202.Recall"EF"-1-
夜の帳が落ちる。
人々が寝静まる筈のこの時間は、怒声、悲鳴が入り混じる、混迷の時と化していた。
救助の為に走り回る足音、痛みに耐え兼ね呻く者、家族を喪い、涙する者。
未だ多くの人が残された、民の居る市街地に向け――
「何だ?」
「雨……?」
雨が、近付いていた。
その黒い雨は、命在るモノから生命力を奪い、ゆっくりと、しかし確実に、その命の火を吹き消していく、遅効毒の如き呪いの雨。
黒い雨の中から、何か巨大なモノが動く、足音のような、引き摺る地鳴りのような、音が響いてくる。
その音の中心、そこ目掛け。
「――どれ、貴様が本当の強者か、それとも虚仮威しか、この世自ら見定めてやろう!」
黒き巨体が根差した大地、それ諸共を呑み込むかのように。
闇夜を紅く照らす、巨大な炎球が天より落ちた。
大地ごと焼き尽くす、太陽の具現化を思わせる炎の球体が、更に黒い球体に呑み込まれる。
さながらブラックホールの如く全てを吸い込み、何もかもを超重力で圧縮、縮小していき――
「ちょっと!? 独断専行しないでよ!? そんな事するから不覚を取るんでしょ!?」
「ええい! 昔の事をネチネチと! だが見ろ!」
後から追い付いたダンタリオンに以前の失態でチクチクと刺されるバエル。
しかし二の轍は踏まぬと、バエルは指差す。
「どうやら、悪魔王たるこの世の前では手も足も出なかったようだな!」
バエルの大規模魔法攻撃によって、その大地に巨大なクレーターを刻みながら、その全てを消し去った。
元々、長年呪いの雨に晒された影響で草木も何も無い荒野だったが、そこには何も無くなっている。
「……本当に?」
「殺した手応えはあったからな」
疑わしい目で見るダンタリオン。
そして、その懸念は的中してしまう。
何もかもを消し去ったクレーターの中心部。
何も無い空間からドロリと、黒い泥が溢れ出す。
その泥はあっという間にその体積を膨らませ――
巨大な、灰色の波動がバエル達目掛け放たれる!
殺したと、油断していたが故に、不意打ちで放たれたその閃光を避ける余裕は無かった。
だが、咄嗟にダンタリオンの魔法防壁が展開され――
それ諸共、バエルとダンタリオンは光に飲み込まれた。
地面に叩き落とされるダンタリオン。
死にはしなかったものの、戦闘不能になる程に負傷していた。
バエルは、地に墜ちるという醜態こそ晒さなかったが、無傷とは行かず、防御すべくかざした腕の表皮が焼け爛れていた。
「やっぱり……倒せて、ない、じゃない……!」
「耐えた……否、蘇った……か?」
黒い泥は、ぐねぐねと形を変えていく。
巨大な体積が小さく小さく、圧縮され――
「――貴様」
非常に不快だとばかりに、表情を歪めるバエル。
何しろ――
その黒い泥は、悪魔王 バエルの姿を写し取っていたのだから。
「どうやら一度死んだだけでは物足りんようだなァ! ならば貴様が本当の死を迎えるまで、何度でも殺し尽くして――ッッ!?」
怒りのままに、自らの有するありとあらゆる魔法を、その黒い泥――"EF"に向けて叩き込むバエル。
「逾槭?貊??縺ゅl縺ィ險?繧上l縺溘??謨?↓豸医∴繧九∋縺」
その魔法を、バエルと同じように無数に放つ"EF"。
炎の弾が雷の剣で切り裂かれ、嵐の刃が隕石によって圧し折られ、氷の槍は鋼の岩盤によって阻まれる。
あらゆる魔法攻撃が空中で衝突、相殺され、膨大な熱量と爆風、閃光と轟音が響き渡る!
虚仮威しではない。
正真正銘、"EF"はバエルの力を写し取っていた。
「お――おのれえええええぇぇぇぇ!! 悪魔王たるこの俺の姿を模倣するのに飽き足らず――!」
かつて、滅んだ国一つを消し去った悪魔王 バエル。
もし、その力を模倣したというならば……それ即ち、国一つを滅ぼせるだけの力を持つ脅威が生まれたという事に他ならない。
その脅威が、ナーリンクレイの首都へと向かっている。
「――そのまま空中で釘付けにしろ!」
一体誰に命令していると、怒髪天を突きそうになるが、それを喉元辺りで押し留めるバエル。
自分の力で及ばぬのならば。
「「「「支援砲火!!!!」」」」
戦場をちゃぶ台ごと引っ繰り返せる火力で、何もかも消し飛ばしてしまえばいい!
