18-17.大樹海の聖女
※コミカライズ版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」11巻、発売記念更新!
サトゥーです。女性向けのコンテンツでは聖女モノが強いと聞いた事がありますが、普通に聖女だけをしているパターンはレアケースではないでしょうか?
聖女モノって、物作りや聖女以外のお仕事を持っている事が多い気がするんですよね。
◇
「これで買い出しは全部かな?」
メニュー内にAR表示されるメモ帳に視線を走らせながら、隣を歩くロロに確認した。
「はい、サトゥーさん」
ロロがルルにも負けない美少女顔で首肯した。
城どころか大陸でも傾けそうな美貌だが、今いる要塞都市アーカティアには人族がほとんど在住していないので、共感を得る事は難しい。
まあ、人族が多かったとしても、シガ王国と美醜の感覚は一緒みたいなので、ルルと同じように罵倒の対象になるのだろうから、ロロにとっては人族に関心を持たない別種族の中で生きる方がいいのかもしれない。
「この罰当たりめが!」
突然の罵声に驚いてしまったが、オレに向けられたモノではないようだ。
「サトゥーさん、あそこです」
袖をくいくいと引っ張るロロの指し示す方を見ると、死霊術士らしき男達と司祭を筆頭にした神官達が何やら口論している。
「死者を弄ぶ穢らわしき死霊術士が!」
「なんだと?! 我ら死霊術士は死者の生前に契約を結んだ者しかスケルトンにはせぬ!」
「ふん! 契約だとぉ? 死後も安寧を得られぬ隷属を強いるなど、許される事ではないわ!」
「お前の許しなどいるものか! 死後の自分の働きで、残された者にわずかなりとも生活の糧を与えたいという貧者の願いすら否定するのか!」
「貧者につけ込む邪教徒が!」
司祭と死霊術士がどんどんヒートアップしていく。
「今、この悪霊使いから解放してやるぞ! ■――」
「やめろ!」
詠唱を始めた司祭の横顔に、子供が投げた泥のようなモノが命中した。
ここ何日か雨は降っていないし、走竜のフンか何かだろう。
「何をする!」
「おいらの父ちゃんを二度も殺すな! 父ちゃんが死んでからも働いてくれているお陰で、病気の母ちゃんや妹をなんとか食べさせてやれているんだ!」
「そうだそうだ! ザランザラーン達死霊魔術師が操るスケルトンが汚れ仕事をしてくれるお陰で、オレ達の街が成り立ってるんだぞ!」
「死霊魔術師がいなかったら、骨や牙を武器にするのも一苦労だしな」
「この辺りじゃ金属が採掘できないから、きっと武器が馬鹿高くなってたぜ」
子供を援護するように、周りの冒険者達から死霊術士を擁護する声が上がる。
「ぐぬぬ、なんという事だ。ここまで死霊術士の魔の手が広がっておるとは」
司祭が憤懣やるかたないといった表情で唸る。
「こうなっては是非もない。神殿長に掛け合って、聖戦の――」
「モロク殿! こんな所にいらしたんですね!」
不穏な事を呟き始めた司祭の前に、ローブ姿の女性が割って入った。
「――ティアさん? サトゥーさん、あれティアさんです」
ロロが言うように、ローブ姿の女性は大魔女――の使いをしているティアさんだった。
ティアさんはそつなく周囲の人々を諫め、司祭を言いくるめて大魔女の塔へと彼らを連れて行った。さすがだね。
◇
「ただいま~」
「ロロ、おかえり」
「ロロ、寂しかった」
「ロロ、お土産ある?」
ロロが店主を務める雑貨「勇者屋」の扉を開くと、中から膝丈くらいの背丈をしたハムスター似の蹴鞠鼠人の子供店員が、転げそうな勢いで飛び出てきた。
末っ子はそのまま転がってロロに受け止められている。
抱えていた紙袋を店のカウンターに置き、商店街の買い物中に貰った半端物の枝キュウリを紙袋から取り出す。
