18-44.ゼナ隊結成!〔後編〕
※更新が遅れてすみません! なんとか年内に間に合わせました!
「あれはなんでしょう?」
ゼナが指さす方に、怪しげなローブを着たおっさんがいた。
「末世を乗り越えるために、人々は己の心に『自由の翼』を持たねばならぬ! ならぬのだ!」
よく分からない事を捲し立てているが、まわりの村人達は迷惑そうな視線を向けるだけで、まともに耳を傾けていない感じだ。
「春の陽気に誘われた変人じゃね? それよりメシにしよう」
「賛成」
ルウの適当な発言に同意して、なおも変人の事を気にするゼナとイオナを促して食堂に向かう。
どこも、春先は変なのが多いから。
それよりも、変人の相手をする間にメシがなくなったら困る。
「で、でも……」
ゼナは気になるようで、何度も振り返る。
「この邪教徒め! そこで何をしておるか!」
神官服の男性が出てきた。ザイクーオン神殿の人かな?
なんだかややこしい事になりそうな予感がする。
ゼナとイオナが足を止めた。
ルウと視線が合う。
どうすると視線で問うルウに肩を竦めてみせた。
さすがに同僚を見捨ててメシを優先しても、なんとなく気になってメシを味わえないからさ。
「愚民達に末世の生き方を説いておるのよ!」
「この邪教徒め! 何が末世だ! 我らが神ある限り、末世など訪れるものか!」
なんか難しい事を言ってる。
神官さんも真面目に相手しなけりゃいいのに。
――あ、殴った。
神官さん、気が短い。
「止めないと!」
「ゼナさん!」
ゼナが後先考えずに飛び出した。
仲裁に入ったゼナが殴られそうになったのを、イオナが割り込んで巧みに受け流す。
まったく、無茶するお嬢様だ。
「――二人も手伝って!」
イオナがあたし達に助けを求める。
「しゃーねぇ」
「行くか」
ルウと手分けして、邪教徒のおっさんと神官を取り押さえる。
あたしは運動不足っぽい邪教徒のおっさんの方を担当した。
「放せ! このよそ者が!」
「なぜ、私まで拘束する! 私は栄光あるザイクーオン神殿の助祭だぞ!」
どっちも喧しい。
「なんの騒ぎだ!」
バクターがやってきた。
一緒にいる老人は村長だろう。
「また、お前か!」
「出てくんなよ、クソオヤジ!」
邪教徒のおっさんは村長の息子らしい。
どうりで、村の連中は迷惑そうな視線を向けるだけで何もしなかったはずだ。
「放せよっ」
おっさんが藻掻く。
村長に視線を向けて問いかけると、「放してやってください」と答えが返ってきた。
もう暴れる事はないだろうし、あたしもルウも二人の拘束を解く。
「何しに来たんだよ!」
「バカ息子が騒動を起こしていると言われれば来ないわけにはいかんじゃろ」
「いつまでも半人前扱いしやがって!」
おっさんが未成年のガキみたいな反応をする。
そういうのは思春期で卒業しなよ。
「お前らも、お前らも! 俺の事をバカにしやがって! 末世で悲惨な目に遭っても助からないんだからな!」
こっちを指さした後、脱兎のごとく林の方に逃げ出した。
速っ。あの体形でなんであんなに足が速いの?
