5-幕間1:領軍にて
ゼナさんでは無く同僚嬢視点です
※8/16 誤字修正しました。
カチャカチャと装備を整備する音が聞こえてくる。
う~、もう休みが終わりか~。
几帳面なイオナが起こさないっていう事は、まだ時間があるみたいだ。もうちょっとまどろみを楽しもう。
「ぐはっあ!」
幼気な美少女ちゃんに何するのよ。
突然お腹の上に載せられた鎖帷子を、横に退かしながら起き上がる。
「ちょっとルウ。もう少し優しく起こしてよ」
私は犯人をルウと決め付けて文句を言う。
イオナやゼナっちがこんな事をするわけが無い。
「いいから、早く起きなよ。御飯食べる時間なくなっちゃうよ」
何!? それはイカンですよ。
あたしは素早く起き上がって顔を洗いに行く。柄杓を使うのが面倒で水瓶から直接、洗面器に水を汲む。イオナやゼナっちに見つかったら大目玉だ。
「今日の献立は何?」
「黒パンとシチューだってさ」
「え~、たまには山羊肉のステーキでも付けてほしいよね」
「なに贅沢言ってるの、隊長クラスでも付かないわよ」
お気に入りのタオルで顔を拭いながら、おしゃべりに興じる。
「貴族様の妾にでもなれば、毎日でも食べられるかな~?」
「今日日は貴族様も世知辛いみたいだから、妾になっても旨味は少ないんじゃないかしら?」
イオナも夢が無いな~、男爵様の傍系の癖に。だからこその意見だとしたら、玉の輿も色あせちゃうね~。
寝巻きの膝まであるシャツをベッドの上に脱ぎ捨てて、自分の棚にある下着と鎧下を取り出していく。
「おい、リリオ。汚いケツみせるな」
「失礼ね~ こんなに可愛いお尻なのに」
ルウも見なきゃいいのに。
別に露出癖は無いので下着を着ける。上は丈の短いシャツだ。ルウやイオナは胸帯を着けてる。残念ながら、あたしやゼナっちにはあまり必要の無いものだ。
もちろん、デートの時には可愛い刺繍の入った胸帯を着けるけど、あれは恋人に解いてもらうのが前提だ。この上に鎧下を着込むのに、不要な胸帯までしたら捩れて痛いだけだ。
ようやく鎖帷子を着け終わり、金属の補強材が入った頑丈な革のブーツに足を通していた所にゼナっちが入ってきた。
あら、可愛い。
着ているのは、たしかイオナの服だったと思うけど、豊かなフリルがチャームポイントの華やかなヤツだ。たしか半年以上貯金して買ったって、散々自慢してたとっておきの服じゃない。
まったく、みんなゼナっちには甘いんだから。
とっくに着替え終わって、食堂の席取りでもしててくれていたのかと思ってたんだけど、その格好はもしかしたら。
「ゼナっち、少年とデートだったの?」
「デッ……ち、違います。心配だったからお話しに行っていただけです」
それをデートって言うと思うんだけど。
それにしても、この過労死しそうな勤務状態で、碌に寝ずに恋人に会いに行くとは、健気と言うか。
「リリオ、手が止まっていますよ。早く着替えないと本当に食事抜きになっても知りませんよ?」
「ほ~い」
イオナに窘められて、着替えを続ける。
ゼナっちは大切そうにピンク色のストールを畳んでベッドの上に置く。
お? あれって中央路のピネン服飾店の新色じゃない?
ゼナっちは確かに貴族だけど、士族の娘がそこまで贅沢できるはず無いし。
「ゼナっち、そのストール、どうしたの? もしかして少年の貢物?」
「えへへ~」
うあ、ゼナの顔がデレデレだ。
「サトゥーさんに買ってもらったんです。前にリリオが言ってたピネンさんの所の品物なんですよ~」
凄いな少年。あれって確か安いのでも銀貨2~3枚はしてたはずなのに。
どっかの大店の馬鹿息子とかなんだろうか? ゼナが遊ばれてない事を祈りたい。
服を脱ぐときに、こっそり外していた胸の詰め物は見逃してやる。デートだもの、女として少しの見栄は必要だよね。
「ゼナさんも早く着替えてください。流石に食事には間に合わないでしょうから、パンに何か挟んでもらっておきましょうか?」
「いえ、食事はすませてきたので大丈夫です」
「ご馳走か?! ご馳走なのか~~~」
脱ぎ終わった服をイオナに返しながら、下着姿のままで装備を取り出すゼナっちに詰め寄る。
「違いますよ、サトゥーさんに魔法の詠唱の仕方を教えながら、甘いものを色々食べてただけです」
まだゼナっちが「公園のベンチに腰掛けるときに、ベンチの上にハンカチを敷いてくれたんですよ」とか惚気ていたが、喰いっぱぐれたくないルウとイオナに引きずられて食堂に連行されてしまった。
やっべ、そいつ結構遊んでるやつなんじゃないの?