枝キュウリはその名前の通り、枝のように細いキュウリで柳のような木にぶら下がるように生る迷宮植物らしい。
「サトゥー、きゅうり」
「サトゥー、ちょうだい」
「サトゥー、早く」
さっきまでロロに甘えていたハムッ子達が、あっという間に集まってきて、キラキラした目でオレを見上げる。
「ちょっと待って――」
貰った枝キュウリは端っこの折れた部分が傷んでいたので、指先に出した魔刃でカットしてからハムッ子達に与える。
枝キュウリを受け取ったハムッ子達がコリコリとひたむきに囓り出す。
どの子も食いしん坊なのか、囓りながらカットして避けた傷んだ枝キュウリの端っこに手を伸ばす。
「これはダメだよ」
オレは素早く傷んだ端っこを取り上げる。
ハムッ子達が「どうして?」と言いたそうな顔でオレを見上げる。
「お腹を壊しちゃうからね」
オレが理由を告げると、残念そうにしながらも諦めてくれた。
もちろん、その間もコリコリと枝キュウリを食べる手を止める事はない。
「ロロいる~?」
準備中の札をオープンに替える前にお客さんがやってきた。常連客のノナさんだ。
「いらっしゃい、ノナさん」
「開店前で悪いけどさ、迷わずの蝋燭を三本と美味しい方の保存食を二〇食。それと前に若様が試供品でくれた虫除けも」
「皆、保存食を倉庫から持ってきて。いい匂いのするやつよ?」
「わかった」
「いい匂いの」
「取ってくる」
ロロに指示されたハムッ子達が先を競って倉庫へと向かう。
「虫除けは幾つにしますか?」
ここの迷宮はジャングルみたいな樹海がメインだから、虫除けって必須なんだよね。
「おっ、若様もいたんだ。虫除けの数は値段によるかな。最低一個は欲しいけど、あんまり高いと買えないからさ」
オリジナルの虫除けを作ってみたんだけど、顧客の反応は上々だ。
「値段は迷わずの蝋燭と同じでいいですよ?」
「ええ? そんなに安いのか? ――いや、安くはないか? でも、あの性能でその値段なら――買いだな。三個――いや、五個! 虫除けは五個買う!」
それほど儲けは出ないけど、高い素材は使っていないし、このくらいの値段で十分だ。
レシピも勇者屋の先行利益が確保できたら、錬金ギルドに公開するつもりだしね。
「毎度ありがとうございます。虫除け用の篭を用意したんですけど、使ってみませんか? 試供品だから無料でいいですよ?」
「使う! 若様、サイコー!」
抱き着いてくるノナさんを引き剥がしながら、入り口の営業札をオープンに変更する。
「もう! ノナさん! うちはお触りは禁止です!」
「あはは、ごめんごめん。ロロのいい人に手は出さないよ」
「い、いい人だなんて……」
ロロが真っ赤な顔になって俯く。
「ノナさん、うちの店長は純真なんですから、からかわないでください」
「はーい」
ノナさんを窘めている間に、ハムッ子達が奥から保存食を運んできた。
末っ子がいつものように転がっていたが、他の二人がフォローして保存食は無事だ。
「よう、研ぎを頼んでた武器はできてるか?」
「保存食の新しいのができたって聞いたんだけど、まだ在庫は残ってる?」
「虫除け! 虫除けを売って! 変な臭いのしないヤツ!」
ノナさんの会計を済ます間にも、次々とお客さんがやってきた。
商売繁盛はいいけど、今日も忙しそうだ。
◇
「ロロいるぅ~」
客が引けた頃、疲れたティアさんがやってきた。
「いらっしゃいませ、ティアさん。お疲れのようですね」
「うー、疲れたぁ~。頭の固い聖職者の相手はほんと無理。要塞都市に神殿の建設を許可しなくて本当に正解だったわ」
ティアさん、ティアさん、そんな発言をしていたら、ロロに正体がバレますよ。
「あの神官達は何をしにアーカティアへ?」