「追う?」
捕まえるなら、なんとかなりそうだけど。
「いいえ、無用です。どうせあいつに村を出る勇気はありませんから」
「そう」
そういうやつは追い込まれると馬鹿な事をしでかすから油断できないんだけどさ。
「結界柱の外にいきましたけど、大丈夫でしょうか?」
ゼナってばお嬢様だけあって人が良すぎるでしょ。
「心配するだけ損だって」
「そうそう。地元なんだから、危険な場所くらい心得てるさ」
「リリオやルウの言う通りです。行きましょう、ゼナさん」
あたし達は空気だったバクターをスルーして、食堂へと向かった。
食堂で出たメシは、ごく普通の田舎料理だったけど、クソマズい携帯食や夜営飯に比べればご馳走だ。
それは貴族のお嬢様も一緒らしく、ゼナもイオナもあたし達と同じく美味しそうに食べていた。
◇
「よう、リリオ! お前らも飲みにいかないか?」
食堂を出ると、外で屯していた同僚の男どもに誘われた。
「行くわけないでしょ」
「いいじゃねぇか、行こうぜ」
「飲んだくれて、魔物や害獣の夜襲があったらどうすんのよ」
「ないない」
「なー、行こうぜ」
今日はやけにしつこい。
男どもの視線で気付いた。
こいつらの狙いは美人のイオナと、お嬢様なゼナだ。
「誘いたい相手を直接誘いなよ」
まったく気分が悪い。
「えー、いや、それは、なあ?」
「さすがに無理だ」
煮え切らない男どもを放置して宿舎に向かう。
「リリオさんってモテるんですね」
「リリオ」
「――え?」
「『さん』はいらない。リリオでいい」
貴族のお嬢様に「さん」付けなんかされたら周りに何を言われるか。
「じゃあ、リリオ」
ゼナがそう言って、恥ずかしそうに口元をほころばせた。
なんか、素で可愛いな。
育ちがいいせいかね? あたしにはできない顔だ。
「それでなんの話だっけ?」
「リリオがモテるって誤解だろ」
「誤解じゃねーよ。あたしはモテる!」
今はともかく未来はモテるはずだ!
「すごいです、リリオ」
ゼナがあたしを尊敬の目で見る。
揶揄じゃないのがアレだね。
「まー、あたしがモテるのは事実として――」
「事実?」
失礼な事に、ルウが首を傾げる。
そこ! あんたあたしの事、それほど知らないでしょうが!
「――さっきの連中が見てたのは、あんたらよ」
「私、ですか?」
ゼナが不思議そうな顔になる。
なるほど、自己評価の低いタイプか。
「そう。あいつらは、あんたとイオナを誘いたかったのよ」
「イオナさんはともかく、私は無いですよ」
ゼナがハハハと笑った。
イオナが「そんな事ありませんよ」とフォローしている。
こういう女子のノリは久々だ。
「よう、リリオ。あのさ――」
さっきとは別の男が声を掛けてきた。
面倒なので、適当にあしらってその場を離れる。
「どいつもこいつも……」
なんで、最初はあたしなのよ。
そんなにホイホイついてきそうな顔してるっていうの?
「まあまあ、そんな怒るなって」
ルウが馴れ馴れしく肩を組んでくる。
まったく暑苦しいヤツだわ。
◇
「――ん?」
夜中に目が覚めた。
誰かが外で騒いでいるみたいだ。
あたしは音を立てないようにベッドから抜け出し、窓を押し上げて外を見回す。
ここからじゃ見えない。反対側みたいだ。
ちょっと見に行ってみよう。
念の為、革鎧を着込みながら、小剣を腰に差す。
寝る前に書いてた日記が枕の下からはみ出ていたので、それは自分の背嚢に突っ込んでおいた。
「――息子が帰ってこないんだ」
焦った感じの年老いた声が聞こえた。
さっきの村長の声だ。
「子供じゃないんだから、隣村か隣町で飲んだくれているんだろ」
村長と村人達が話しているらしい。
「そういえば、あいつが山の中腹にある洞窟に出入りしているのを見たぞ」
「邪教の怪しい儀式でもしてるんじゃないか」
なるほど、さっき逃げ出した邪教徒のおっさんがまだ戻ってこないのか。
「そういえば今日は山が騒がしい気がするな……」
ハゲた村人が不穏な事を呟いた。
「リリオさん、何があったんですか?」
宿舎から装備を調えたイオナ達が出てきた。
