18-SS2.大魔女のひみつ
※「迷宮都市の少年」はちょっとお休みしています。
※デスマ新刊で大活躍のティアさんにスポットを当てたショートストーリーをお楽しみください。
「こんにちは、サトゥーさん。いつものちょうだい」
要塞都市アーカティアの勇者屋で店番をしていると、鍔広の魔女帽子を被った大魔女の弟子という事になっているティアさんが来店した。
「ティアさん、こんにちは。栄養剤ですね」
「ありがと。やっぱ、これがないと疲れが取れないのよね~」
彼女の来訪はレーダーに映る光点で気付いていたので、あらかじめ用意しておいた栄養剤をサッと渡す。
「ねー、ティアたん」
オレと雑談をしていたアリサが、ほっぺたをカウンターにくっつけたままティアさんに声を掛けた。
ティアが栄養剤をぐびーっと飲み干しながら、視線でアリサに先を促す。
「どうして歳を取らないの?」
アリサがティアさんの若々しい顔を見ながら問う。
「――歳? 取ってるわよ?」
ティアさんが小首を傾げながら不思議そうに答える。
「だって、実年齢は――」
ティアさんが素早くアリサの口を塞いだ。
「淑女の年齢を暴露するのはマナー違反よ?」
「イエス・マム」
アリサがナナのような口調で首肯した。
「でも、どうしてそんなに若々しいの? 若返りの薬を乱獲したとか?」
「しないわよ。――というか若返りの薬なんて、どこで乱獲するのよ? 血吸い迷宮だって殆ど出ないし、他の迷宮だともっと出ないでしょ? 少なくとも樹海迷宮で出たって話は聞かないわよ?」
エルフの里にある禁書に、若返り薬のレシピがあったはずだけど、ややこしくなるので言及しないでおこう。
「じゃあ、どうして?」
「源泉の莫大な魔力があるからよ」
ティアさんが問題発言をした。
だったら、大陸最大の「竜の谷の源泉」を支配するオレも、若いままって事か?
「魔力? そういえば、わたしも成長が遅いような……」
「ん、仲間」
オレと同じような顔で衝撃を受けていたアリサの肩を、いつの間にか話を聞いていたミーアがポンッと叩いた。
「そ、そんな馬鹿な! アリサちゃんのわがままぼでぃが!」
アリサがムンクの「叫び」を彷彿とさせるポーズで叫ぶ。
「だいじょび~?」
「どうしたのです?」
アリサの声を聞きつけたタマとポチが、奥から出てきた。
「な、なんでもないわ」
動揺した声で返事をするアリサが、タマとポチの幼い姿を凝視する。
「そういえば……、この子達も成長していない」
言われてみれば、成長期に十分な食事と睡眠を与えているのに、二人は出会った頃のままの姿から成長していない気がする。
アリサやミーアほどじゃないけど、この二人も急激なレベルアップで一般人とは比べものにならないほど膨大な魔力量を所持している。
「急激なレベルアップが二人の肉体的な成長を阻害したのかな?」
「大丈夫、大丈夫」
オレの呟きを聞きつけたティアさんが手をパタパタさせる。
「そんなに心配しなくても、何年かしたら身体が慣れて年を取るようになるわよ」
「ほ、ほんと?」
ティアさんの言葉に、アリサが喰い付く。
よかった。安全の為に良かれと思ってやった事が、子供達の成長を阻害したかと思って焦ったよ。
もっとも、その安堵は少し早かった。
「ええ、普通の半分くらいの速度だと思うけど」
ティアさんの注釈を聞いたアリサが石化したように表情を固まらせた。
気まずくなったのか、ティアさんは飲み干したカップをカウンターに置き、「美味しかったわ」と言ってそそくさと帰っていった。
「しょんにゃああ~」
「どうしたの、アリサ?」
アリサが騒いだせいか、ルルを始めとした仲間達が全員集まってしまった。勇者屋の店長ロロはハムっ子達のお昼寝タイムに付き合って睡眠中らしい。
「ルルお姉様ぁ~」
アリサがルルに抱き着いて、さっきの話を訴える。
「アリサ、大丈夫よ」
「大丈夫?」
ルルがアリサの髪を手ですきながら慰める。
「ご主人様が嫁に貰ってあげると言った条件は『五年後』よ? 五歳年を取ったらじゃないわ」
「そうか! そうだわ! ルル天才! さすがはわたしのお姉様よ!」
ぱっと表情を明るくしたアリサがルルの手を取って踊り出す。
「天才~?」
「さすがはルルなのです!」
タマとポチの二人が、喜ぶアリサに釣られて、その周りを楽しそうに舞う。
たぶん、話の流れについて行けていないと思うけど、落ち込んでいたアリサが元気になっただけで十分なようだ。
「それに、年を取りにくいって事は――」
アリサがオレの方を見てニンマリと笑みを深くする。
その笑みに、危機感知スキルが刺激されるのはナゼだ。
「――ご主人様が、いつまでもショタって事じゃない!」
アリサがズビシッと口で効果音を付けながらオレを指さした。
「むぅ?」
近くで聞いていたミーアが困惑顔になる。
視線で意味を問うてくるが、オレにアリサのアクロバティックな思考を把握できるはずもない。
「つまり、ロリショタを十分に楽しんだ後に、おねショタまで味わえるって事よ!」
アリサらしい妄言に、オレは無言で首を横に振った。
そんな事になる前に成長を促進する方法を探そうと心に誓いながら――。
※次の更新は、2/10(木)の予定です。
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詳細は活動報告の記事をご覧下さい。
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