その馬鹿げた火力だけは、72魔将の王であっても、到達は不可能だと認めているからこそ、目的の為に甘んじてトドメは譲る。
白と赤の交じり合った閃光が、ハイネの槍の中で飽和し、周囲へと溢れ始める。
伝説の魔法戦隊の全力全開。
「リミットブレイク・エクシードブラスト!!」
その砲撃が放たれる、その瞬間。
「なっ――!?」
邪神の欠片の姿が、変わる。
黒く塗り潰したバエルの姿から、ぐねぐねと別の姿へ、その手には黒い槍砲が握られ――
黒い泥で練り上げた、ハイネの姿が。
引き金を、引く。
「繝ェ繝溘ャ繝医ヶ繝ャ繧、繧ッ繝サ繧ィ繧ッ繧キ繝シ繝峨ヶ繝ゥ繧ケ繝」
同時に邪神の欠片からも、闇の閃光が放たれた。
伝説の魔法戦隊の総力を結集した、正真正銘の最大火力。
その一撃が――拮抗する!
「隊長!?」
「この破壊力――!? 見た目の模倣だけでは、ない……!」
「馬鹿な――ッ!? あの火力馬鹿共ですら――!?」
パワー192000という、何かと比較するというのが馬鹿々々しくなる程の超火力。
その一撃に、"EF"は食らい付いている。
有り得ない状況に、カード達は戦慄する。
ことパワー勝負において、伝説の魔法戦隊に勝てるやつは早々居ない。
それが、伝説の魔法戦隊に対する昴の評価だ。
万を超える種類のカードが在る為、例外的に勝つカードも当然存在するから、絶対に居ないと断言する事は無い、が。
こういう評価を昴がしている時は、その一点においてはカードの中でも最上級クラスの力が在ると言っているのに等しい。
戦闘においては無敵と言っているに等しい程の存在に対し、真正面からぶつかり、それに拮抗しているというのが、どれ程の異常事態か。
「……昔の勇者が書き残してたから、そういう性質があるのは知ってるつもりだったけど……! 本当に殺しても蘇るし……それに、バエルの姿も、それにハイネも……力も写し取るなんて……!」
かつて、古の勇者ですら打倒が敵わず、封じるしか無かった、世界を滅ぼし得るだけの力を持った邪神の欠片。
半信半疑だった内容が、真実だと確信したからこそ、絶句するダンタリオン。
「――もしかして、この邪神の欠片、"模倣"するの……!?」
かつて、この邪神の欠片と戦ったという古の勇者が残した、悔恨の記録。
姿を変える、邪神の欠片。
その姿を変えるというのが、相手の力を参照しているとすれば。
ハイネの持つ、極大攻撃力を、写し取った。
だが、その砲撃は拮抗している。
拮抗しているという事は、勝ってこそいないが、負けてもいないという事。
ならば、今ここで自分達が踏ん張れば、それだけナーリンクレイの人々が逃げるだけの時間を稼げる。
その為ならば、喜んで捨て石になってやろうと覚悟を決めるハイネ。
どうせ、自分達の命は仮初め。
この死は終わりではないのだから。
しかし、その拮抗していた状況は長くは続かなかった。
少しずつ、じわじわと――ハイネが、押され始める。
邪神の欠片――"廃絶の狂信者"と、ハイネの力量は互角。
だがこの場には、もう一つ、戦いの趨勢を左右する要因が存在する。
世界を蝕む、黒き呪いの雨。
その雨は、そこに在る命から生命力を奪っていく。
それはハイネ達も例外ではなく、僅かではあるが、その力を削り取っていき――
「俺が――撃ち負け――!?」
「不味い!!」
その僅かな差が、致命傷。
ハイネの一撃が、真正面から、押し返される。
ハイネのパワーを写し取った"EF"の一撃は、伝説の魔法戦隊総員を黒き光で消し去り――
その直線状にあった、全てを消滅させた。




