18-50.台風一家〔後〕
「大雨嵐が来るぞ!」
台風見物に来た島で、お爺さんがそんな事を言い出した。
ちなみに大雨嵐というのは台風の事で、今いるこの島は「流浪の聖者」によって張られた台風除けの結界に守られていて、ここ一〇〇年ほど台風が来ていないという話だったのだが、漁師達の話を聞いたお爺さんが異を唱えたのだ。
「爺さん、大雨嵐なんて来な――」
村人が「来ない」と言いかけた途中で、ゴオッと強い風が吹いた。
「――来ないよな?」
「あ、ああ。賢者様の結界があるんだし」
「ひい爺さんの代から、大雨嵐なんて来た事がないんだ」
村人が震える声で口々にお爺さんの言葉を否定する。
完全に信じていないというよりは、不安だから信じたくない感じだ。
「子供の頃、ひい爺さんが言っていたんじゃ。鰭人や鰓人が岬の陰に避難しだしたら、大雨嵐が来る印だと――」
お爺さんの言葉の途中で、ポツポツと雨が降り出す。
マップを確認したら台風が予想よりも早く接近中だった。
「そんな迷信――」
「なあ?」
村人達が互いの顔を見て不安そうに言葉を交わす。半信半疑な感じだ。
「正常性バイアスってヤツかしら?」
「たぶんね」
小声で言うアリサに首肯する。
村人達も海で暮らす者としての勘が働いたのか、お爺さんの言葉を妄言だと切り捨てられずにいるようだ。
「万が一に本当だったら大変ですよ」
村人達に台風への備えを促す。
「そ、そうだな」
「違ったら、爺さんに酒でも奢ってもらおう」
そう言って村人達が行動を始める。
オレも船を陸にあげて固定するのを手伝った。
お爺さんは村長さんに報せるといって走っていってしまった。
「うはっ、本降りになってきたわね」
アリサがアイテムボックスから出したレインコートを着込む。
シガ王国はあまり雨が降らないから、傘を常備する習慣がない。傘型装備の「アンブレラ」はあるけど、普通の雨具にするには少し重い。
風は周期的に、湿気を含んだ重いのが吹くが、それほど風速は強くないようだ。
「ご主人様、ミーア達には村長達の家に戻るように伝えておいたわよ」
「ありがとう、アリサ」
オレ達も作業を終え村長の家へと戻る。
◇
「びちゃびちゃ~」
「ただいまなさい、なのです!」
村長の家に戻ってしばらくすると、探検に行っていた子供達が戻ってきた。
タマとポチは雨に濡れて毛がぺちゃりとして、いつもよりスレンダーに見える。
ナナは濡れた服が肌に張り付いて、少しセクシーな感じになっていたので、タオルを首に掛けて胸元をガードしておいた。
板の間に上がったらべちゃべちゃになるので、皆を土間のある裏口に案内する。
「サトゥー」
土間に入ると、ミーアが両手を広げて「拭いて」と主張する。
オレが収納鞄から出したタオルでミーアの髪を拭いていると、その後ろにポチ、タマ、ナナが列を作った。
「はい、おしまい」
「ありがと」
「次はポチなので――」
「……■ 余剰水分蒸発」
ニコニコ顔で前に来たポチを、ミーアの水魔法が乾燥させた。
後ろに並んでいるタマとナナもだ。
「完璧」
「――ありあと……なのです」
「にゅぅ~、感謝~?」
ポチとタマが複雑な顔だ。
「ミーア、独占はずるいと批判します」
「ずるくない」
ナナの追及に、ミーアがそっぽを向く。
よく分からないけど、拭いて貰ってから水魔法による乾燥を思いついた、とかじゃ無かったのかな?
「乙女心は複雑なのよ」
アリサがおばさん臭い表情でそんな事を言った。
そうこうしているうちに広間の方から、ガヤガヤと大勢の声が聞こえてきた。
マップを確認したところ、村人達が集まっているようだ。
「ちょっと見てくるよ」
広間の方に向かうと、不安そうな顔の村人達が薄暗い部屋で顔をつき合わせて騒いでいる。
「どうして、いまさら大雨嵐が」
「このまま風や波が強くなったら、港の船が流されるんじゃないか?」
「作物だってそうだ。雨で流されちまうかもしれん」
どうやら、話題は台風の接近についてらしい。
「よそ者が来たからか?」
オレに気付いた村人が睨み付けてきた。
「おい、やめろ。よそ者が来るくらい、何度もあったじゃねぇか」
「そうそう、子供達が怯えるだろ」
良い人達で良かった。
――というか、子供達?
