17-38.魔界門、封鎖
サトゥーです。物語の終盤と言えば、次々と主人公にピンチが訪れるものです。できれば、現実ではそんな理不尽な事は遠慮したいモノです。もっともままならないのが人生ですが……。
◇
「アリサ、魔界門を封鎖するのを手伝ってくれ」
「おっけー、任せて!」
アリサがオレの頼みを即決で了承してくれた。
「空間の保持を頼む」
「はいよー」
門の守護者だったユニークスキル持ちの上級魔族を倒した時に、対神魔法で門前の空間を完膚なきまでに破壊してしまったので、ちょっとばかり空間が不安定になってしまっているのだ。
壁からは紫色の謎空間がむき出しになっていて、ちょっと気持ち悪い。
オレはアリサを抱えて謎亜空間の中へと進む。
「うげっ、近くで見たら、門も趣味悪いわね」
「さすがに初めからこうだったわけじゃないと思うよ」
魔界へと通じる紫色の謎金属でできた門には、幼い娘達のレリーフが刻まれているのだが、その表面に黒いスジが血管のように浮き上がっているせいか、幼女達が苦悶の表情をしているように見えるのだ。
「あの黒いのは物質化した瘴気っぽいね」
オレの精霊光を浴びても消えないところを見ると、かなり高濃度の瘴気みたいだ。
「あの空間の向こうが魔界なのかしら?」
リーングランデ嬢の呟きを聞き耳スキルが拾ってきた。
そういえば彼女達は紫塔の壁の奥にある不思議空間を見た事がなかったっけ。
「あれは魔界ではないと告げます」
「ん、謎亜空間」
ナナとミーアがリーングランデ嬢に、以前の調査結果を伝える。
「ご主人様、なんだか手応えが変だけど、空間を掌握したわ」
アリサは仕事が速い。
「それじゃ、こっちは頼んだぞ。何かあったらすぐに脱出してくれ」
「うん、ご主人様も気を付けて」
オレは後をアリサに任せて、魔界門に手を触れる。
この魔界門は文字通りの門ではなく、転移ゲートの一種だ。
AR表示によると、魔界門の表面に結界があるようだったが、オレが触れるとガラスが砕けるような音がして消滅した。
――げっ。
結界がなくなって分かった。表面の黒いヤツは瘴気じゃない。
この前、ザイクーオン神が強化に使った黒いヘドロみたいなヤツだ。
扉の表面から剥がれた黒いヘドロが、捕食時のスライムみたいに広がって襲いかかってきた。
オレはそれを予想していたので、神剣を抜いて全てを滅ぼす。
幸いな事に、ザイクーオン神が寄生された黒いヘドロよりも濃度が薄くて簡単に消滅した。
漆黒に近い暗紫色の靄が晴れるのを待って、オレは魔界門に触れる。
次の瞬間、オレの身体は魔界門の向こうへと移動した。
◇
「――魔界回廊?」
マップ名を確認したら、ここは魔界ではなかった。
さっきの謎空間で作られた通路のようだ。
9本ほどの通路が延びている。
紫塔の残りは24本だから、全部に続いているわけではないようだ。
「魔界はこの先か……」
まあ、魔界まで行く必要はない。
出口の辺りで戦闘になったら面倒だしね。
オレはさっきアリサがやっていたように空間魔法を駆使して、自分の魔力を魔界回廊に浸透させていく。通路の根元辺りは特に念入りに――。
十分に浸透させたところで、次の段階に移る。
浸透させた魔力を燃料に「空間破壊」を叩き込んで、9本の回廊を全て同時に破壊するのだ。
――空間破壊。
天地開闢もかくやという光が回廊に満ち、少し遅れて身体が原子崩壊しそうなほどの震動と轟音が襲ってきた。
多重起動していたキャッスルでなんとか持ちこたえ、周囲の状況を確認する。
――破壊完了。
マップ内はすでにどこが回廊だったのか分からないほどズタズタに破壊されている。
第一段階はこれでOKだ。
次はヒカルが得意とする対神魔法「神話封滅」で、僅かに残った魔界との繋がりを破壊し尽くす。
空間が不安定になっていたせいか、いつもより破壊力が高い気がする。
ちょっとやり過ぎた。