イオナとゼナはちゃんとしているけど、ルウはちゃんと鎧と服を着られていない。
だらしない格好をしていると、いい男にモテないぞ。
「村長の息子――夕方のおっさん邪教徒が帰ってこないんだってさ」
あたしの説明に被さるように、猛獣の吠え声がした。
「なんだ、今の?」
耳を澄ますと、遠くで草を掻き分ける音と誰かの悲鳴が聞こえた。
「息子だ!」
村長が駆け出す。
一人じゃ危ない、と村人達が村長を追いかける。
「私達も追いましょう!」
ゼナが即座に駆け出した。
イオナが追いかけ、あたしはルウと顔を見合わせてから、仕方なく追いかけた。
「ぐぉおおおおおおおおおお」
林との境にある柵を突き破って、おっさん邪教徒が駆け込んでくる。
後ろから赤い双光が幾つも追いかけてくるのが見えた。
「ゼナさん、止まって!」
「ルウ、村人を」
「応! 任せとけ!」
イオナがゼナを引き留め、あたしは村長達を追い越して、かがり火から拝借した松明を林に投げ込む。
延焼が怖いけど、この季節なら大丈夫のはずだ。
「魔物、視認! 三匹! アリ系の魔物よ!」
あたしは松明の明かりに照らし出された追跡者の正体を後続に伝える。
それが斥候の役目だからだ。
「このあたりでアリ系というと――」
「大塚蟻だと思います。中距離でギ酸、近距離で噛みつきや体当たり、至近距離だと爪を使う事もあるそうです」
ゼナが詳しい魔物の情報を語る。
さすがは魔法兵。いや、真面目だからか? 新兵のくせに、このへんの魔物の情報をベテラン並みに把握してるみたいだ。
「リリオ、笛はある?」
「あるよ――」
イオナに言われてすぐに笛を取り出す。
緊急時のリズムで警笛を鳴らした。
まったく、言われるまで忘れているなんて、斥候失格だ。
「来るぞ!」
ルウが叫ぶ。
「村人の方に二匹行きました! ■■……」
「ゼナさん! 魔法はダメです!」
詠唱を始めたゼナをイオナが制止し、そのまま大塚蟻と村人の間に割って入る。
残りの一匹はなぜかあたしの方に向かってきた。
たぶん、あたしが小さくて弱そうに見えたんだろう。ムカつく。
「ルウ! 剣で盾を叩いて注意を引け!」
「応! 任せとけ!」
イオナの指示でルウが盾を叩くと、村人に向かった一匹がルウに矛先を変えた。
これで、イオナとルウとあたしの三者に一匹ずつだ。
正直、辛い。
重武装のイオナやルウはともかく、あたしは一発でももらえば動きが鈍って、あとは死ぬまでいたぶられて終わりだ。
だからといって、紙装甲の魔法兵であるゼナに受け持たせるのは無理だ。
私は空いている手で顔を叩いて、気合いを入れ直す。
さあ、来い。アリ野郎!
初手のギ酸は横に飛んで回避する。
熱い。避けきれずにちょっと浴びてしまったらしい。今年買ったばかりの靴から白い煙が上がってる。
くそっ、こいつは絶対に泣かしてやる。
悪態を吐く間にもアリ野郎は接近し、あたしに体当たりを仕掛けてきた。
――速い。
「こなくそっ」
あたしは横に転がって避ける。
マジか。アリ野郎が横滑りするように移動して、足の爪であたしを引き裂こうと地面を耕すように連打してきやがった。
死ぬ死ぬ死ぬ、死んじゃぅ――。
「――気槌!」
アリが吹き飛んだ。
あたしも余波に巻き込まれて地面を転がる。
今のは風魔法だ。
あたしはゼナに救われたらしい。
アリ野郎はタフでまだ生きてる。
だけど、まだ満足に動けないみたいだ。
持っていた小剣はどこかに落としたけど、腰のナイフはまだある。
あたしはアリ野郎に駆け寄り、節の間を狙ってナイフを突き立てた。
――浅い。
アリ野郎は緑色の血をまき散らしながら、あたしを振り払い、ゼナに向かって突進していく。
「足薙ぎ!」
大剣がアリ野郎の足を何本も薙ぎ払った。
「イオナさん!」
「ゼナさん、下がって」
イオナが大剣を油断なく構えてゼナの前に立つ。
さっきまで彼女が相手をしていた大塚蟻は、二匹ともルウが相手をしているようだ。一匹は血まみれだけど、もう一匹は無傷のようだ。
「イオナ、長くは持たねぇ」