「んー、『神殿』に高位のアンデッドが目撃されたのよ」
ティアさんの言う「神殿」は樹海迷宮の中にある神殿っぽい場所の通称だ。
前に邪教徒達が『魔王の掌』を吊していた鬼人街の寺院とは別の場所にある。
「あそこは下級のアンデッドしか出ない初級冒険者の狩り場だから、早めに駆除したいのよね~」
「アンデッドを駆除するだけなら、魔法使いや魔剣使いでいいのでは?」
「倒すだけならそうなんだけど~、再発生しないように浄化する必要があるのよ~」
カウンターにぐで~っと突っ伏したティアさんに、栄養剤を差し入れする。
「これこれ~、これがないと最近はダメなの~」
栄養剤の瓶を見たティアさんがガバッと起き上がり、いそいそと瓶の蓋を開ける。
「変な成分は入ってないでしょうね?」
腰に手を当ててぐびっと飲んだティアさんが、ニヤリと笑みを浮かべてそんな冗談を口にした。
「サトゥーさんはそんな事しません!」
間髪容れずにロロが怒った。
冗談を真に受けてしまったようだ。
「ごめんごめん、冗談よ」
ね? とティアさんが助けを求めてきたので同調しておく。
ティアさんはロロに弱いようだ。
「ティア様!」
勇者屋の扉が開いて、ティアさんと同じ意匠のローブを着た女性が飛び込んできた。
「ティア様、モロク殿がまた騒ぎを」
「えー、またあ~」
ティアさんが厭そうに唸る。
「ごめんね、ロロ。また来るわ」
ティアさんは瓶に残った栄養剤を呷ると、小さく手を振りつつ退店していった。
◇
「サトゥーさん、ただいま戻りました!」
「遠征は大成功ですわ!」
ティアが帰った数日後、遠征に行っていた白銀メンバーが帰還した。
お日様のような笑顔の魔法兵ゼナさんを先頭に、カリナ嬢、システィーナ殿下、セーラの順で続く。
「おかえりなさい、おしぼりです」
「温かい――ありがとう、ロロさん」
おしぼりを受け取ったセーラが礼を言い、手と顔を拭う。
生活魔法が使えるメンバーがいても、長期間の遠征後だとこういうのが嬉しいんだよね。
そんな遠征後でも縦ロールが微塵も揺らがないカリナ嬢の髪がすごい。
「サトゥー、神官達や神殿騎士を中心にした大部隊が出撃するのを見かけました。要塞都市で何かあったのですか?」
システィーナ殿下が見かけたのは、死霊術士と口論をしていたモロク司祭一行だろう。
「それは大魔女様が呼び寄せた神官達ですね。『神殿』で確認された高位アンデッドの討伐と、『神殿』の浄化に行くそうです」
これでティアさんの気苦労も減るだろう。
モロク司祭達がトラブルを起こしたという噂を耳にしない日はなかったし、ティアさんの助手の人が毎日、栄養剤を大人買いしていくんでロロと二人で心配してたんだよね。
「浄化ですか……。相談してくだされば私がやりましたのに」
「セーラさんなら安心して任せられそうですね」
少し残念そうなセーラに、淹れ立ての青紅茶と迷宮ドングリを使った香ばしい焼き菓子を差し出す。もちろん、他のメンバーにもだ。
「美味しい。やっぱり、サトゥーの作る焼き菓子は最高ですわ」
「カリナ、美味しい」
「カリナ、も一つ欲しい」
「カリナ、だっこ」
カリナ嬢はハムッ子達に好かれているらしく、椅子に座るカリナ嬢によじよじと登って焼き菓子を分けてもらっている。
「しばらくは休養ですね?」
「はい、三日くらいはお休みの予定です」
オレの問いにゼナさんが答える。
「それなら、しばらく店をお願いできますか?」
「はい、それは構いませんけど――」
「ちょっと虫除けの素材を取りに行こうと思いまして」
首を傾げるゼナさんに理由を告げる。
素材採取は店に来る冒険者にも頼んでいるんだけど、一種類だけ大量に必要なヤツが不足気味なんだよね。
「どの辺りに行かれるんですか?」