そう思って振り返ると、アリサを筆頭に子供達が入り口の陰から、トーテムポールのように頭を並べて覗き込んでいた。
「皆さん、大雨嵐への備えは万全ですか?」
「備え? 何をするんだ?」
「子供や年寄りは家に帰してあるぞ?」
一〇〇年も台風が来なかったのなら、備えなんてしていないんじゃないかと思って尋ねたら、案の定な反応が返ってきた。
「強風で飛ばされそうなモノを固定したり、川沿いの家なら雨で増水した川が氾濫して床上浸水しないように土嚢を置いたり、山沿いの家の人は土砂崩れが怖いので村長さんの家に避難したり、とかですね」
何をすればいいと尋ねられたので、日本での経験をもとにそんな事を伝える。
「特に屋外に置いてある農具とかは厳重に縛っておきなさいよ。風で飛ばされて隣家に突き刺さったりしたら目も当てられないわよ!」
「農具? あんな重いモノが飛ばされるわけが――」
「飛ばされますよ。今回の大雨嵐は規模が大きいみたいですから」
アリサと一緒に警告すると、危機感を覚えたのか、村人達が一人、また一人と抜けて家に飛んで帰っていった。
しばらくすると、子供や老人を連れた一家が何組も村長宅へとやってくる。
「ぴちょん、ぺちょん~」
「ぴったんこ、なのです!」
天井からの雨漏りを受け止める桶を囲んだ子供達が楽しそうに、リズムを刻んでいる。
ミーアがそれに合わせて楽しげな音楽を奏でてくれるお陰で、泣きっぱなしだった赤ん坊も今ではきゃっきゃと楽しそうに笑っている。
それでも――。
「ご~ご~ご~」
「ものすごい音なのです!」
本格的に台風になって、強風が木々を揺らし家を軋ませ始めると、子供達の顔から笑みが消えた。
窓は全て閉めて紐で固定してあるが、風圧でできた隙間から風と雨が吹き込んでくる。
「きゃあああ」
「床が浮いたのです!」
「あんびり~ばぼ~」
強風のあまり、床下からの風で床板が浮かぶ。
ここの床板は釘で固定するのではなく、蔦で縛ってあるようだ。
「とてもアメイジングだと告げます」
「にゃはは~」
「床がふわふわで、びっくりなのです!」
「「きゃあああ」」
ナナや年少組は楽しそうだけど、周りの村人達は顔面蒼白な感じだ。
このまま砕けても困るので、魔術的な念動力である「理力の手」の魔法で床板をまんべんなく支えてやる。
思ったよりも激しい台風だ。
「ご主人様、他の家は大丈夫かしら?」
「どうかな?」
マップ情報だと、何組かの一家が村長宅を目指して移動していた。
怪我をしている村人も多いので、空間魔法の「遠見」で確認すると、何軒かの家が倒壊したり、屋根が吹き飛ばされたりしている。
「ミーア、風の精霊を呼べるかい?」
「ガルーダ?」
「いや、避難の補助をするだけだから、シルフでいいよ」
「分かった。■■■……」
ミーアが精霊魔法の詠唱を始める。
残念だけど、台風体験はここまでのようだ。
さすがに怪我人や大きな被害が出ている状況で、台風気分を満喫できるほどオレの心はタフにできていない。
「貴族様、どこに?」
「心配いりません。■◆▲……」
詠唱の振りをし、メニューの魔法欄から「防護陣」の魔法を使う。
魔法が発動し、大きな村長さん宅をすっぽり覆う魔法障壁が、風と雨を完全にシャットアウトする。
「……こ、これは」
「術理魔法ですよ。あまり効果時間は長くありませんが、交代で魔法を使えばなんとか朝まで張り続けられるかもしれません」
本当は一人で何年でも張り直し続けられるが、そんな事を正直に言ったら「どうして今まで張ってくださらなかったのですか!」と怒られそうだからね。嘘も方便だ。
「なんだ、こりゃ?」
「魔法か?」
「大魔法使い様だ」
急に風がやんだ事で、村長宅にいた人達が興味本位で入り口に来る。
「皆さん、魔法障壁の外は危険ですから、絶対に家から出ないでください」
村人達が魔法障壁の外に手を出そうとするので、そう釘を刺しておく。
村の子供達なんて、そのまま外に飛び出しそうな雰囲気だったんだよね。