通路の残骸すら消え失せ、魔界回廊の空間そのものが消滅し掛かっている。
「工程を早めよう」
オレはチェック工程を少しカットし、魔界を完全に人界から切り離した状態で封印する作業に移る。
使うのは「神話封獄」。
ムクロから教えてもらった神々を封印する為の魔法を改良して作った対神魔法だ。
ただし、これは神や魔王を対象にした単体封印用の魔法なので、それをアレンジしてやる。
元の魔法コードを完全に把握しているからこそできる技だ。
再詠唱が必要になったが、そのくらいの時間はある。
発動した「神話封獄」を広げ、魔界回廊との接合部を包み込んでいく。これで人界との間に新しいチャンネルを開いてゲートを作る事はできないはずだ。
「――封印完了、っと」
言葉の途中で回廊空間が消滅したのか、音声が掻き消えてしまった。
できれば魔界と人界の時空的な距離を、もっと広げておきたかったが仕方ない。
このままだとオレ自身も時空の迷子になってしまうので、ユニット配置で魔界門へと戻る。
「ご主人様!」
「ただいま。ここの後始末をするから先に戻ってくれ」
「おっけー! ――転移!」
アリサが仲間達を連れて塔外へと脱出した。
さて、あとは魔界門を完全破壊して終了だ。
破壊力を増す為に魔界門を多重展開したキャッスルと結界で包み、最後に「神話崩壊」を撃ち込んで魔界門を破壊する。
さっきまでと違い、単純な破壊なので楽勝だ。
魔界門が痕跡も残さず消滅したのを確かめ、塔の外へとユニット配置で脱出する。
最後に紫塔を完全粉砕するつもりだったのだが、魔界との接続が途絶えたためか、勝手に自壊してしまった。
マップ情報を見る限り、地元の要請で破壊しなかった23本の紫塔も、時を同じくして消滅したようだ。
「これで一件落着、かな?」
◇
「……一人多い」
仲間達の方を振り返ると、塔に入った時にいなかった人物が一人増えていた。
「イレギュラー! 主様を助けて!」
ピンク髪の紫幼女が滂沱の涙を流しながら、オレにしがみついてきた。
説明を求めてアリサを見る。
「例の謎空間の中に嵌まってたのよ」
――なるほど。
紫幼女はこっちに来ようとして失敗したらしい。
尻尾を丸めたポチとタマが、申し訳なさそうにオレの前に来た。
「ごめんなさい~」
「タマは悪くないのです! ポチが助けてあげようって言っちゃったのです!」
「別にいいさ」
オレはそう言って二人の頭を撫でる。
人命救助を叱るほど狭量ではないつもりだ。
「ご主人様、旧都から人が出てきたわ。一度、場所を変えた方がいいかも」
「分かった」
「サトゥー、私達も一緒に行くわ」
リーングランデ嬢達が同行を求めてきた。
「ボクは勇者ナナシ。ペンドラゴン伯爵とは別人だよ」
「もう誤魔化さなくていいわ。皆も前から気付いているし、誰かに喋る気はないわ。そうね……勇者ハヤトの名に懸けて誓う。それなら信じられるでしょ?」
他の従者達もリーングランデ嬢と同じように「勇者ハヤトの名に懸けて」誓ってくれた。
まあ、それなら大丈夫だろう。
彼女達がハヤトの名にかけた誓いを破るとは思えない。
「分かった。一緒に行こう」
オレは皆を連れて、適当な拠点の一つに移動する。
迷宮都市の西に広がる大砂漠あたりなら、魔神や紫幼女が何かを企んでいたとしても周辺被害を気にしなくて済む。
皆、疲れているだろうし、この拠点で休息を取る事にした。
リーングランデ嬢達にもバレた事だし、勇者ナナシの変装を解いてサトゥーとしての姿に戻る。
「皆、お疲れ様。館の中に食事やお風呂を用意するから、それで疲れを癒やしてくれ」
何も置かれていなかったテーブルに、ストレージに貯蔵してあるできたての宴会料理を所狭しと並べ、30人くらいが同時に入れる大きな浴槽にストレージにストックしてある温泉コレクションの中から、疲れを癒やしてくれる乳白色のお湯を流し込んだ。
「お風呂!」
