161.爪痕
「――悪いね、何時も頼んでる商人が今手が空いてないらしくてさあ」
「悪いと思ってんなら引き返してくんねえかな?」
「それはそれ、これはこれ」
無邪気そうな笑みを浮かべるバーバラ。
今日も今日とて、バーバラの小間使いに付き合わされる日々。
本日は、バーバラの買い出しに付き合わされている所だ。
行先は孤児院から一番近い町で、馬車で一時間程度で到着した。
俺の本来の探索範囲は"人の居ない場所"なので、ここは完全に探索範囲外である。
成り行きでやむなく、って感じだ。
……往来は、妙に少なくはあるが、皆無ではない。
家屋の数的に、百人ちょい位は住んでいるであろう集落の筈なんだが。
「パッと見た感じ、そこそこ栄えてる場所だろココ? にしちゃあ活気が無くないか?」
活気が無い、と少し濁したが。
ぶっちゃけてしまえば……治安の悪さを感じる。
別に白昼堂々強盗が起きてるとか死体が転がってるとか、そんな明らかに目で分かるようなヤツじゃないが、町の規模に対して妙に浮浪者が多い。
……あと、ありゃタダの無職じゃねえな、浮浪者共の目を見りゃ分かる。
あの妙にギラ付いた目付きは、薬物中毒者のモノだ。
「――グランエクバークに頼った結果が、この有り様って事さ」
「何かあったのか?」
バーバラの話によると、大体1年ちょい前位にこのリィンライズとフィルヘイムの間で戦争があったらしい。
元々このリィンライズに属する国民達は、幼少期から武術を習っている影響で皆戦闘力が高いらしいが、その戦時中、ある薬が流通するようになった。
その薬は服用する事で身体能力が向上する効果があり、その効果でリィンライズの兵達は元々高かった能力が更に上昇し、手が付けられない有り様だったという。
実際、僅かではあるがその戦争でフィルヘイムの領土を一部切り取ったらしい。
だが、そんなお手軽に強くなれるなんて美味い話に裏が無い訳が無く。
その薬は何度も接種すると強い副作用と依存症が発生し……あとはもう、薬物中毒お決まりのパターン、という訳だ。
そしてその薬の出所というのが、グランエクバークという国らしい。
「リィンライズは、グランエクバークに体の良い人体実験場にされたんだよ」
その結果が、この妙に薬物中毒者が多い惨状って訳か。
俺からすりゃ、薬を作ったのはグランエクバークとやらかもしれねえが、使ったのはお前等の自業自得だろって感想しか出て来ねえな。
「――よし、シャックス! この木箱を積み込んでおくれ! 乱暴にするんじゃないよ!?」
「うるせえなぁ、やりゃ良いんだろやりゃよお」
買い出しに関しては、店員の愛想が悪かったが、買う事は出来たようだ。
余所者だから警戒でもされてんのかね?
何にしろ、売ってくれるならそれで構わねえけどな。
――町から出る時、妙な視線を感じた気がしたが……特に何事も無く、その日を終えるのであった。
―――――――――――――――――――――――
「……これが支払いに使った紙幣と硬貨だよ、これで良いんだろう?」
「協力感謝する」
薄暗い室内の中、男は軽く会釈した後、差し出された紙幣と効果を受け取る。
差し出した人物は、先程バーバラに物資を売った商人であった。
商人は男に対して硬貨と紙幣を手渡し、男は手袋を付けた手でそれを受け取る。
「本当に、あの女がそうなのか? あの"悪魔の薬"を作ったっていう――」
「それを今から確認する」
男は、手にしたアタッシュケースから何らかの液体や物体が入った小瓶を複数取り出す。
商人から受け取ったその紙幣と硬貨に、何らかの粉末をまぶしたり、薬液に浸したり……
何らかの化学的な処置を施していき――
「――ローズマリー・クレモニア、確認完了」
そう、ポツリと呟いた。
「ローズマリー・クレモニア? 誰だ?」
「グランエクバークの研究所で薬物の研究を行っていた元研究所長だ。お前達が"悪魔の薬"と呼ぶ代物、それを生み出したのはさっきの女だったという事だ」
「なっ――何だと!? ウチの一人息子をあんな状態にした! あの薬の生みの親だってのか!?」
怒声を上げる商人。
この商人の息子もまた、"悪魔の薬"の被害者であった。
「この個所を見ろ、こことさっきの硬貨から検出した指紋が完全に一致した。指紋というのは顔付きと一緒で、人によって千差万別だ。だというのに完全一致したという事は、あのバーバラと名乗っていた女と悪魔の薬を生み出した奴は同一人物だという証明に他ならない」
ランタンの明かりで透かすように提示した紙には、何者かの指紋が転写されていた。
この指紋がバーバラ――ローズマリー・クレモニアという人物の指紋なのだろう。
男が淡々と事実を並べるにつれ、どんどん顔が紅潮していく商人。
「研究所の事故で行方不明になっていたのだが、どうやらここの孤児院が潜伏先だったようだな。我々としても、"悪魔の薬"の被害がこれ以上広がるのを防ぎたい。よって確保または――抹殺しようとしていた所なのだ」
そこまで口にして、男は商人の肩をポンと叩いた。
そして、静かに耳打ちする。
「息子の仇討ちだ、我慢する必要など無いだろう。あの性悪女を許す必要も見逃す必要も無い――」
男が喋り終えるのを待たず、商人は無言で男の下を離れ、部屋の扉を荒々しく開け放ち、外へと出て行った。
「――我々の研究成果を持ち逃げした、報いは受けて貰うぞ? ローズマリー・クレモニア」
ただ一人残された室内で、ポツリと男は呟いた。
前半部分終了キリが良いので一旦ここまでー
後編の完成度は35%位
続きは早めに出せると良いなぁ
DLC後半来るから……ね?




