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185.ナーリンクレイからの来訪者-2-

 一夜を明かし、翌日。

 ルビスとフェルナンドは応接室へと呼び出される。


「――あら? 勇者様は居られないのですね」


 その姿を見た事が無いにも関わらず、入室して周囲を見渡し、勇者が居ない事に言及するルビス。

 部屋に居たのは、アルトリウスとダンタリオンの2名だけである。


「……勇者様なら、ココに居る」


 アルトリウスは、机の上に置かれたスピーカーをトントンと、指で叩いた。


「もう執拗に隠す必要は無いと言われたのでな。確かに今、この地に勇者様は居る」


 元々、以前からグランエクバークとは細い繋がりではあるが、外貨を得るという目的で取引をしている。

 まだそこまで世間に広まってはいないが、ここが勇者と繋がりがある場所だというのは既に知られているのだ。

 ならば、無理してまで隠し通す必要も無いだろうという判断だ。


「勇者様は、人前に顔を出す気は無い方針だ。だから、この通信機越しにお前達から話を聞くそうだ」

『そういう事です』


 だが、別に昴自身が姿を現す必要も無い。

 スピーカーから、機械編集された音声が流れる。

 声色で性別すら判断させないという、徹底振りである。

 何か対応が必要な時は、カード達が出張れば良いだけだ。

 勇者の力が必要だと言われても、今ここに居る面々こそが、その勇者の力そのもの。

 真に頼るべきはカード達の力であり、昴自身の力では無いのだ。


 別に昴自身が関わる必要が無いのなら、話を聞く必要も無い。

 それでも、昴が話を聞こうと思った理由。


 ルビスが口にした、邪神の欠片という言葉。

 それが、昴の関心を惹いた。

 邪神の欠片を倒す。

 それが、今の昴に在る数少ない行動方針。

 そうして欲しいと、エルミアに言われたから、その道を進み続ける。

 だからどんな状況だろうが、一度聞いてしまったそれを無視する事など、有り得ない。

 それが、昴が果たすべき責任だから。


「お望み通り、勇者様と応対出来る状態にした。これでも納得行かないのなら、お帰り願おう。それで良いと、勇者様からも言われているのでな」


 この世界の王家に対し、蔑ろな対応をする訳にはいかないから、今まで静観していたが。

 勇者――(マスター)がそうしろと言ったならば、それはカード達にとって、神より賜った神託と同意義。

 他の全てを切り捨ててでも実行する、最優先事項となる。

 話は聞く、姿は出さない、話す気が無いならお引き取り願う。

 ここは、外に居場所の在る者が理由も無く居るべき場所ではないから。


「……それが、此度の勇者様の在り方なのですね。分かりました、ではお話させて頂きます」


 その説明でルビスは納得したのか、ここに来た経緯を説明する。

 何故来たのか、そもそもどうして来れたのか。


「――私達エルフと呼ばれる者達の中からは、時折"神託"と呼ばれる力を持つ者が生まれる事があります」


 それは数百年単位で一度、エルフという種に生まれる特異能力者。

 何故どうして生まれるのかは不明だが、その存在は歴史上でも時々確認されており、有名な所としては勇者アヤナと共に邪神の欠片と戦った、レイナードという人物が挙げられる。


「それは未来を視る事が出来る力であり、私達の住まうナーリンクレイという国はそれによって栄えて来ました。私達がここに来たのも、その力があってこそです。今、この時、勇者様がこの場所をお通りすると、事前に分かっていたのです」


