189.古の災厄
「――ここに、図書館はあるかしら?」
邪神の欠片が封じられた地へとアルトリウスが赴いている頃。
カード達は各々、大人しく待機していたり独自行動したりしていた。
ダンタリオンもまた、アルトリウス同様に独自に動いていた者の一人である。
ただ待ちぼうけするならば幼児でも出来る、この時間で自分に出来る事をしようと考えた結果だ。
「図書館、ですか? 一応蔵書庫はありますが、そこへの立ち入りは一般には許可されていませんので……」
「私達は賓客だから一般市民とは扱いが違う筈よ? それに、貴重な蔵書とかに触らせられないのも理解してるわ。立ち入り許可だけで良いから」
「しかし――」
「勇者様の心証、悪くしたくは無いでしょう?」
配慮はしつつ、それでいて脅しも混ぜるダンタリオン。
ろくな権限も無い個人の判断で、勇者様の気分を害する気なのか、と。
自分の裁量では手に余ると判断し、ダンタリオンに付いていた世話役は確認の為、部屋から出ていく。
しばらくして戻って来た世話役から、返答を聞く。
「――許可が取れました。しかし、立ち入りまでです。実際に蔵書に触れる許可は出ていません。それでも構いませんか?」
「ええ、それで構わないわ」
部屋に入れるだけ、実際に本に触れる訳ではない。
てっきり、誰かに本を開いて貰って本の中身を確認でもするのかと思いきや、ダンタリオンは本当に部屋に入っただけで、それ以上何もしなかった。
世話役からすれば一体何がしたかったのかと首を傾げる所だが、ダンタリオンにとっては、これで十分だった。
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情報の消化に集中したいので、宛がわれた部屋へと戻る。
世話役、まあ十中八九監視役も兼ねてるのだろうが。
その視線がちょっと気になるが、我関せずの態度で目を閉じて集中する。
情報を読み耽るのを邪魔しないのであらば、いくらでも監視していれば良い。
成程、長命種の住まう地というのは伊達では無かったようだ。
これでロクな情報が無かったら、お前等は雁首揃えて無駄に歳重ねる事しか出来なかった無能呼ばわりする所だったが、ちゃんと頭の回る奴も居たらしい。
あの蔵書庫で最大の収穫は――勇者の手記と思われる代物があった事だろう。
厳重に保管されていたのか、年月に押し潰されて埃を被っていたのか、雑に全部取り込んだのでどういう状態だったのかは不明だが、情報を読み取れたのならどうでも良い。
他の情報は追々読み進めるとして、重要なのは過去の勇者が綴った内容だろう。
ザックリと目を通し――後半部分は、何やら悔恨の記録らしいので無視する。
そんなモノを読んで何になる、過去は過去だ。
重要な情報は、前半部分にあった。
大事な事は最初に書いておく、この勇者アヤナという人物は中々分かっている。
封印された邪神の欠片――"廃絶の狂信者"。
世界滅亡を目論む"魔王"を崇拝する邪教、その宗教施設を襲撃した際に出現した邪神の欠片。
その力は凄まじく、そして何より……異質だった。
最初は黒い謎の塊だった見た目が、巨大なライオンのような姿、人の姿、大蛇の姿、果てにはドラゴンと――定まった形など無いとばかりに姿を変える。
私の力で作った回復ポーションや武器を大量投入し、甚大な被害を出しながらも、確実に二回は殺した筈なのだ。
なのに、蘇る。
こんな邪神の欠片、今まで見た事も聞いた事も無かった。
どうすれば倒せるのか、いやそもそも……本当に、倒せるのか?
死んでも蘇るのであらば、不死身なのではないか?
推測も検証も、今となってはどうする事も出来ない。
結局、封じるという未来に負債を遺す形での決着しか無かった。
レイナードという犠牲を払った封印、そう容易く解けはしないと信じている。
だけど、あの封印が未来永劫続くとも思えない。
何時か来るかもしれない、その時の為に、あの時の戦いを生き延びた者として、後世に情報を書き記しておく。
当時の私達も二回倒している以上、倒す事は出来るのだ。
その後結局、蘇って来るのだが……蘇るまでに、少し間があったような気がする。
それと、奴の放つ灰色のレーザーのような攻撃。
あの攻撃で数え切れない程の重傷者が出る事態に陥った。
実際に戦っていた時は気付けなかったのだが、当時を冷静に振り返ってみると、あの攻撃が原因で死んだ者は居なかった……気がする。
その後に尾で叩き付けられたり踏み潰されたりして死んだ者は居るが、不思議と回復が間に合う事が多かった。
見た目の割にあまり攻撃力は無い?
時折姿を変えるのは、理由が良く分からなかった。
こちらに遠距離攻撃部隊が居る事は分かっている筈なのに、何故か図体がデカい姿に変わって攻撃が当たり易くなった事もある。
人型になれるのなら、そのまま乱戦に持ち込んで大規模攻撃魔法を打ち込み辛くする事も出来る筈なのに、何故そうしなかったのか今でも分からない。
自我が無いから行動に一貫性が無いとも考えたが、脅威を明確に潰そうとする行動をしているので、何も考えていない訳でも無さそうだった。
これらは全て、私の推測や主観でしかない。
間違っている情報もあるかもしれないから、鵜呑みにはしないで欲しい。
ここに書き記した情報が、少しでも未来の勇者の助けになれば――
……ここから先は、読み進めても有力な情報は少なそうだ。
無論、勇者の日記という優先度の高い情報の塊だ、最後まで読む気はあるが。
最優先で読むべき場所は読み終わったと思われる。
他の奴等が何してんのかは知らないけど。
これから集中するから、邪魔だけはしないでね。
したら殺して主人の所に強制送還してやる。