『ご主人様、「戦術輪話」の魔法で皆を繋いだわ』
『ありがとう、アリサ』
戦術輪話越しに皆を集める。
『家が倒壊した人達の避難を補助するぞ』
『『『応!』』』
「ポチ隊員とタマ隊員は入り口の確保。この板を魔法障壁の穴に押しつけて風が入ってこないようにするんだ」
「あいあいさ~」
「はいなのです!」
「ミーアはここからシルフの操作。ルルはミーアの護衛を頼む」
「ん、分かった」
「はい、頑張ります!」
「ナナとリザは悪いけどオレと一緒に来てくれ」
「イエス・マスター」
「承知!」
「アリサはここでネゴシエーションを頼む。村人が外に出ないようにしてくれ」
「分かったわ!」
オレはリザとナナを連れ、魔法障壁の外に出る。
「リザとナナはペアで行動して、避難する村人達を村長宅へとエスコートしてくれ」
「イエス・マスター、エスコートは得意だと告げます」
「ご主人様はどうされるのですか?」
「オレは倒壊した家屋の下にいる人達を助けてくる。二人のナビゲートはミーアのシルフがしてくれるはずだ」
シルフを見ると、フォンと風音で賛同の意を表してくれた。
「二人とも飛来物に注意するんだよ」
そう注意して二人と別れ、倒壊した家屋からの救助に向かう。
一応、サトゥーじゃない姿に変装しておこう。
「……タス、ケテ」
「もう大丈夫だよ」
死にそうな子供を救助し、流れ込んだ雨で溺れそうになっていた大人達を助け出す。
助け出した人達は、エスコートを終えて戻ってきたリザとナナに預けて次の家に向かう。
土砂崩れを「土壁」の魔法で支え、氾濫した川の水をストレージに収納して床上浸水を防いだ。
大変な救助作業が終わりそうな頃、急速に雨や風が止む。
「大雨嵐が通り過ぎたのか?」
――違う。
台風の目に入っただけのようだ。
一通りの工事は終わったし、そろそろ村長さんの家に戻ろう。
◇
「貴族様、良かった。風に飛ばされたんじゃないかと心配しておりました」
村長さんの家に戻ると、目が合った村長さんからそんな風に言われた。
「すみません。道に迷って海岸の方まで行ってしまっていました。皆さんは大丈夫でしたか?」
「はい、貴族様の魔法のお陰で無事でございます」
それは良かった。
「村長、大雨嵐が去ったなら家に帰りたいんだが……」
「畑の様子も気になるしな」
「俺は港の舟だ」
村長さんと話していると、避難していた村人達が口々に村長に訴える。
「それは止めた方がいいですね」
「なんでだ?」
「よそ者に指図される謂れはないぞ」
親切でそう忠告したら、気の短い村人に噛みつかれた。
「大雨嵐は去っていません。今の状態は一時的なものです」
オレは台風の目について村長や村人達に伝える。
「嘘だろ……」
「また、あの雨と風が」
村人達がショックを受けている。
ここにいれば安全だからと告げると少し落ち着いた。
「大変だ! カーンが裏口から出ていったぞ!」
「ヨォーサやドォンもだ」
何人かの村人が出て行ってしまったようだ。
やはり、舟や畑が心配でたまらなかったのだろう。
「貴族様……」
「仕方ありませんね。風が強くなってきたら、確認前でも戻るように伝えてください。子供やお年寄りは出かけさせないでください」
「わ、分かりました」
村長にそう伝えると、村人達が我先にと飛び出していった。
この調子だと、何人かはオレ達が回収に向かうはめになりそうだ。
そんな時だ――。
「――グォン! どこに行ったの?」
二十歳くらいの女性が血相を変えた顔で聞いて回っている。
グォンというと、オレ達をこの家まで案内してくれた男の子の名前だ。
「どうかされましたか?」
「グォンが! 息子がどこにもいないの!」
なんでも台風の目に入ったあたりで姿が見えなくなったらしい。
マップ検索したら、グォン少年が裏山の方に移動しているのが分かった。
「もしかして~?」
「きっとそうなのです!」
小声で言うタマとポチの会話が聞こえてきた。
「ポチ達が探してくるのです!」
「お任せあれ~?」
