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196.邪神の欠片掃討戦-1-

 自然と共に在るという様式で作り上げられた、美しきナーリンクレイの城下町は、邪神の欠片という暴力に晒され、その営みを破壊されていた。

 石を組み上げて作られた家屋は邪神の欠片の体躯で容易く押し潰され、その身体から生えた腕のような触手が振るわれる都度、屋根が吹き飛ばされ、鐘楼が根本から圧し折れる。

 我先に逃げようと大通りを駆け出した人々の一団にも、その触手が振り下ろされた。

 地面に敷かれた石畳が吹き飛ぶ程の衝撃が走る。

 ただその一振りだけで、数十もの命が、潰えて消える。

 命だったモノは、遺体という形ですら残らず、土砂交じりの合いびき肉と成り果てた。


 十秒、二十秒、三十秒。

 たったそれだけの時間、邪神の欠片が暴れるだけで、次々と罪無き命が消えて逝く。

 戦う力を持たない一般人に抗う事は出来ず、ただただ逃げ惑う事しか出来ない。

 街中に偶然居た兵士達が応戦を試みるが、手傷を与える事はあっても、殺すには至らない。

 そして、自らに敵意を向けた者に対し、反射的にその腕が、足が、牙が振るわれ、立ち向かった勇気ある者を殺めていく。


「――先ずは貴様だ!」


 予定ポイントに飛び込むかのような勢いで移動するハイネ。

 既に手にした槍は砲撃形態へと移行していた。

 角度良好、射線確保。


「エクスチャージブラスト!」


 構えると同時に即射!

 伝説の魔法戦隊(馬火力)が、邪神の欠片を一撃で屠り尽くす!

 現れた邪神の欠片の中でも、一際体躯がデカかった個体であったが故に、その一射を受ける事となった。

 上半身を綺麗に消し飛ばした上で尚余りあるエネルギー砲撃は、遥か天空の雲すら蒸発させ、空へと消えていった。

 これでも、ハイネは街中に被害を出さないように威力を加減しているのだ。

 射角という制限がある中、それでも自らの役目を果たすべく、街中を駆ける!


 怯えて、泣き崩れる子供が居た。

 逃げようとしている最中、負傷した者が居た。

 そんな彼等彼女等を横目に、ハイネは邪神の欠片へと猛進する。


「港に迎え!」


 擦れ違いざまに、ただ一言だけ言い残す。

 港には、昴を守る為にバエルが控えている。

 その近くならば、例え邪神の欠片が人々を追って来たとしても、バエルがそれを排除してくれるだろう。

 本当に、最低限の避難誘導。

 可能ならば人命救助をしたいのがハイネの心情だが、今すべきは、一分一秒でも早く、邪神の欠片という脅威を排除する事。

 それが延いては、彼等彼女等を救う事にも繋がる。


 一つの家族が、子供を抱え、逃げようとしている最中だったのだろう。

 血の匂いと恐慌の空気を感じ取った赤子が、火が付いたように泣き始める。

 鳴き声に反応したトカゲの形状をした邪神の欠片が、その一家の命を吞み込もうと口を開けて――


「寝てろ!」


 断頭台の如く振り下ろした刃で、邪神の欠片の頭部を叩き切るハイネ。

 だが、この邪神の欠片は一体ではなかった。

 家屋の壁に張り付いて、ハイネを頭上から食らい付こうとして。


 口を開く間も無く、砲撃形態へと変化した槍砲の光の波動で消し飛ばされる。


 ハイネの頭上にあるのは、空だ。

 射線上に敵以外の何モノも無いならば、砲撃を躊躇う事など無い。


「次はどっちだ!?」

『攻撃体勢を維持しろ、今飛ばす(・・・)


 高所から状況を俯瞰(ふかん)する、援軍からの通信音声を受けて、ハイネは再び攻撃体勢を取る。

 次の瞬間、切り取られたフィルムを繋ぎ合わせたかのように突然、目の前の状況が切り替わった。

 人々に向けて襲い掛かる邪神の欠片、その目と鼻の先に移動したハイネ。

 磨き上げられた槍捌きとその圧倒的破壊力によって、また一体、邪神の欠片を屠る。


『次は西の大通りに向かえ、能力の再使用が可能になり次第、もう一度飛ばす』

「分かった、助力感謝する」

『王命に従っただけだ、感謝の必要は無い』


 (バエル)からの援軍に感謝しつつ、再び戦場となった街中を駆けるハイネ。




 同時刻、混乱の只中にある市街地。

 後ろで束ねた髪を揺らしながら、良く訓練された等間隔の歩幅で足跡を刻む一人の少女。

 可憐な風貌には似つかわしくない、自らの身の丈程もあろう巨大な可変式狙撃銃を担ぎ、その少女――エリーゼは、ハイネの向かう方角とは反対側へと向けて駆け出していた。

 彼女はハイネと同じ、伝説の魔法戦隊の一員である。

 これだけ巨大な武器を背負っていても、その重量を一切感じさせない程に、その足取りは軽い。

 作戦目標、邪神の欠片の掃討。

 その際、人命は可能な限り救助する事。


「も、目標、発見しました!」


 トカゲの形状をした邪神の欠片は、その舌で命を絡め取っていた。

 今正に、その命が呑み込まれようとした瞬間、一閃が舌を断ち切っていた。

 エリーゼの手にした狙撃銃は形態を鎌へと変化させ、返す刃で邪神の欠片の顔面を切り裂いた。

 宙に放り出された人物を軽々とキャッチし、猫のようにしなやかに着地するエリーゼ。


「う、動けますか? 動けるなら港に向かって下さい、あちらの敵は既に掃討しました」

「あ、ありがとう……」


 怪我が無い事を確認したエリーゼは、救助活動はそこそこに再び地を蹴った。

 家屋の壁を蹴り、三角跳びの要領で屋根の上へと跳び上がるエリーゼ。

 そのまま屋根を伝って、行き掛けの駄賃だとばかりに、屋根に上がっていた邪神の欠片を一刀で切り捨てながら、次の目標へと狙いを定める。

 手にした武器は再び鎌から狙撃銃へと形態を変化させ。


「……狙い撃ちます!」


 手にした銃が咆哮を上げた。

 狙い澄まし、放たれた銃弾は音を置き去りにしながら、寸分違いなく邪神の欠片を貫いた。

 そのまま地面を抉り、木々を爆砕しながら森の方向へと着弾する。

 薬莢が石畳に落ち、乾いた音を響かせた。

 最早銃弾というより、砲弾の一撃。

 こと火力に関しては、他の追従を許さぬ集団。

 以前邪神の欠片に敗れた時は、一番狙われてはならない存在が不意打ちを受けただけであり、それさえ無ければ、御覧の有り様だ。

 街中に現れた邪神の欠片が一体、また一体と、流れ作業の如く討ち取られていく。

 ハイネとエリーゼが街中を駆け回っているのは、近接戦闘で仕留めるか、射線上に何も無い状態を確保する為、ただそれだけの理由である。

 家屋と民間人を巻き込んでしまうから、遠距離から一方的に屠るという手段が取れないだけであって。

 その制約さえ無くなるなら、伝説の魔法戦隊の前に敵など存在しないのだ。

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