162.ポジションチェンジ
12月に本気出したので結構早かったヨー
中盤戦スタートです
朝起きて、インペリアルガードから提供された食事を採る。
食後、軽くメガフロート内の散歩をして運動をした後、カードショップへと向かう。
今日はヘンリエッタさんとサンドラさんが来ていた。
絶対守護障壁と天罰の火を購入しに来たようだ。
中々良い着眼点である、どうやらカードゲーマーとしての知識や目が養われて来たのかもしれない。
お昼ご飯を軽く済ませ、食後のお昼寝をする。
どうしてもとせがまれたので、ダンタリオンの膝枕で寝た。
御満悦そうな表情のダンタリオン、幸せそうで何よりだ。
そしてそのダンタリオンを乙女がしちゃいけない表情で超至近距離からガンを飛ばすアルトリウス。
気にしない。
あと柔らかかった。
お昼寝が終わった後は、カードショップの営業時間が終わるまで、次に印刷するカードのラインナップを考えたりしつつ過ごす。
次の構築済みデッキをそろそろ出してみるか? まだ早いかな?
カードを出し続ければ、何時かはインフレしていくけれど、可能な限りそのインフレ速度は抑えたいモノだ。
カード販売が商売である以上、売上を出さねばならないのだから購買意欲を煽るインフレカードを印刷するのは当然だが、今やってるコレは、商売じゃない。
というかこんなコピーを商品だと言い張って売り捌ける程、俺は恥知らずでも面の皮が厚くも無い。
商売じゃないなら、売上の為にインフレ加速をする理由が無いのだから、インフレ速度はゆっくりに出来るだろう。
Etrangerというカードゲームは――終わってしまった。
これも何時か終わるにしても、その日は可能な限り、遅くしたい。
店を閉めた後、夜はのんびりと過ごす。
疲れたと言う程疲れてはいないのだが、ゆっくりと湯船に浸かって一日の疲れを取る。
風呂に入ると毎回、当然の権利の如くアルトリウスも一緒に入って来る。
「毎度思うけど、アルトリウスというかカード達は別に入浴必要無いよね」
アルトリウスに背中を流して貰いながら、ぼんやりと呟いた。
カード達は入浴所か、極論食事も睡眠も必要無い。
何しろどれだけ腹が減ってようが眠かろうが、更に言うならば上半身と下半身が真っ二つになるような致命傷喰らってようが、一度実体化を解除して再度実体化するだけで、それら諸々がリセットされるからだ。
これは多分、Etrangerというカードゲームは原則的に「フィールドから離れた時、そのカードの持っていた情報が失われる」という所から来ているのだと思われる。
蓄積した知識まではリセットされないみたいだから、再度実体化する度に初めまして、ってなる事態にはなって無いのだが、知識が増えるのなら頭脳の疲労もあるのでは? とは思った。
だけどカード達が実体化していない状態、カード達が普段過ごしている空間では、自分達の意志で自由自在に時間感覚を変更出来るらしい。
中では一年経過しても外では一日も経っていないとか――何かそんな設定がある漫画とかあったな。
それがあるからこそ、例え精神的に疲労してたとしても、一度実体化を解除さえすれば、再度実体化するまでの僅か1秒にも満たない時間を滅茶苦茶に希釈する事で、一年だろうが十年だろうが休めるそうだ。
何ともまあ、便利な事で。
「私達にそれらは極論必要有りませんが、してはいけないという訳では無いんですよね?」
「お前達がしたいなら、好きにすれば良いよ」
「だから私も、旦那様にしてあげたいから、好きにしているんです」
背中を流していた、アルトリウスの手が止まる。
そっと、アルトリウスの両腕が俺の胴へと回される。
背中に感じる柔らかくて巨大な豊かさ。
「それに、知っていますか旦那様? 例え夫婦と言えど、常日頃から肉体で触れ合っていないと、心が離れていくそうですよ?」
触れ合うというのは、例えば手を繋ぐ程度でも良いそうだ。
そうなのか?