そう言うなり、二人が瞬動もかくやという速さで家を飛び出していった。
「待ちなさい、二人とも!」
リザが呼び止めるも、既に二人の姿はない。
マップを見る限りだと、グォン少年と同じ方向に進んでいる。
どうやら、二人にはグォン少年の行き先が分かるようだ。
「サトゥー」
「マスター、私達にも行き先が分かると告げます」
ミーアとナナがそう口にした。
「そうか! 二人も一緒だったね」
「イエス・マスター。案内は任せてほしいと告げます」
「よし、行こう。お母さん、グォン君の事はお任せください」
ナナとリザの二人を連れて家を飛び出し、ポチ達が使ったであろう山道を駆ける。
『ご主人様、何人かの村人が男の子を探して飛び出していったわ』
家に残ったアリサから遠話の魔法で連絡が届いた。
マップで確認したら、グォン君のお父さんを含む三人が追いかけてきているようだ。
『ありがとう、アリサ。こっちでも確認したから、帰りに回収するよ』
『うん、こっちでも何かあったらまた伝えるわ。怪我しないように気をつけてね』
アリサに礼を言って、遠話を切る。
それほど高い山ではないので、すぐに目的地に辿り着いた。
「マスター、あのあたりだと告げます」
「いました! ポチ、タマ!」
大きな木の根元に二人の姿がある。
マップによると、グォン君は木の洞の中にいるようだ。
「あ! リザなのです!」
「ご主人様とナナも~」
オレ達に気付いたポチとタマがぶんぶんと手を振るが、すぐにリザが怒っているのに気付いて、耳をぺたんとして表情を曇らせた。
「お前ら、大人に知らせたのか!」
「知らせてない~?」
「はいなのです。ポチはお口にチャックなのですよ!」
タマとポチが大木の方を向いて弁明する。
三人が仲直りできるように、少しゆっくりめの速さで大木へと向かおう。
「そっちに行ってもいいかな?」
「来るな!」
グォン少年が頑なに拒否する。
それにしても、大木の洞で何をしているんだろう?
――あっ。
光点が重なっていて気付かなかったけど、グォン少年の傍に何かいる。
野良犬か何かを拾ったらしい。
「グォン! ここか!」
ガサゴソと音がして、他の大人達が追いついてきた。
よほど急いだのか、息も絶え絶えだ。
「父ちゃん?! こっちに来ないで!」
父親はグォン少年の言葉を無視して傍に歩み寄る。
「なんだ、何を隠している?」
「何もいない! ここには何もいないったら!」
「見せろ! なんだこれは?!」
「やめて! シロケーに酷い事しないで!」
父親がグォン少年から白い毛玉のような生き物を取り上げる。
「乱暴はダメ~?」
「そうなのです! 狼藉禁止なのですよ!」
「返して!」
「グルガー、なんだそれは?」
「知らん。魔物の子供だろう」
「魔物? 魔物をかくまうなんて、この子は魔物に取り憑かれたのか?」
何か、どこかで見たような流れだ。
それはいいとして、AR表示が白い毛玉のような生き物の正体をオレに教えてくれる。
「そういう事か……」
皆にその事実を伝えようとした時、さっきまで止んでいた風が猛烈な勢いで吹き荒れた。
凄まじい風だ。
オレは常時発動している「理力の手」で、風に飛ばされそうになっている子供達を支え、グォン少年の父親から白い毛玉を取り上げる。
「何をする?」
「親に返します」
「――親?」
「はい、あそこに」
訝しげな父親だったが、オレが指さした方向を見上げて、その顔を驚愕に染めた。
分厚い雲を突き破って、巨大な白い毛玉が現れた。
毛玉の中心にある瞳がオレ達を見下ろす。
「な、なんだアレは?!」
「魔物だ!」
「この島はおしまいだ」
大人達が狼狽の叫びを上げた。
「魔物じゃありませんよ」
あれは「颱風毛玉」。
この島を襲った台風の元凶にして、ユニコーンなんかと同じ幻獣だ。
「この子を取り返しに来ただけです」
オレは「理力の手」で腕に抱えた小さな毛玉を空へと差し出す。
天空に浮かぶ巨大な毛玉から伸びた二本の白い毛が、小毛玉を腕に抱くように愛おしげに受け取った。