「さっき話題に出た『神殿』の近くですよ」
セーラに問われて答える。
「それなら、養護院の子供達も連れて行って構いませんか? あの辺りは弱い魔物しか出ませんよね?」
「ええ、別に構いませんよ」
神殿に高位アンデッドが湧いたって話だけど、そんなに強い相手じゃないし、基本的にアンデッド系は地縛霊みたいにテリトリーの外には出ないはずだから大丈夫だろう。
それに人手が多い方が素材を集めるのも楽だしね。
「なら、私が護衛のゴーレムを出しましょう」
「だったら、わたくしも――」
「カリナ、行っちゃう?」
「カリナ、店番しよ?」
「カリナ、ふかふか」
システィーナ殿下に続いてカリナ嬢も同行を申し出ようとしたが、ハムッ子達に甘えられて言葉を途切れさせた。
魔乳に埋まった末っ子ハムのポジションがちょっとうらやましい。
「出発は明日ですから、今日は帰還のお祝いをしましょう」
腕によりをかけて作ったご馳走に、白銀メンバーが頬を緩ませる。
彼女達四人の場合は、基本的に長期保存が効くレーションが中心だからね。
カリナ嬢は肉を中心に、システィーナ殿下は甘味メインで、ゼナさんとセーラはバランス良く食べる。
とはいえ、ゼナさんはがっつり目、セーラは軽い感じの食品を選ぶという違いはあるようだ。
「セーラ、せろり」
「セーラ、とって」
「セーラ、せろり」
普段はカリナ嬢になついているハムッ子達も、おっとりと食事を摂るセーラの所に移動して、セロリ似の野菜を貰ってコリコリ囓っている。気のせいか、カリナ嬢が寂しそうだ。
◇
「サトゥーさん、いい天気でよかったですね」
「ええ、討伐隊が掃除したのか、魔物にも出会いませんし」
翌日、予定通りオレはセーラやシスティーナ殿下と一緒に、養護院の子供達を連れて素材採取に来ていた。
「護衛の石猿や石狼達からはたまに討伐報告が届きますから、子供達に油断しすぎないように言っておきなさい」
「はい、殿下」
ゴーレム隊を周囲に展開していたシスティーナ殿下から苦言を受けて、セーラが子供達に声を掛けて回る。
「この辺はやはりアンデッドが多いようですね」
「ええ、ゴーレム達が倒したのも下位のスケルトン達ばかりです」
「ここは『神殿』から近いですから」
オレのレーダーでも捉えているが、システィーナ殿下のゴーレム達が優秀なので、オレが手を出すまでもなく子供達に害を与えられる距離まで近付けるモノはいない。
「あなた達の来世に幸多からん事を。■■■ 鎮魂浄化」
ゴーレム達が倒したスケルトンの残骸の前で、セーラが神聖魔法を使う。
そんなセーラの横で子供達も手を組んで祈りを捧げていた。
対アンデッド用アイテムの「浄化蝋燭」も持ってきたけど、必要なさそうだ。
――危機感知。
微かな気配が遠くから流れてきた。
上級魔族ほどではないが、危険な存在がどこかで暴れているらしい。
轟音が遠くから響き、大量の土煙らしきものが木々の向こうに立ち上るのが見えた。
「サトゥーさん」
「『神殿』の方ですね」
レーダー圏外だったので、マップを開いて確認した。
神殿の中心あたりに、怨霊君主や怨霊司教が出現しているらしい。あまり強くない。中級魔族程度の魔物だ。白銀メンバーだけでも余裕で倒せるだろう。
モロク司祭達には辛いかもしれないが、神聖結界を上手く使えば負ける事はないはずだ。
苦戦するようなら後で手助けに行こう。
まずは――。
「子供達を安全圏に避難させましょう」
オレはそう声を掛けて、子供達を移動させる。
「偵察に出したゴーレム達から報告が来ました。こちらに来るようです」
思った以上に早い。
モロク司祭達が何か失敗したようで、潰走を始めたようだ。
「サトゥーさん、子供達が辛そうです。子供達の避難は殿下にお任せして、私達は魔物の討伐をしましょう」