「分かっています! リリオ、一緒に倒しますよ」
「了解!」
あたしの攻撃はアリ野郎に通じない。
なら、する事は一つだ。
「こっちだよ!」
あたしは拾った石を投げてアリ野郎の注意を引き、振りが大きなイオナの大剣が攻撃する隙を作る。
「早くしろ! 盾が保たねぇ!」
「……■■■ 絡気流」
ルウと戦う大塚蟻の動きが覿面に鈍った。
「ありがてぇ、これならなんとかなる」
向こうは大丈夫そうだ。
――あった。あたしの小剣だ。
「イオナ! 合わせろ!」
アリ野郎の死角から飛び込んで、後ろ足の付け根に突きを叩き込んだ。
それ自体は大したダメージを与えられないけど、怒りに駆られたアリ野郎の注意があたしの方を向く。
「強打!」
イオナの一撃が弱点を晒したアリ野郎の頭部を叩き落とした。
これで一匹。後は順番に倒すだけ――。
「――嘘でしょ」
あたしの気配察知に幾つもの違和感が引っかかった。
「リリオ?」
「やばい、向こうの増援だ」
林の向こうから新手の大塚蟻が来る。
一匹じゃない。五匹以上一〇匹以下の群れだ。
「撤退しましょう」
「大賛成だけど、こいつらが邪魔だ」
「ゼナ、何か良い魔法はないか?」
イオナと一緒にルウに加勢しながら尋ねる。
「すみません、さっきので魔力切れです」
「なら、先に逃げろ!」
「でも! 私だけ逃げるなんて!」
ゼナが聞き分けのない事を言う。
背中を預ける仲間としては合格だけど、このままじゃ無駄死にだ。
「ゼナさん! 班長達を呼びに行って下さい!」
「――分かりました」
イオナ、上手い。
ゼナもイオナの意図に気付いたみたいだけど、すぐに踵を返して駆け出した。
あたし達は懸命に奮闘し、なんとか片方のアリ野郎を倒し、残り一匹も機動力をそぎ落とせそうだ。
「ちっ、時間切れみたいだぜ」
「リリオさん――」
「殿なら任せておけ」
イオナは先に逃げろって言いたかったんだろうけど、足の遅い重装備の二人より、あたしの方が生き残れる確率が高い。
せいぜい足掻いて――。
「よくぞ保たせた」
村の方から領軍の仲間達が来た。来てくれた。
あたしは砕けそうになる腰に気合いを入れ、仲間達と交代で後ろに下がった。
「良かった、リリオ!」
ゼナがあたしを抱き締める。
彼女はちゃんと役割を果たしてくれたみたいだ。
「後は任せて大丈夫そうですね」
「はあ、やれって言われても、動けねぇよ」
イオナが片膝を突き、ルウが大の字になって倒れる。
二人とも、重装備の鎧が傷だらけだし、ルウの盾にいたっては持ち手が壊れてしまっているようだ。
「手当しなきゃ!」
「大した傷じゃありません。村に戻ってからで構いませんよ」
大塚蟻の群れを始末した領軍の仲間達と一緒に村に戻る。
「こいつ、マジか……」
援軍の中にいないと思ったら、バクターの野郎は取り巻き連中と一緒に、酔っ払っていびきを掻いて寝てやがった。
「起きろ、くそ野郎!」
あたしはバクターの顔を踏みつけて叩き起こした。
「な、何事だ?!」
「魔物の襲撃だよ」
「な、なにぃ? 剣だ! 俺の剣を持ってこい!」
騒ぐ酔っ払いの始末を古参兵に任せ、あたし達は応急手当をしてからベッドに入った。
◇
蟻の巣の始末で三日ほど延長した巡回も無事に終わり、あたし達は一人も欠ける事なくセーリュー市へ戻ってくる事ができた。
「よくやった! 村に被害が出る前に魔物の巣を潰せたのは、伯爵様もお褒めになっておられたぞ」
城に帰還後、あたし達はキゴーリ様からお褒めの言葉をもらった。
嬉しい。太っ腹なキゴーリ様なら、きっと金一封か宴会の一つも開いてくれるはずだ。
「勲章は後日与えるが――」
キゴーリ様の視線があたし達の方を向いた。
「ゼナ、イオナ、ルウ、リリオ、来い」
おお、名指しだ。
これは金一封? もしかして、休暇付きだったり?
あたしはうきうきした気分で前に出る。
「魔物の巣の討伐作戦で大活躍したそうだな。報告書でも絶賛されていたぞ」
――え?
あのバクターが、他人を褒める?
噂だと部下の手柄は全部自分のモノにするっていう、くそ野郎のバクターが?
