6-7.魔法が使いたい[チート編]
※2018/6/11 誤字修正しました。
サトゥーです。手に入れたら使ってみたくなるのは、古今東西変わらないのかもしれません。
異世界でも、やっぱりそうみたいです。
◇
「■▼▲▲ ▲■▲▲ ▲▲ 盾」
短杖を構えたオレの前に、半透明の長方形の盾がスウゥと出現する。全身を隠すような大型サイズだ。
「行くわよ~ 精神衝撃弾」
不可視のアリサの魔法の弾丸が盾に弾かれて消える。
お、メニューのオレのHPバーの下に「盾HP」と書かれた表示が増えている。HPは100で、アリサのさっきの攻撃で1ポイント減っている。しばらく待ったが回復はしなかった。
「次いい?」
「来てくれ」
「いくよ椿君! これが、僕のオーバードライブシュートだ!」
アリサが何かのパロディーに合わせて精神衝撃波を放つ。それは盾を少し揺らしたものの、精神衝撃弾と同じように弾かれて消えた。
今度はHPが3ポイントほど減った。一定値じゃなく、呪文によって違うのかな?
「じゃあ、次、ナナの魔法の矢を頼む」
「はい、マスター」
ナナの額に生まれた魔法陣から魔法の矢が放たれる。
キンッという金属質な音がして魔法の矢が消滅する。HPは1しか減っていない。
「次、ミーア頼む」
「ん。 ■■■ ■■ ■■■■ 水弾」
ミーアの横に置かれた水瓶の中の水から水弾が作られ、オレに飛来する。着弾の瞬間、盾が少し震えた。魔法が解けた水が足元にベチャっと落ちる。HPの減りは1ポイントだけだ。
「ミーア、範囲攻撃はある?」
「ある」
「じゃあ、それを正面から頼む」
「危ない」
「オレ以外は安全なのはある?」
「ある」
「それお願い」
「……サトゥー?」
「当たる前に避けるから」
「ん。 ■■■ ■■■ ■■■■■■ 酸の霧」
白い霧状の気体が盾に叩きつけられる。霧は盾で防がれるが、手前の草とかが枯れている。HPは3ポイント減った。
単体攻撃魔法が1ポイント、範囲魔法が3ポイントなのか。この盾って強すぎじゃないか?
「タマ、投石頼む。狙うのは、おヘソの辺りにしてね」
「あいっ!」
ひゅんっ、と風を切って飛んできた石も、今までの魔法と同様に防げた。魔法と違って石は跳ね返されていた。なかなか球速が上がっている、タマの投石にも磨きが掛かってきたな。減ったHPは1ポイントだ。
「よし、次、ポチ。クロスボウで撃って、危ないから狙うのはこの辺にしてね」
「わかったのです~」
ポチの放った短矢は狙いたがわず、オレが指差した左足を正確に狙って飛んでくる。もちろん、当たる前に盾に当たって跳ね返された。減ったHPはタマの投石と同じく、1ポイントだ。
さて、次はリザなんだが、真剣なリザに「あの槍」で突かれるのは正直怖い。盾を一旦解除して、もう一度、張りなおした。必要ないのは判っているんだが、気持ちの問題だ。
「リザ、魔力をたっぷり込めた後に、強打と刺突で全力で突いてくれ」
「わかりました、ご主人さま。お覚悟を!」
いやいや、その台詞怖いって。
ズドンッ、というリザの踏み込みの音と同時に、魔槍が突き出される。
魔槍に押された盾が、オレに当たる寸前までノックバックしてくる。同時にオレの体が、不可視の何かに押される。なるほど、盾を攻略するには質量のある攻撃が適しているみたいだ。
槍と盾の間に赤い波紋が広がっては消えていく。
やがて最後の波紋も消え、リザが槍を収める。一応、補足しておくが、リザは槍が盾を貫通していたとしても、脇の下を潜る位置を狙っていてくれた。
盾のHPは3ポイント減っていた。派手だったのに範囲攻撃と同じか。
「リザ、今度は3回くらい連打して」
「はい」
一撃毎に1ポイント減っていく。
実験は次で最後だ。
「ルル、小石を投げて」
「は、はいっ、頑張ります」
しかし、ルルの気合に反して小石は明後日の方向に飛んでいく。そうだった、投げなれてない人だと、意外に真っ直ぐ飛ばないんだよね。
「ルル」
「ご、ごめんなさい、ご主人さま。えいっ。えいっ」
怒られると思ったのか、ルルが必死の形相で小石を何度も投げる。ああ、美少女顔が勿体無い。
「ルル、落ち着いて」
「は、はい」
ダメ出しされたのだと思ったのか、ルルがシュンとする。困ったような落ち込んだ顔も可愛いな。
「ルル、足元の小石を両手で一杯に持って」
「はい、持ちました」
「次に、そこから3歩前に出て」
「はい……あの、こんなに近くでいいんですか?」
ルルがいるのは盾の1メートルほど手前だ。
「いい、両手に持った石をそのまま下手から盾に向かって捨てる様に投げて」
「はい――あ、当たりました」
「うん、良くやった。偉いぞ」
外す方が無理な条件を整えてみた。石は4つほど盾に当たったがHPは減っていない。やはり一定以上の威力までは無効のようだ。
◇
残念ながら、詠唱ができるようになった訳ではない。
さっき唱えていた呪文も、語句は合っているがリズムはメチャメチャなままだ。
演奏スキルを有効化して意気揚々と詠唱したのだが、ダメだった。「う~ん、前よりマシなんだけど、違うの。ナダミちゃんみたいに、上手いのに譜面を見ない音楽家みたいな感じなのよ」とアリサに言われた。すごく悔しい。
タネあかしをすると、魔法屋で貰った「盾」の巻物だ。
街を出た後、最初の休憩時間に使ってみたところ、メニューの魔法欄に「盾」が追加された。この時に無印の「術理魔法」スキルも手に入ったんだが、「術理魔法:異界」とは別枠なんだろうか?
