182.勇者アヤナの足跡
案ずるより産むが靖さん(71)
この章は多分長くなると見て前倒しで投下開始
「アヤナ、お前は生き延びろ。お前は、この世界にとって無くてはならない存在だ。お前の"未来"は、俺が変える――!」
――それが彼、レイナードが遺した最期の言葉だった。
その言葉が、何時まで経っても耳から離れない。
その時の光景が、焼き付いたかのように頭から離れない。
自らの命を犠牲にした、封印魔法。
レイナードが用いた魔法の正体を知ったのは、全てが終わった後だった。
彼は、私には勿体無い位に優秀な魔法使いだった。
困った事があれば何時でも助けてくれて、とても頼れる、無くてはならない存在だった。
博識で、あらゆる魔法に精通し、更には"神託"と呼ばれる、希少な特殊能力の持ち主でもあった。
これは未来予知のような能力であり、きっとレイナードは、何か不吉な未来を見てしまったのだろう。
恐らく、私に対する何かを。
だからそれを防ぐ為に、あんな――
誰も居ない、何も見えない暗闇の中。
称賛の声だけが聞こえてくる。
「アヤナ様のお蔭で、病弱だったウチの子が元気に走れるようになったのよ!」
「腰打って寝たきりになっちまった親父が、また歩けるようになったのもアヤナ様のお蔭だ!」
「流行り病で立ち行かなくなってた、村の住民全員の病気を治しちまったのもアヤナ様らしいぞ」
「勇者アヤナ様!」
純粋な、好意で向けられる目線、言葉。
だけどそれは、私にとっては呪いの言葉でしかなかった。
嫌――! 聞きたくない――!
私は、そんな風に称えられるような人間じゃない!
だって私は……守れなかった。
私は何時も誰かに支えて貰って、守られてばかりだった。
本当に大切だったモノを守れなくて、一体何が……勇者だと言うのだ。
それでも人々は、私の事を謙虚な賢人だと、聖女様だと称える。
何も出来なかった、余りにも無力な私を。
誰よりも前に出なければならない――勇ましき者とならなければならなかった――その時に、私は奥で震えているだけであった。
私達の旅は、戦いは、ここで終わる。
勇者の使命、世界の敵、邪神の欠片……そして"魔王"の討伐。
私では、それを果たす事が出来なかった。
勇者だなどと担ぎ上げられて。
知らず知らず、私は、調子付いていたのだろう。
私がやり込んでいたゲームの力が、実際に振るえるようになって、何でも出来る、英雄や神か何かになったのだと、勘違いしてしまった。
私が今立っている場所は、ゲームなんかじゃない。
負ければ命すら失われる、現実なのだ。
それが、分かっていなかった。
その結果が――大切なヒトとの、離別。
私が一番大切だった、あの人を見る事は出来ない。
逢瀬を重ねる事も、言葉を交わす事も……出来なくなってしまった。
世界の脅威は封じられた。
私の大切なヒトという、犠牲を払った上で。
きっとこれからも、この世界は回っていくのだろう。
だけど私は、その世界に付いていけない。
もう、立ち上がる気力も無い。
意味も、無い。
あの人の居ない世界で、ただ無意味に命を消費していき――
そして、私という存在は終わった。
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自然国家 ナーリンクレイ。
古の勇者アヤナが礎を築いた国であり、彼女が遺した錬金術という技術体系と、死者すら蘇らせるという勇者の秘薬という遺産によって、この国は成り立っている。
天然資源も非常に豊富であり、水から動植物、鉱石といった、およそ自然から生み出されるモノの全てがここにあると言っても良い程だ。
このナーリンクレイという国家は、人間とは違う特徴を持つ、しかし知性のある種族、通称亜人と呼ばれる人種達が団結して建国された。
エルフ、ドワーフ、ドライアド、セイレーン、ラミア、ケンタウロス、アラクネ……等々、種としては実に多種多様であり、この国の国民、実に9割強が亜人と呼ばれる人種で固まっている。
この国家の主たる政治や軍事といった政府機関に携わる者も、当然ながら亜人で固められており、街中で人間を見掛けてもそれは、ほぼほぼ奴隷である。
人間という種が、この国において要職に就く事は皆無と言って良いだろう。
それもその筈であり、この国の人々は見目麗しいが故に嫉妬され、見苦しいが故に嫌悪され、異形故に恐れられ――人間に迫害されてきた経緯を持つ者達が住まう地。
当然、人間という種に対して風当たりは強く、一部の過激派に至ってはこの世界から人間という種を根絶やしにするべきだ、という論調を展開している程である。
流石にそこまで行くのはごく一部の者達のみではあるが、基本的にこの国の国民性が人間に対して排他的な者が多いというのは純然たる事実であった。
また、フィルヘイムとは領土問題を抱えており、恐らく他国家間の関係性と比較したとしても、この世界において最も険悪な関係性だと言える。
約300年程前に、フィルヘイムとナーリンクレイの間に大規模な戦争があり、その際に領土を大きく奪われ、その時の火種が今も燃え残っているのが実情だ。
この国の主権であるルクスライト王家の中でも、フィルヘイムに対して開戦し、奪われた領土を取り戻すべきだという主張が渦巻いていた。
不穏な空気が立ち込める国、ナーリンクレイ。
陰謀渦巻くこの地から訪れた者達によって、今代の勇者――昴の運命は、大きく変化していく。
そんな訳で第九章前編スタート
この章で言うなれば第一部完みたいな感じなる
それ位重要な章




