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190.跡目争い

 カード達一行が王城に到着したその夜。

 招き入れた張本人であるルビスは報告の為、ある人物の一室を訪れていた。


 その男は執務室にてくたびれたとばかりに大きく溜息を吐き、大きく身体を伸ばした。

 切れ長の鋭い目付き、吸い込まれるような青い瞳、そして新雪の如く染み一つない白い髪と肌。

 その耳は人とは違い尖っており、エルフという種族の持つ身体的特徴を表している。

 目鼻立ちの整った、見惚れるような美形なのだが――その美しさを例えるならば、金銀宝石というより、鋭利な刃物。

 見惚れると同時に、触れれば相手を切り付けかねない、そんな鋭さを感じさせる。


「――お仕事お疲れ様です、アダマスお兄様」

「……首尾はどうだ?」


 アダマス・アステリズム・ルクスライト。

 ルビスの兄であり、王位継承権第一位……つまり、次期国王候補。

 妹であるルビスの来訪を歓迎も咎めもせず、挨拶も世辞も抜きに本題へと話を進める。


「"神託"の予言通りに船を進めた所、巨大な船と遭遇しました。見た事も聞いた事も無い異様な船なので、間違いなくアレは勇者様の作られた住処なのだろうと確信しています。その船も今は港に停泊していますので、港に行けば確認も取れます。ですが……此度の勇者様は恥ずかしがり屋のようですわね、巣穴に籠ったまま出てこようとしません。ワタクシも、まだそのお姿を拝見出来ていませんわ」

「それを何とかするのが貴様の仕事だろう」

「無理に押し入って、勇者様に嫌われたくありませんし」


 クスリと笑い、アダマス王子の提案を拒否するルビス。


「……王女は勇者を引き連れ、ナーリンクレイを訪れる、か。その船に勇者が乗っているならば、"神託"の予言通りに事態が進んでいるという事になるな」

「これも、当たってしまいましたわね」


 それは、"神託"が読み解いた未来予測。

 国家の趨勢(すうせい)を決めかねないその予言は、当然ながら王家にしっかりと伝わっている。


「ここまではワタクシとしては願ったり叶ったりなんですけれども、出来ればここからは外れて欲しいと願うばかりですわね」

「希望的観測だな」


 そして、その後に続く内容も、だ。


「やがて訪れる邪神の脅威、勇者はその力を振るい、闇を打ち払う……勝つ、と断言していないのが気になるが、勇者が負けるならばそれはこの世界の滅亡と同意義だ、勝つ前提で考える他あるまい」

「ワタクシは、勇者様の御力を疑ってなどいませんけどね」


 微笑を崩さないルビス。


「問題は、この内容ではどれ程被害が出るのかが分かっていない事だ」


 勇者が脅威を退け、邪神の欠片を打ち倒す。

 それは確定なのだろう、というより確定で考えるしかない。

 勇者が負ける程の脅威が来るならば、この国の滅亡も確定だ、国が滅んだ後の事など、王家が考える意味が無いからだ。

 アダマスが気にしているのは、勇者の戦いがどれだけ時間が掛かるのかも、何処で戦うのかも、何もこの予言では説明されていない点だ。

 

「市街地で戦うような事態になったら、どれ程民草が死ぬか予測出来んぞ、何処が戦場になるのかが分からねば、事前に兵を配置する事すら出来ん」

「その辺りは、アダマスお兄様に一任しますわ」

「お前も王族としての血を引いているならば、少しは頭を回せ」

「ワタクシ、王位に興味はありませんから。その仕事はどうぞお兄様がやって下さいな?」


 冗談めかしく、口元を抑えてホホホ、と笑うルビス。


「ですがルクスライト王家の血を引く者として、勇者様と血縁関係になる、という所までは全力で努めさせて頂きますわ。強いて言うなら、これがルクスライト王家に属する者として最後の仕事だと思っていますから」


 キッパリと、断言するルビス。

 勇者と結婚する、アルトリウス達の前で言った台詞は冗談でも何でも無く、ルビスの本心そのものである。

 政略結婚、打算的要素が皆無かと言われればそんな事は無いのだろうが。

 実の兄の目の前でみっともなく妄想で惚けた表情を浮かべている辺り、9割位はルビスの私欲から来るモノなのだろう。


「何にせよ、勇者を繋ぎ止める鎖として女を宛がうのは俺としても考えていた所だ。お前が進んでその役を引き受けてくれるならば、俺にとっても好都合だが……これは単純にただの興味だが、聞いても良いか?」

「何でしょうか?」

「どうして俺に協力する気になった? お前が本当に王座に興味が無いのは普段の様子を見ていて否応無しに理解した、だがそれならアクアマリンの方に付く手もあっただろう?」


 このナーリンクレイを統べる、ルクスライト王家。

 その王位を継承する権利を有している者は現状、三人存在する。

 一人はこの長子であるアダマス・アステリズム・ルクスライト。

 最初に生まれた子であり、男児である為、当然ながら自動的に王位継承権第一位となっている。

 だが、王族の跡目争いとしては長女のアクアマリン・アステリズム・ルクスライトも無視出来ない勢力である。

 現状は問題無いが、アダマス側が何か大きな失点でもしようものなら、アクアマリン女王が誕生してもおかしくない位には、微妙な勢力図となっている。



 それこそ――邪神の欠片騒動で対処を誤り、民衆に多くの死者を出そうものなら、間違いなく世論は引っ繰り返る。



 アクアマリン王女はルビスとは違い、王位にガッツリ固執している。

 隙あらば兄であるアダマスを蹴落としてやろうと、虎視眈々である。

 それ故に、第三勢力であるルビスを自陣営に引き込めたのはアダマスにとってかなりの追い風であった。

 渡りに船だったのだが、何故ルビスがこちらに付いたのか、アダマスからすれば理由が不明なのだ。


「あら、そんなの簡単ですわ」


 さも何でも無いと、ルビスはティーカップの茶を飲み干した後。


「お兄様はワタクシの勇者様(オトコ)横取り(NTR)しないでしょう?」


 しれっと言ってのけるルビス。

 つまりルビスは、勇者が男だから、同じ女であるアクアマリンを近付けたくない、ただそれだけの理由でアダマスに付いたのだ。

 自分が王位に就く為、自分の身体を使って勇者に取り入る。

 勇者を身内に引き入れれば、それは権力基盤としてとてつもなく強大な力となるのは間違いない。

 そうする事が目に見えていたから、ルビスは姉であるアクアマリンを蹴落とす為にアダマスに与する事にしたのだ。

 余りにもしょーもない回答だった為か、アダマスの表情も微妙に歪んでいた。

 ザ・脳内お花畑ここに極まれり。


「ワタクシの運命のヒト、勇者(旦那)様と添い遂げるのはワタクシにとっての絶対です。それを邪魔する者は、全て排除するのみですわ」


 だがルビスにとって、これこそが自らの進むべき覇道なのだと微塵も疑っていなかった。

 いざとならば武力行使も仄めかしている辺り、方向性が違うだけで、彼女もまた王族という覇者の血を引く者なのだと感じさせる。

 アダマスとしては、利はあれど害は一切無いので、どうか末永くお幸せにといった具合か。


「そうか、じゃあ引き続き勇者と添い遂げられるよう頑張ってくれ」

「ええ、勿論です! 挙式の際にはお兄様も是非参加して下さいね?」

「行けたらな、行けたら」


 力強く断言するルビスに対し、公の場でない事もあり、凄く投げやりな返事で返すアダマスであった。

これにて第九章前編終了となります

次で全部は書き切れない気がするから次は中編になる

違ったらごめんね<ミ☆

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