信じられない思いでバクターの方を見たら、あいつも信じられないって顔をしていた。
「キ、キゴーリ様、俺はそんな報告書は書いてませんが……」
だよね。あんたはそういうヤツじゃないよね。
くそ野郎がくそ野郎と確認できただけなのに、不思議な安心感がある。
「バクター、貴様に発言を許した覚えはないぞ」
「も、申し訳ありません!」
キゴーリ様に叱られたバクターが、冷や汗をかいて直立不動の姿勢を取る。
さすがは領軍最強の男、バクターとは役者が違うわ。
「さて、話がそれたな」
厳しい顔を緩めたキゴーリ様がこちらを見る。
「ゼナ、イオナ、ルウ、リリオ、お前達を新たな魔法兵分隊とする」
魔法分隊?
あたしがそんなエリート部隊に入れるの?
マジか。大出世じゃん。
このメンバーだと、イオナあたりが分隊長かな?
アリ退治の時の指示も的確だったし、お似合いなんじゃないかな。
「――リリオさん」
イオナに言われて、あたしだけ敬礼していないのに気付いた。
あたしは慌てて皆と一緒に敬礼する。
「さて、次はバクター」
「はい!」
バクターがニマニマとキモい笑みを浮かべながら前に出る。
自分達の功績がコイツの功績になるのは納得がいかない。
「貴様の巡回班長の役職を解く」
「ええっ?!」
「不満か?」
「は、はい! 俺は――私は巡回班を指揮し、功績を挙げました。どうして、役職を……もしかして、さらなる昇進とか?」
キゴーリ様のあの表情を見て、よくそんな世迷い言が出てくるもんだ。
バクターの頭の中はお花畑にでもなっているんじゃなかろうか。
「昇進などあるものか。次の班長を補佐して学び直せ」
「そんな! それはあんまりです!」
「あんまりだと? 巡回の指揮もまともにとれず、夜営のたびに酒を飲み、魔物の襲撃時も酔い潰れて眠りこけていたそうではないか?」
「そ、それは……それは部下どもの捏造です!」
バクターが言い訳するたびに、キゴーリ様の表情が硬くなっていく。
あ、やばい。これは全部分かってる顔だ。いいぞ、もっとやれ。
「捏造だと?」
「はい! 私は立派に班長を務め上げました」
「この痴れ者め! 我らの目が節穴だとでも思っていたか!」
「悪いな、バクター。お前の愚行は全部話したぜ」
巡回の間、色々とバクターに助言していた古参兵が名乗り出た。
「この裏切り者め!」
「俺はキゴーリ様からお前の資格判定を任されてたのさ」
キレ散らすバクターに、古参兵は悪びれた様子もなく答える。
「信じてください、キゴーリ様。これは俺の出世を妬んだ、こいつの捏造です! 俺は――」
「黙れ、バクター」
縋り付くバクターを、キゴーリ様が蹴り剥がす。
うん、冷たい目が最高。今日は酒やご飯が進みそうだ。
「降格だ。下士官の位を剥奪し、一兵士からやりなおせ」
なおもごねるバクターだったが、「それとも軍法会議に掛けてやろうか?」というキゴーリ様のイカス言葉に撃沈し、ようやく静かになった。
いやー、バカが巡回班長を続けなくて、本当に良かった。
◇
巡回から戻って三日後――。
「本日、ゼナ魔法分隊の隊長として就任したゼナ・マリエンテールです。よろしくお願いいたします!」
「え?」
マジで?
イオナじゃなくて、ゼナのお嬢ちゃんが隊長?
新しい部隊でも、楽はさせてもらえないみたいだ。
「よろしくね、ゼナさん」
「はい、イオナさん! 頼りにさせていただきます」
「よろしく頼むぜ、隊長」
「はい、ルウさんも宜しくお願いします」
「あたしに『さん』付けはいらないぜ」
「はい、ルウ」
イオナとルウはこの人事に文句はないみたいだ。
まあ、こいつらと一緒なら、なんとかやっていけそうな気がする。
「リリオ、これからもよろしく」
「ああ、一緒に頑張ろうぜ」
こうして、あたし達はゼナ魔法分隊となった。
◆◆◇◆◇◇
もっとも、本当の意味でゼナ魔法分隊となったのは、もう少し先の事だったんだけど、それはまた別の話。
少年がセーリュー市にやってくる少し前くらいかな?
「リリオ!」
おっと、呼ばれたみたいだ。
あたしは懐かしく読んでいた昔の日記を閉じた。
※次回更新は、1月の予定です。
皆様、よいお年を。来年もデスマをよろしくお願いいたします!
※デスマ27巻は1月10日発売予定です! 詳しくは活動報告をご覧下さい。