「そうですね――」
オレは「従僕人形創造」で、子供達が乗れる四足獣ゴーレムを作って移動を補助させ、システィーナ殿下が乗れる馬形ゴーレムも用意する。
「これで追いつかれる事はないでしょう」
「殿下、子供達をお願いします」
「ええ、分かりました。あなた達も怪我をしないように気をつけなさい」
心配してくれるシスティーナ殿下に「大丈夫ですよ」と声を掛け、セーラと一緒にモロク司祭達の潰走コースに向かって走る。
フィールド型ダンジョンの樹海迷宮で鍛えられたのか、セーラのスタミナや走る速さが以前よりアップしているようだ。
「そろそろ遭遇しますよ」
レーダーに映る光点情報をチラ見しながらセーラに伝える。
樹海迷宮は空間が歪んでいるので、視覚情報が必ずしも正しいとは限らないのだ。
「いました! 見覚えのある冒険者と神官達です」
「おい、逃げろ!」
「化け物だ! やべぇヤツが来るぞ!」
セーラの声と同時に、冒険者達もこちらを認識して警告を発した。
バチッと音がして神官の頭上から襲おうとしていた半透明のワイトが神聖結界に弾かれる。
一応、神聖結界は展開しているようだ。
そのワイトが先鋒だったらしく、次々と非実体系のアンデッドが木々の隙間から現れて、神官達を囲む。
冒険者や神殿騎士達は追い払うのに手一杯で、続々と増えるアンデッドの数を減らすには至らず、また、神官達も神聖魔法の「浄化」で抗っているが、アンデッド達にレジストされてしまっているようだ。
モロク司祭のターン・アンデッドは効いているようだが、効果範囲が狭くワイトやレイス級の高位アンデッドを一度に滅する力はないらしい。
「セーラさん」
「はい! ■■ 浄化!」
清浄な光を伴ったセーラの神聖魔法が波紋のように空間に広がる。
「ワイトやゴースト達が!」
「消えていくぞ!」
苦悶の表情で襲いかかっていたアンデッド達が、浄化の波紋に触れた途端、安らぎに満ちた顔になって昇天していく。もちろん、ワイトやレイスなんかの高位アンデッドもだ。
公都のテニオン神殿で次期聖女とも言われるだけあって、セーラの神聖魔法は効き目が凄いね。
『クカカカカ! 我ガ配下ヲ――』
「■■ 浄化!」
レイス・ロードが何かを言おうとしていたが、セーラはそれに気付かずに二度目のターン・アンデッドを使う。
さすがにレイス・ロードは耐えたようだが、全身から煙のようなモノを上げている。
「おおっ! あのレイス・ロードにダメージを与えたぞ!」
モロク司祭が驚愕し、目玉がこぼれ落ちそうな顔でセーラを凝視する。
「■■ 浄化!」
セーラはそんなモロク司祭をスルーして、何度目かのターン・アンデッドで雑魚アンデッドを浄化している。
レイス・ロードは耐性があるのか、ダメージを受けつつも消滅する気配はない。
そういえば一緒にいたレイス・ビショップはいつの間にか消えていた。
「おのおの方! 巫女殿に続け!」
モロク司祭が神殿騎士達や冒険者の武器に神聖魔法を付与する。
『配下達ヨー!』
レイス・ロードが叫ぶと、木々の間から新しいアンデッド達が次々と姿を現す。
神殿周囲のアンデッドが全部集まっていたらしい。
神殿騎士達や冒険者達がレイス・ロードの召喚したアンデッドと死闘を始める。
オレは彼らの功績を横取りしないように、こっそりと控えめに援護した。
「キリがありませんね。■……」
セーラが上級の神聖魔法の詠唱を始める。
「……■■■■ 神威浄化!」
セーラを中心に光の波紋が広がっていく。
その波紋はアンデッドを浄化するたびに新たな波紋となって広がり、レイス・ロードが「神殿」周辺から集めた数多のアンデッドを一網打尽に成仏させた。