◇
次の日、勤務明けでベッドに直行したかったが、着替えて出かけている。
部屋に備蓄してあるお菓子が尽きたのだ。今回の当番はゼナっちだったんだけど、あの子は魔法が使えるせいで、今日の夜半まで勤務続行だ。帰ってきたときに甘いものの一つも無いと可哀想なので、優しいリリオ様が買いに出かけている訳なのだよ。
いや~、モテる女は気配りが大切だよね!
城前広場に、見覚えのある姿があった。
少年――ゼナっちの想い人だ。相変わらず高そうな服を着ている。足元には買い物の帰りなのか沢山の本が積みあがっていた。
こんなに沢山買うなら、下男でも連れてくればいいのに。
ちょっと悪戯心がわいたので、後ろに忍び寄ってゼナっちの口調を真似て話しかけてみる。
「こんにちは身軽なおにーさん」
少年は振り向くと普通に話しかけてきた。ちぇ、驚かないか。
「こんにちはリリオさん。ゼナさんのマネですか?」
「えへへ~ 似てた? ねぇねぇ、ドキっとした?」
お~、一度しか会っていない彼女の友人の名前を覚えてるとは! いや~美少女は辛いな~、惚れられたらどうしよう。
「今日はお一人ですか?」
「うん、他の子は兵舎で寝てるよ~ でもゼナは昨日の昼から今日の夜半まで、ず~っと当直についてるんだ~ 魔法兵の数が足りないんだよね」
少し話してみたけど、あたしを口説く気は無さそうだ。あたしみたいな美少女に粉をかけないって事は浮気性じゃないのかしらん?
基本的にゼナっちの話題のみだったしね。
「リリオさん、ゼナさんに伝言をお願いできますか?」
「いいよ~、でも胸が焼けるような熱い台詞は無しにしてね? あんまり熱いと過激な言葉に変えて伝えちゃうよ~」
流石にゼナっちに愛の言葉を囁くのは嫌だよ。女ばかりの兵舎だから、たまにそんなのもいるけどさ。あたし達は友情に生きるの。
「今度、商売の関係で迷宮都市の方へ行く事になりまして」
凄い遠くだね。ほとんど国の反対側じゃないかな?
「へぇ~、また遠くまで遠征するのね」
「はい、向こうで不足している品が良い値段で仕入れられましたので」
「そっか~、商売人だもんね。いつ出発するの?」
「それが、明日の朝早くに出発する予定なんです」
あちゃ~ ゼナの初恋は失恋か~
今度何か奢ってやろう。
「わかったよん、ちゃんと伝えておくね」
「はい、お願いします」
少年はそう言って会釈すると、やってきた辻馬車に乗って去っていった。
◇
兵舎に戻ると、みんな食堂に集まってガヤガヤ話し込んでいた。食事の時間はまだまだ先だし、何かあったのかな?
隣の分隊のガヤナがいたので聞いてみる。
「ヤナっち、何かあったの?」
「あ、リリオ、ちょっと聞いて」
話好きのガヤナに聞いたのは正解だった。なんでも、領軍から選抜された人員を迷宮都市まで派遣すると発表があったらしい。実際に派遣されるのは2ヶ月くらい先みたい。
でも、研修っていう名目だけど、実際は魔物が犇く魔境に入るって事でしょ?
絶対パスだよね~。
でも、周りの話を聞いていたら、行ってみたいって人が結構居る事がわかった。研修費という名目で毎月銀貨1枚が加算されるらしい。薄給のあたし達平兵士からしたら、決して無視できない金額だ。しかも、迷宮で魔物から得た魔核を売った代金は、迷宮に潜った兵士達で山分けしていいらしい。
危険は大きいけど、得るものも多そうだ。危なさでは、どこでも一緒だもんね。セーリュー市で普通に勤務していても、この間みたいに上級魔族が降ってきたりするし。あの時に銀仮面様が来なかったら、あたしらも今頃はお墓の下だったもんね。
そういえば、少年も迷宮都市へ行くって言ってたっけ。
丁度いいや、ゼナっちの恋の応援ができてお金持ちになれるかもしれないし、選抜人員に応募してみよう。
ゼナっちは夜半まで帰ってこないから、まずはルウとイオナに話してみよう。ルウは強くなれるなら文句ないだろうし、イオナは意外にお金に汚いから説得は楽そうだ。
選抜に残れるかは判らないけど、頑張るか~。
ケータイでポチポチ書いてたので言い回しが変な所とか矛盾する箇所があるかもしれません。
ちょっと明るめの話が書きたくなったので差し込みました。