 ――未来予知。

 それが、"神託"と呼ばれる能力の本質。

 誰かが意図的に、強引に捻じ曲げようとしたならば、その予知が外れる事もあるので、百発百中の予言ではない。

 だが逆に言えば、そうしない限りは必ず予知が的中するという意味でもある。


 今日、この時、この方角に向けて。

 船を走らせれば、この時代に降り立った勇者に出会える。


 細身で背の高い、黒髪の男。

 勇者を引き連れ、王女はナーリンクレイの都へと舞い戻る。

 未来に訪れる、邪神の欠片の脅威を退ける為に。

 それが"神託"によって見えた未来。


「――どうか我が国を、いえ、この世界を御救い下さい勇者様」


 国の為、民の為、成すべき事を成すという王族の誇りとでも言うべきか。

 居住まいを正し、凛とした表情を浮かべるルビス。


「要は、自分達じゃどうにも出来ないから助けてくれって話だよね」


 そんなルビスをバッサリと切り捨てるダンタリオン。

 ここでのんびりと平和に暮らしていた勇者……昴を渦中に巻き込もう、そういう事だ。


「随分勝手な言い草だな。言い方を変えているだけでその実、我々の為に死ね、と言っているのと同意義だと理解しているのか?」

「――私達の国に訪れるという危機は、最早国だけでは対処しようが無い程に強大です。本当に、この世界が滅亡してもおかしくないのです」


 そんな事情は私達には関係無いと続けるアルトリウスに対し、食い下がるルビア。

 その脅威を代々伝え聞いているからこそ、自分達ではどうにもならないと、勇者に縋るしか無いのだ。


「この世界に在る以上、この問題は勇者様にとっても無関係ではありません。世界が滅んでしまえば、ここで暮らす勇者様とて無事では居られません」

「……少なくともナーリンクレイには一つ、厄介な爆弾が遺されてるからな。世界の危機とまで呼ばれるような事態が起こるとしたら、十中八九その絡みだろうさ」


 フェルナンドが口にした、爆弾の存在。

 それはナーリンクレイという地に置き去りにされたままの、悩みの種。

 一度爆発してしまえば、国も、民も、何もかもが潰えてしまう、危険物。


「爆弾? 何だそれは?」

「俺が生まれるよりも更に昔――古に存在した勇者ですら"倒す"という選択肢を選べなかった、最悪の災厄と呼ばれた邪神の欠片。それが、ナーリンクレイには封じられている。"神託"とやらが見たのは、まあそれだろうな」


 勇者という、この世界においては最強の戦力とでも言うべき存在。

 そんな存在ですら、打倒する事敵わず。

 封印という、未来に負債を遺す形での決着しか出来なかった。

 その封じられた邪神の欠片は今も尚、ナーリンクレイの地に縛られ続けている。


「だというのに目先の金と権力の話ばかり……既に自分の立つ足元がひび割れているというのに、クズ共めが」


 表情を僅かに歪め、醜いモノを散々見て来たとばかりに、ここに居ない誰かに対して悪態を吐くフェルナンド。


「そういうのは隣に居る金と権力の象徴相手に言ったらどう? 尻尾振る相手と噛み付く相手の区別すら付かないの?」

「勘違いするな。俺は、この女が気に入ったからでも、ましてや犬になった気も無い。金払いが良いのと、思想がまだマシだから、この船を選んでいるだけだ。もっとマシな船頭が居れば、すぐにでもそっちに乗り換えるさ」


 仮にも王族という、最高権力者の一人であろうルビス相手に一切媚びる事無く、気に入らなければ切り捨てると言い切るフェルナンド。

 その在り方が許されているのは、人柄というよりも、彼自身の力量――ナーリンクレイ"最強"とまで呼ばれる力が在るからだろう。

 気に入らなければ力で捻じ伏せられる、だから何処までも自由で在れる。


『――個人的には行っても良いけど、仲間が多いので迷惑を掛けてしまうかもしれませんので、お断りしようかと……』

「そんな事お気になさらず、お仲間の方もご一緒にどうぞ!」


 スピーカーから聞こえた声に即、声色を変えて反応するルビス。

 先程まで見せていた王族としての凛とした在り方から一転、恋する乙女モードに切り替わる。


『人数が多いけど、大丈夫? 門前払いされるなら流石に無かった事にするけど』

「ルクスライト王家の名に賭けて、二言はありません! お仲間の方も御一緒なら、そのまま挙式にも御参加頂いて――」

「 挙 式 だ と ? 」


 アルトリウスの背後に、竜の如きオーラが見えた、かもしれない。

 逆鱗を引き千切るかのような振る舞いに、アルトリウスは静かに語気を強めた。

 そんなアルトリウスをダンタリオンは諫め――ない。

 というかアルトリウスに負けず劣らずの黒いオーラ、本体が本から可視出来るレベルで漏れ出ていた。


『では、お言葉に甘えて足を運ぶとしましょう』


 そんな二人の様子を知らぬか見て見ぬフリか、スピーカーから了承の声が響いた。


 メガフロートの進路が、明確に一点へと向けられた。

 これから向かうは、ナーリンクレイの首都、ルクスライト。

 人間が踏み入る事はまず無い、亜人種達の国である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 亜人の国において、人間がどういった立ち位置か言わずにとにかく来いっていうのは、なんかもやっとしますね。 しかも、これでマシな思想だというのだから、現地はいったいどうなっているのやら……。
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