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191.姫様の憂鬱

3ヶ月経ってるらしいので投下

「何だか城内が騒がしいわねえ……勇者とやらが到着したのかしらぁ?」


 直近の情報から勇者の到来を予想し、物憂げな表情を浮かべる女性が一人。

 しっかりと手入れされた長い青髪を、傷一つ無い白い指でくるくると遊ばせながら、ぼんやりと窓の向こうを眺める。

 深窓の令嬢、そんな表現がピッタリである。


「昨日、到着されたようです。アクアマリン様は今晩の歓迎会で面会する事になります」


 側付きから報告を受けた女性――アクアマリン・アステリズム・ルクスライトは、少し大きめの溜息を吐いた。


「全く、憂鬱ですわ……何でこの私が、人間風情に媚を売らねばならないのですか」


 それがルクスライト王家に生まれた者としての努めだと頭の中では理解していても、感情的に納得出来るかはまた別問題である。

 人間という、下等種族。

 その考えがアクアマリンの根底にはあった。

 これはアクアマリンが特別卑しいという訳ではなく、この国、ナーリンクレイに住まう亜人の大半はそうであった。

 先祖から受け継いだ土地を野蛮な手段で奪い取り、不法占拠を続ける蛮族。

 この国に多大な爪痕を遺し、今も尚遺族達の恨みは尽きない。

 亜人達にとって共通の敵――それが、人間。

 そして勇者というのは、必ず人間なのだ。

 今までこの世界に何人もの勇者が降り立ったが、誰一人例外無く、勇者は人間であった。


「堪えて下さいアクアマリン様。勇者の力を姫様の陣営に取り込む事が出来れば完全完璧、盤石の布陣。例えアダマス殿下であろうとも、アクアマリン様の覇道を阻む事は不可能。アクアマリン女王の誕生も確定となりましょう」


 このナーリンクレイという国を築いたのは人間である勇者(アヤナ)なのだが、それと同時に、先祖伝来の土地を奪ったフィルヘイムという国を興し、厄介極まりない聖剣をフィルヘイムに遺して行ったのも人間である勇者なのだ。

 敵に回れば、厄介を通り越して何もかもが御破算になる程の厄ネタ。

 だが味方に取り込めれば、立ちはだかる困難を何もかも吹き飛ばせる兵器と成り得る。

 表裏一体、勇者を手中に収める事が出来るか、野心を抱く者にとっては一大事なのだ。


「……そうですわね、今は雌伏(しふく)の時ですわ。何としてでも、勇者との繋がりを作らなければなりません」


 (ルビス)は"神託"の通りに動き、勇者をこの地へと招き入れた。

 勇者がこの地に居るのは確定。

 今日行われる歓迎会で必ずや接点を作り、自らの陣営に取り込む。

 それこそが、アクアマリンが今目指す最優先事項である。


「聞けば今代の勇者は男だというではありませんか。私の美貌をもってすれば、篭絡など容易いですわ」


 自信満々に言ってのけるアクアマリン。

 虚勢でもなく、自意識過剰でもなく。

 磨き上げられた美が、そこにはある。


 澄み渡った空のような青色の瞳、シミ一つない健康的な白い肌、ルビスとの血の繋がりを感じさせる顔立ちは、彼女を少し大人に成長させたらこうなるのだろうという面影がある。

 大人の色香を漂わせる妖艶な美貌、一度衆目に晒されれば世の男がこぞって押し掛けるのが想像できる程だ。

 

「アクアマリン様の美しさならば、勇者も間違いなく見惚れる事でしょう。後は上手くアクアマリン様が勇者を手玉にとって転がしてやれば良いのです。惚れた女に弱いのは全ての男に通じるモノですからな」

「当然ですわ。勇者といえど所詮は男、軽く誑かしてやりますわ」


 夜会に向け、準備を進めるアクアマリン。

 揺らがぬ自信をもって、勇者と相対するその時を待つのであった。



―――――――――――――――――――――――



 そして来たる歓迎会。

 勇者と言えど所詮は男、一目見れば即座に見惚れて(かしず)くに決まっている。

 そう考えたまま、アクアマリンは自信満々に会場へと姿を現した。

 見知った顔の貴族達の中に混じる、見知らぬ顔。

 あれが勇者、もしくは勇者の仲間なのだろう。


 めっちゃ沢山居た。

 20人以上居る。

 それなりに気品漂う者から、軍属のような装いの者、果てには品性感じぬ野蛮な身なりの者まで、何か色々沢山。


「ちょっとルビス!」

「はい、どうかしましたかお姉様?」


 ご機嫌な笑顔を浮かべたルビスに対し、アクアマリンは問い質す。


「一体勇者は何処に居るんですの!?」

「勇者と名乗っている方を全員お連れしたのですから、ご自分の目で確認してはどうですか?」

「見当たらないから聞いているのでしょう!?」


 細身で背の高い、黒髪の男。

 それが"神託"の力で確認している勇者の外見。

 だが、その条件に合致する人物がまるで見当たらないのだ。

 中心人物と思われる、細身で背の高い黒髪の人物は居るが、あれは男ではなく女である。

 他にも背の高い黒髪の男は居るが、どっからどう見ても細身と言うには余りに無理がある、筋肉質なガッチリ体型。

 全てが当て嵌まる人物が居ない。


「ルビス、貴方勇者と会ったのでしょう!? 勇者の所へ案内しなさい!」

「いえいえ、残念ながらワタクシも勇者様のお姿をまだ拝見出来てはいないのです」


 声は聴いた、しかしその声も変声機を通したモノであり、純粋な肉声ではない。

 姿も見ていないので、案内しろと言われてもしようが無い。

 そもそも、この会場に本物の勇者が居るかどうかすら、ルビスには分からないのだ。


「どうやら今回の勇者様は恥ずかしがり屋のようでして、ここに居る面々も自らを勇者だと自称してはいますが、恐らくここに本物の勇者様は居ないとワタクシは考えております」


 これは、ただルビスの予測でしかないが。

 徹底して自分の姿を隠そうとしている以上、ここで姿を晒すのはおかしい。

 となれば、ここに居る面々の中に本物の勇者は居ないだろうという、状況推理である。

 その認識の裏をかいて……というのもあるかもしれないが、"神託"の情報と合致する人物が居ない以上、それも無いだろう。


「貴方、偽物の勇者を土足でこの城に招き入れたというの!?」

「偽物……というのも、また違いますね。勇者本人ではないのでしょう、ですが勇者様と無関係というのも違います。間違いなく、ここに居る方々は勇者様と所縁のある者なのでしょう」


 人知を超えた技術の産物、そこまで武に精通していないルビスでも、ある程度分かる実力者の存在、それも複数。

 世に出れば、その武で名を轟かせる事も容易いであろう人物が何人も居るというのに。

 誰の手も及ばない海上でポツンと、一ヵ所に固まっている状況がおかし過ぎる。

 その不自然さこそが、この人物達が勇者と強く関係していると推理する根拠。

 例え"神託"の情報が無かったとしても、そこまでは容易に推測出来る状況である。


「では、そろそろ失礼致します。ワタクシも、彼等彼女等と親睦を深めて参りますので」


 一礼の後、アクアマリンから距離を取るルビス。

 初手から思惑が外れたアクアマリンは、どうしようかとその場で手をこまねくのであった。

今日から投稿すれば日付だけ見れば綺麗に繋がってるように見えるからセーフ

中編は199話まで行きます

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