するすると白毛が本体に巻き戻される。
――TYPHOOOOOOOON。
風音のような歓喜の咆吼が上がった。
分厚い雲が流れていき、空が晴れ渡る。
「みてみて~」
「虹のヒトなのです!」
颱風毛玉の去った空に、綺麗な虹のアーチが掛かっていた。
どうやら、この島の台風はこれで終わりのようだ。
◇
「なんと! そのような生き物が!」
事の顛末を聞いた村長が、驚きの声を上げた。
周りで聞いていた留守番組の仲間達や村人達も、不思議そうな顔をしている。
「ですが、どうしてそんな生き物がここに?」
「おそらくですが――」
そう前置きしてオレの見立てを告げる。
小毛玉――颱風毛玉の子供は、風に乗ってこの島に迷い込み、それを大毛玉――颱風毛玉の親が捜しに来たのだろう。
結界が無事なのに台風が来たのは、子供を捜す颱風毛玉のせいだったのだ。
「――つまり」
静かに聞いていた村人の一人が呟きを漏らした。
「大雨嵐が来たのはグォンのせいって事か?」
その不穏な言葉に、家が倒壊した家族の鋭い視線がグォン少年に突き刺さる。
そんな少年をお母さんが身体で隠すように抱きしめた。
おっと、誤解を早く解かないと。
「違いますよ」
「違う? 違わねえだろう?」
「そうだ! 何が違う! こいつのせいで俺の家は台風で潰れたんだ!」
すぐに否定したのだが、ヒートアップした村人達が捲し立てるせいで、詳しい説明をする暇がない。
パンッと猫だましをして、衝撃波に彼らが驚いた隙に言葉を続ける。
「彼が颱風毛玉の子供を保護してくれていなければ危なかった」
「ど、どういう事だ?」
「颱風毛玉の子供は非常に虚弱です。親元から離れた子供は、すぐに衰弱し、死んでしまいます。グォン少年が子供を拾って介抱してくれていなければ、きっと親が迎えに来た時には衰弱死して、この島は子供を亡くした親の悲しみで壊滅するまで大雨嵐の餌食になっていたでしょう」
オレは詐術スキルの助けを借りて、少々オーバーに話を盛る。
村長の家に戻る途中で、ボルエナンの森のハイエルフ、愛しのアーゼさんに遠話で「颱風毛玉」の生態について尋ねたのだ。
なので、颱風毛玉の子供が虚弱なのは本当だが、その後の台風の餌食云々は単なる可能性の話だったりする。
「そうか、そうだったのか……」
「よくやったな、グォン」
「偉いぞ!」
村人達が掌をくるりと返し、グォン少年を称賛する。
その後は、予定していた宴が決行された。
「――復興もせずに騒いでていいのかしら?」
「ははは、構わねぇよ。今日は命が助かった事を祝うのさ!」
アリサの呟きを聞いた村人が、酒に酔った顔でそう告げる。
南の島の人達は、なかなかにおおらかだ。
「お嬢ちゃんも果物のジュースを飲みな」
「ありがとう、お姉さん」
「貴族様にはとっておきの地酒だ」
濃厚な果実酒が杯を満たす。
アリサと軽く乾杯をして、口を付けた。
濃密な果実の香りに遅れて、強い酒精の強烈なパンチが来る。蒸留酒でもないのに、なかなかのアルコール度数だ。でも、美味い。これはなかなかあたりの酒だ。
「それにしても、不思議な生き物だったわよね」
「全くだ」
アリサの感想に同意する。
さすがは異世界。台風一つとっても、なかなかファンタジーだね。
オレは驚きと共に、この世界にどんな不思議が眠っているのか、わくわくが抑えられない。
迷宮都市での修行を終えたら、色んな場所に出かけて、色んなものを見て回りたいね。
「その時は私達も一緒よ?」
アリサがオレの心を読んだようにそう言った。
どうやら、途中から口にしていたようだ。
「いえすぅ~」
「もちろん、ポチも一緒なのですよ!」
タマとポチがそう続けると、傍にいた他の子達も口々に同意を示す。
「そうだね。強くなったら、皆で世界を観光して回ろう」
それこそ、この大陸周辺だけじゃなく、惑星全土や他の星、あるいは他の世界まで。
うん、夢が広がるね。
※次回は来月に投稿できたらいいな







