198.邪神の欠片掃討戦-3-
巨大な城に覆い被さるように伸ばされた巨木の枝葉、自然と調和したこの城こそがナーリンクレイを象徴する存在であり、この国を統べる王族の住まう城、メルルキア城。
その亜人種族達の象徴たる城目掛け、殺到する邪神の欠片。
今、この場には先日の歓迎会に参加するべく集まった、数多の王侯貴族が存在している。
彼等をまとめて殺められるような事があれば、この国の屋台骨が圧し折れる。
この邪神の欠片による襲撃も、それが狙いだろうか?
余りにもタイミングが良過ぎる。
恐らく、以前遭遇した"適合者"と呼ばれる者による意図的な襲撃なのかもしれない。
故に、襲撃を押し留めるべくアルトリウス達はこの場で踏み止まっていた。
敵の数は五体……だったのだが、既に数は二体まで減っていた。
伝説の魔法戦隊の砲撃によって、三体が消し飛ばされた為である。
「「支援砲火!!」」
「ぶっ潰れろォォォ!!」
他二人の支援を受け、伝説の魔法戦隊 グラッツの振り下ろした戦槌が、地上にクレーターを刻みながら更に一体、邪神の欠片を屠る。
これで、残り一体。
トカゲの双頭に鳥の翼、蛇の尾が生えた、キメラ型の邪神の欠片のみ。
「で? アイツどうすんだよ?」
「既にこちらの手は試した後です、アレは、私達ではどうにもなりませんよ?」
その一体が、倒せない。
シズ、グラッツ、リリスの三名に出来る手段では、打倒不可能という結論が出ていた。
「隊長が居てくれたらどうにかなるかもしれないんだけどなー、今は街中に出たっていう邪神の欠片の対処に追われてるみたいだしー」
「隊長に任された以上、俺等でどうにかするしかねえだろ」
「とはいえ、手詰まりですが……! 攻撃、来ます!」
トカゲの口が開き、片方からは紫の炎、もう片方からは緑の炎が吐き出される!
炎の吐息は周囲の草木を燃やしながら、同時に腐らせていく。
森の中の逃げ遅れた動物が、その炎に巻き込まれた。
強酸でも浴びたかのように肉が溶け落ち、骨を剥き出しにしながら燃え尽きていく。
恐らく、単純な熱量だけでなく、毒性も含んでいるのだろう。
カード達には回避という手段が残されているが、城と、城に居る非戦闘員には逃げるという手段が取れない。
「倒せないなら倒せないなりに、攻撃を続けろ! 相手に攻める隙を与えるな!」
城目掛け殺到した毒を含むその炎は、城門の前で突如、境界線でもあるかのように押し留められた。
あらゆる攻撃を遮断する、白銀の防壁、英霊の領域。
この防御がある限り、アルトリウスを抜く事は出来ない。
城と人々を守る最終防衛ラインとして、アルトリウスは無傷のまま、城門の前に君臨する。
「で、それ後何回使えるのよ?」
「1回だな、旦那様の所に戻れば話は変わるが、またこっちに戻る時間が無い以上、それで事実上私は戦線離脱だな」
英霊の領域の使用回数を訪ねるダンタリオン。
邪神の欠片の猛攻を防ぐ為に使用し続けたが、無限に使える訳ではない。
この効果は、カードゲーム上ではデッキ枚数という使用コストが伴うモノ。
この世界のルールではデッキ枚数などというモノは存在しないので、使えはするが、使用回数には上限があるという事実は変わらないようだ。
「最悪、私も使うか。ハズレ引いたら死ぬけどね」
ダンタリオンにも、アルトリウスと類似した防御効果が備わっている。
だが、アルトリウスと違うのは、その攻撃無効効果は、確定ではないという事だ。
呪文カードがめくれないと、効果が不発になる。
この世界のルールにおいても同様なようで、一定確率で失敗する能力である。
「死んだら主人の所から出直しだけど、そしたらこっちに向かった方が良い?」
「不要だ、その時は旦那様の護衛に努めろ。ここは別に、絶対死守せねばならん対象ではないからな」
邪神の欠片を倒す、それが昴からの指示だ。
だがこの城や、城に居る王侯貴族達を守っているのは、ついでだ。
それに、必ず守らねばならないという程の、義理も無い。
倒しはするが、倒すまでの間にある程度の犠牲が出るのは許容する。
その犠牲で、この国が混迷に満ちるような事があろうとも――そんな事は、昴やカード達の知った事ではない。
見殺しにするという選択肢を取る事だって出来るのに、それでもやる事はやっているのだから、それでこちらを責めるのはお門違いというモノだ。
力押しの突進は、伝説の魔法戦隊が跳ね除けてくれる。
純粋なパワー勝負でなら、こちらが勝っている。
だが、それでも殺す事が出来ず、相手が毒炎の吐息を吹き掛けてくると、どうしても引かねばならない。
恐らく、その毒性は伝説の魔法戦隊にとって致命的になると直感的に察しているのだろう。
そしてその余波を押し留める為に。
「――これで、もう使い切りだ! 後はお前等でどうにかしろ!」
アルトリウスの英霊の領域、使用回数が底を突いた。
もうこの能力で、城を護る事は出来ない。
「……あー、こっからは博打になるわね。一回目で失敗しても文句言わないでよ?」
「その時は、お前が死ぬだけだ」
「まあ、その時は主人の側から一切離れる気は無いから、後はこっちで何とかしてよね」
再び、邪神の欠片の口から火の粉が迸る。
毒性を宿しているが故に、物理的に受け止めるという手段が取れない為、魔法的な手段で止める以外に無い。
既にアルトリウスの防御回数は0となり、ダンタリオンの効果は不安定。
戦線崩壊の予兆を感じながらも、ダンタリオンがその攻撃を防ぐべく、その毒炎の前に立ちはだかり――
「テメェは好い加減――!」
邪神の欠片の顎下から、振り上げるように、叩き付けられる木刀!