それはターン・アンデッドにしぶとく耐えていたレイス・ロードも例外ではなく――。
『ヲヲヲヲォ……』
憤怒の表情をしていたレイス・ロードから邪気が抜けて、さらさらと砂のように崩れていく。
それでも完全には浄化しきれないのか、なかなか滅びる様子はない。
そんなレイス・ロードの眼前にセーラが歩み寄る。
「もう、終わりにしましょう。現世に縛られた恨みを捨て、来世に向けて歩み出しなさい」
静かに佇むセーラの前に、レイス・ロードが鼻先を寄せる。
手を添えたセーラが、もう一度、ターンアンデッドを発動し、レイス・ロードを光で包んだ。
『聖女ヨ、貴公ノ、慈愛ニ、感謝ヲ……』
最後にセーラへの感謝を伝えると、レイス・ロードは光に導かれるようにして昇天した。
「聖女だ……」
モロク司祭が呟いた。
セーラの希望で、従者のように従順になったモロクを連れて神殿奥の浄化を行なってから、システィーナ殿下や子供達と合流して要塞都市アーカティアへと帰還した。
◇
「いやー、助かったわ」
勇者屋に戻った翌日、ティアさんが訪ねてきた。
なんでも、モロク司祭一行からの定時連絡が途絶え、全滅も覚悟して救援部隊を緊急編成しているところで、任務達成の報告が届いたらしい。
ロロが淹れたお茶を飲みつつ、新作のオヤツのドングリ・クッキーをガシガシと囓る。
糖分が不足しているのか、ストレスが溜まっているのかしらないが、あまり食べるとダイエットが大変だよ。
「モロクの爺から聞いたわよ。セーラさんが凄かったんですって?」
「ええ、彼女はシガ王国でも有数の巫女ですから」
仲間が褒められると誇らしい気持ちになるね。
「セーラさんって、どうしてこんな場所にいるのか不思議だわ」
「修業の為ですよ」
「あれだけの浄化ができるなら修業なんて必要ないと思うけど……」
ティアさんが納得がいかない顔で唸る。
バタンッと扉が開いてセーラが、外から飛び込んできた。
「どうしたんですか?」
「そ、それが……」
セーラを追いかけて、司祭服の男が勇者屋の扉を開けて入ってきた。
「ここにおられましたか、聖女様!」
入ってきたのはモロク司祭だ。
「だから、聖女の称号はいただいていません。私はテニオン神殿の巫女です」
「称号など、いずれ付いてきます。あなた様は紛れもなく聖女! このモロク! 司祭の地位を捨て、テニオン神に改宗の誓いを立てました!」
神様が実在する世界で改宗って……。なかなか無茶をする人だ。
「これより聖女セーラ様の忠実なしもべとして、誠心誠意お仕えいたします」
「だから、私にはしもべなんて必要ありません」
「そんな事を仰らず! 私とともに無知蒙昧な民や冒険者達にテニオン神殿の教えを広めてまいりましょうぞ!」
モロク司祭――今はモロク神官かな? ――に、にじり寄られてセーラが困り顔になる。
「サトゥーさあん、助けてぇええ」
目尻に涙を浮かべたセーラが、助けを求めて抱き着いてきた。
「セ、セーラさん! サトゥーさんが困ってます!」
「ゼナ! 大変ですわ! サトゥーが籠絡されてしまいますわ」
「サトゥーさん! 破廉恥なのはいけないと思います!」
「うふふ、私もサトゥーに甘えようかしら?」
ロロが顔を真っ赤にし、カリナ嬢とゼナさんが抗議し、システィーナ殿下がセーラに便乗して身体を寄せてきた。
「聖女様、子育ては、このモロクにお任せを! きっと次世代の聖女として育ててみせましょう」
モロク神官が斜め上の反応をする。
「もう、いやああああ」
珍しくパニック気味なセーラをあやす。
まあ、たまにはこんな賑やかな日もありかな?
※次の更新は 1/24(日) の予定です。
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