さっき使っていた魔法も、メニューから選んだモノだ。呪文を詠唱していたのは、カモフラージュという面もあるにはあるのだが、ちょっとした見栄で唱えている振りをしたかっただけだ。
もちろん、ちゃんと唱えていない事はアリサにはバレバレだが、事情は話してあるから問題ないだろう。
ミーアは割と無頓着なので問題無い。
だが、検証は続く。
次はナナの番だ。MPは2割くらいしか減っていないから大丈夫だろう。終わったら補充しよう。
「ナナ、盾を張って」
「はい、マスター」
ナナの正面に、理術で作られた魔法の盾が出現する。見た目はオレの作ったモノと同じだ。
「じゃ、アリサ、精神衝撃弾をナナに当たらない角度で、盾を目がけて撃ち込んで」
「おっけー」
着弾した精神衝撃弾は、オレの時と同様に盾に弾かれて消えた。
ただし、盾のHPは半分まで減っている。具体的な数値はわからないが、HP量が違うのか硬さが違うのだろう。たぶん、レベルもしくはスキルレベルによる差だと思う。
◇
「よし、実験終了~ 御飯にしよう!」
だいぶ時間を喰ってしまったので、リザとルルだけじゃなくオレも調理に参加した。しかも主菜の狼肉のステーキ担当だ。
ミーアとナナを除いた人数分の狼肉を順番に下ごしらえする。リザのアドバイスに従って、筋にナイフで切れ目を入れていき、塩コショウを馴染ませる。
次に、脂身を熱したフライパンに載せて油を馴染ませて、先にスライスしておいた大蒜の油漬を炒めて小皿に取り分ける。後は油の弾ける音を聞きながら肉を手早く焼いていく。アリサとルルの分以外の焼き加減はレアだ。アリサとルルはミディアムがいいらしい。
ミーアの皿は、カットした3種類の果物に蜂蜜をお洒落な感じにかけて、抹茶色の砂糖で彩を加えたモノを用意した。
ナナの水は、ミーアの果物の果汁を数滴だけ垂らしたものだ。早く、ナナも一緒に食事ができるようになってほしいものだ。
いつもの様に「いただきます」で始まった食事だが、いつもより激しい感じだ。何というか一心不乱という言葉がピッタリな食べ方だ。
「おかわりっ!」
そう言ってアリサがステーキの皿を突き出してくる。すでにステーキを食べ終わって皿を舐めていたポチが、呆気に取られた様な顔をして固まった後、スチャッと音がしそうな感じに皿を突き出して「お、おかわり!なのです!」と焦った様に言ってきた。
「おかわり!」
「おかわりです!」
「あの、わたしもおかわりが欲しいです」
ポチに遅れて、タマとリザが皿を突き出しつつ、おかわり宣言をする。ルルもそれに追従するように、控えめにおかわりの催促をしてきた。
いや、肉はあるけど、食べ過ぎて動けなくなるよ?
しかし、それだけでは終わらなかった。
「おかわり」
「マスター、おかわり」
そこには果物の皿とカラのコップを突き出したミーアとナナの姿があった。
もはや、お腹壊すからと、おかわりを拒否する勇気は無く、皆の要望通りにおかわりを作った。
渡すときに、おかわりはコレが最後と言い含めるのを忘れなかった。
食べ終わった後の至福の表情はとても嬉しいんだが、食べ終わった皿を切なそうに見るのは止めてほしい。
ポチやタマだけならともかく、全員で同じ態度を取られると、ネタ合わせしてたのかと聞きたくなってしまう。
それから毎食、オレにも料理を作るように強請られるようになったが、昼食だけで勘弁してもらった。
夜に沢山食べると太るからね。
>称号「食卓の魔術士」を得た。
前の魚の時に称号を得られなかったのは、試食だったからですね。きっとそう。
ナダミちゃんは、作中にのみ登場するバイオリンの好きな灘実衣子ちゃんです。ピアニストな有名人ではありません。
※追記内容は「術理魔法」スキルの取得する行を足しました。