その一撃は顎を閉じさせるだけでなく、その顎を叩き砕き――
「くたばりやがれこのトカゲ!? 鳥!? 蛇!? 何なんだテメェはハッキリしやがれオ゛ル゛ァ!?」
体勢を崩した邪神の欠片、その頭部に向けて、龍の木刀が振り下ろされた!
怯んだその瞬間が好機だとばかりに、そのまま木刀で滅多打ち、怒涛の乱打を叩き込む!
トドメとばかりに放った最後の一突きが邪神の欠片に突き刺さると、それが致命傷だったのだろうか、断末魔の叫びを上げながら、邪神の欠片は黒い泥になったかのようにその場で溶けて……絶命した。
「ったく、俺のダチ共を焼き殺しやがってこの化け物がよぉ。これで借りは返したぜ」
龍の連合仲間は邪神の欠片との戦いの最中で既に全滅しており、この場には居ない。
だが、龍だけはその場で踏み止まり、邪神の欠片相手に暴れ続けた。
そう、暴れ続けたのだ。
バトルを続ける限り、龍のパワーは青天井で上がり続ける。
そのパワーはやがて邪神の欠片のパワーを超えて――
3:【永続】【条件】このユニットが戦闘を行う相手ユニットのパワーがこのユニットのパワー以下の時
【効果】そのユニットの効果を無効にする
龍の効果で、相手の効果を無力化した上で、殴り倒したのだ。
伝説の魔法戦隊ではどうにもならなかったという事は、恐らくこの邪神の欠片には、何らかの破壊耐性が存在したのだろう。
だが、そんな耐性があったとしても、その相手が龍のパワーより低い相手ならば、その全てを無視して打倒する!
これこそが"壊し屋"と呼ばれた龍の力。
まともに殴り合える相手ならば、例えそれが神だろうと殴り殺す!
「……何だ、アンタまだ生きてたの?」
「勝手に殺すな!」
「蘇って来る気配は……流石に無いか」
残心、周囲を警戒するが、追撃の様子は無し。
『すまない、手間取ったがこっちも最後の一体を倒し終えた所だ。今からそっちの救援に向かう』
「不要だ。丁度今、こちらも最後の一体を倒し終えた所だ」
『そうか。なら……こっちに手を回して欲しい、被災した民間人の救助が必要だ』
「それはこの国の兵達や医者がするべき仕事だろう? 私達には関係無いな」
『なら俺達だけでも勝手にするさ、シズ、グラッツ、リリス、連戦の後だが行けるか?』
「問題ありません」
「救援活動は一分一秒、だろ? 任せとけ!」
その場から消える伝説の魔法戦隊達。
逃げ遅れ、被災した民間人の救助に向かったのだろう。
まこと、軍人の鑑である。
「さて、では私達も戻るか……何をしている? 戻るぞ」
「ん? ああそうね、さっさと戻りましょうか」
毒の炎で焼け落ちた森の中、しゃがみ込んで何かしていたダンタリオンだが、何時までもここでぼんやりしている訳にも行かない。
邪神の欠片を倒すという、昴の目的は果たした。
ここから先は国の仕事だが、救命活動をして文句を言われる事も無いだろう、手伝いたいヤツは勝手にすれば良いだけだ。