言われてみれば、以前見掛けた仲の良さそうな老夫婦は、歩く時も手を繋いでたっけか。
アレにはそういう意味があったのか。
いや、というか手を繋ぐから仲が良いのではなく、元々仲が良いから手を繋いでいるだけなのでは?
うーん、卵が先か鶏が先か感。
「私は、旦那様と離れたくないです。肉体的にも、精神的にも、ずっとずっと、側に居たいです」
抱きしめて来るアルトリウスの腕に力が篭る。
あんま強くしないでね?
いやね、胸がって言うか、アルトリウスが本気出すと例え素手でも俺普通に力負けするからね? 腕力、物理的な問題よ?
流石にその辺りは配慮してくれてるのか、柔らかいという感触だけで済んでるけど。
「旦那様も、私と一緒に居てくれますか?」
「寧ろ居てくれないと困る、戦力的な意味でも感情的な意味でも」
俺が最も使ったカードだと断言出来るからな、アルトリウスは。
アルトリウスを使って出来るであろう戦術はもう全てやり尽くしたと断言出来る位には、徹底的に使い込んだし。
使用練度が最も高いカードなのだから、当然一番使い慣れたカードだ。
戦士的に考えるならば、一番使い慣れた武器って事だ。
居なくなったら、マジで困る。
ぐいっ、と身体の向きを変えられた。
優しい笑みを浮かべ、俺でも分かる位に熱の篭った目。
アルトリウスの唇が、ゆっくりと俺に近付いて来て――
食事が冷めてしまったと、アルトリウスに対して無言の圧を放つインペリアルガード。
当のアルトリウスは満面の笑顔で俺の腕に絡み付いたままである、柳に風。
温め直した食事は普通に美味しかった。
「何時もありがとう、インペリアルガード」
「私めは、御主人様に対してするべき事をしているだけです」
目を伏せたまま、事務的に返答するインペリアルガード。
なんかこう、冷たい対応のようにも思えるが、以前確認した所。
「これは私めの単純な気質ですから。御主人様を心よりお慕いしている気持ちに偽りは御座いません」
と、返答を貰った。
好感度は大分高めの御様子。
有難い限りである。
食後、デッキ構築を考えつつ、インペリアルガードから定期的にマッサージを受けながら、眠くなったら眠りに付く。
ここ最近、何時もの日々だ。
何時もと変わり映えしない、緩やかーな一日。
インペリアルガードのマッサージを受けると何だかポカポカして心地良いので、確かに血行が良くなるという効果が出ているのだろう。
『こいつ等を守ってやりてえって、"俺"がそう思ったんだ! 俺達の在りのままを見れない方が、嫌だと! そう相棒が言ったじゃねえか!』
何か、声が聞こえる。
そういや、定時連絡の時間だったっけか。
「あのさあ、子供のワガママなら他所でやってくれる?」
『こいつ等を守ってやりてえって、"俺"がそう思ったんだ! 俺達の在りのままを見れない方が、嫌だと! そう相棒が言ったじゃねえか! こいつ等を見殺しにしたら、それはもう俺じゃねえ! 在りのままじゃ居られなくなる! それは相棒に対する裏切りだ!!』
何か、言ってるなあ。
トラブルでもあったのか?
「何? お前等詰んだの?」
「話から察するに、何やらトラブルがあったようですね」
んー……眠気で頭が回らない……
搦め手のシャックスが無理、脳筋の龍が無理……
シャックスが苦手なのは真っ当な殴り合い、龍が苦手なのは戦闘してくれないヤツ……
「ポジションチェンジ発動……対象、シャックスと龍……」
多分、これで何とか……
「あと近くに船寄せといて――」
あっ、もう限界。
そこまで口にして、俺の意識は暖かい闇の中に沈んで行った。




