。徒労お疲れ様」


 逆に挑発し返すダンタリオン。

 そう、例え何度死のうとも、俺という存在がある限り、カード達に死は訪れず、無限に復活(リスポーン)し続けられる。


「ほう、そうか。ならその言葉が本当か、試してやろうじゃないか」


 そう言った、大男の背後から――黒い影が飛び出す。

 大男の頭上に現れたのは、身体を構成するその全てが黒で染まり上がった、大男と全く同じ形状をした存在。

 手にした黒い大剣を――大男に向けて振り下ろす!

 ん? 何で?


「蜈カ縺ョ蜻ス縲?螟ゥ縺ク縺ィ驍?&繧」


 理解出来ない、言葉にならない声を上げながら、振り下ろされた大剣は大地を砕く!

 既にその場に大男は居らず、距離を取りつつも、いざとならば踏み込める位の、絶妙な間合いを確保していた。

 何でそっち攻撃した? 俺達の方じゃないの?


「――この、"(Elimin)(ation)狂信者(Fanatic)"がな!」

「デカい口叩いといて、他力本願とか情けなくならないの?」

「挑発のつもりか? 何も響かんな。この世は弱肉強食、強者が全てを得て、弱者は朽ちるのみ。そして強者というのは、最後に生き残った者の事を言うのだ。さあ、以前の勇者は先送りという手段を取ったようだが、今回はそうは行かんぞ。先代勇者がついぞ打倒するに及ばなかった、"(Elimin)(ation)狂信者(Fanatic)"。見事討ち果たして世界を救ってみせろ、"勇者"とやら!」


 何か、大男とダンタリオンが舌戦を繰り広げているようですが。

 結局の所、俺がする事は変わらない。



 邪神の欠片の打倒。

 それが、エルミアに出来る唯一の償い。

 償いから逃げる事は許されない。

 最期のその時まで、戦い続けるだけだ。



交戦(エンゲージ)

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