「マジか、サトゥーんちは最高だな!」
「セーラも一緒に入りましょう」
「姉様はお風呂の為に同行したんですか?」
「ああ、そうだった。仕方ない、後で入るわ」
ハヤトの従者達や何人かの仲間達がお風呂に向かう。
「肉がいっぱいで困ってしまうのです」
「おう、あめーじんぐ~?」
「銀皮のジャーキーまでありますね」
「ポチ、一緒にハンバーガーを食べましょう」
獣娘達とカリナ嬢は安定の肉料理攻めだ。
「お化け茸のステーキ」
「ミーア、こっちのシチューも美味しいと告げます」
「ミーア様、こちらのコンソメスープも美味しいですよ」
ミーア、ナナ、王女の三人は野菜や汁物を選んだらしい。
「サトゥーさん、それにそちらの子にも」
「ゼナさん、ありがとうございます」
ゼナさんがオレと紫幼女に飲み物を持ってきてくれた。
「ご主人様、飲み物だけでなく少しは食べてくださいね」
「フルーツとかもいいわよ」
「ありがとう」
ルルとヒカルが片手でも食べられるサンドイッチとカット・フルーツを持ってきてくれた。
皆が食事やお風呂に取りかかったのを確認してから、オレは大広間の隅にある席で紫幼女から話を聞く事にした。
仲間達を代表してアリサが、従者達を代表してリーングランデ嬢が一緒に席についた。
「さっき、魔神を助けてって言ったね? どういう事か詳しく言ってくれるかい?」
「うん」
ゼナさんが持ってきてくれたジュースを与えると、紫幼女はそれをチビチビと飲んでから話を始めた。
「神々の誰か――たぶん、ザイクーオンのバカが結晶に『禁忌の力』を仕込んでいたの!」
結晶とは魔神が七柱の神々から盗んだ神力の結晶「白天威輝晶」の事だろう。
「それも! 月に封じてあった全部の『禁忌の力』よ!」
ザイクーオン神を狂わせたアレを全部取り込まされたらしい。
「このままだと、魔界も主様が助けたかった人界もめちゃめちゃになっちゃう!」
「紫塔にあったゲートを破壊して、魔界と人界を切り離した。もう人界が危ないという事はないはずだ」
「そんなはずない!」
立ち上がった紫幼女が力説する。
「そんなはずない! だって、ゲートは他にもあるもの!」
――え?
「どこだ!」
「月と迷宮に回廊があるの。月の地下にある空洞世界と迷宮街道よ!」
どちらかと踏んでいたが、まさか両方だったとは――。
「タマ! 月は出ているか!」
アリサが窓際のタマに尋ねる。
「あい。紫色の満月が出てる~?」
「お月様がポチの持っている肉串を見て、涎を垂らしているのです!」
オレは悪い予感に襲われながら、窓から月を見上げる。
薄暗い空に、暗紫色の月が出ている。
月齢的に三日月のはずなのに、出ているのはタマが言う通り満月だ。
しかも、妙に大きい。
「……侵蝕が始まっている」
愕然とした顔でリーングランデ嬢が呟いた。
彼女が言うように、月を通して魔界が侵蝕してきているのだろう。
『コア・ツー、迷宮の様子はどうだ?』
『マスター・サトゥー! 迷宮核本体から連絡あった! 「迷宮街道を開こうと外部から干渉有り、即座にシステムを閉鎖した為、被害無し」だって』
天罰事件の時にクラッキングを受けた事があったので、いつでもシステム閉鎖する仕組みを追加しておいて良かった。
「ご主人様、他の迷宮は大丈夫かしら?」
『ちょっと行ってくる』
オレが迷宮主を務める「夢幻迷宮」のダンジョン・マスターズ・ルームへとユニット配置で移動する。
『マスター、コア・ツーから伝言を受け取られましたか?』
転移を終えると、迷宮核が話しかけてきた。
「ああ、聞いた。よくやったコア。遮断システムを他の迷宮に伝える事はできるか?」
『イエス・マスター。既に一つを除いて伝達済みです』
「一つを除いて?」
『シガ王国北部、都市核セーリューに隣接した「悪魔の迷宮」は既に魔族の手に落ちており、通信を拒絶されました』
一つだけアウトか。
オレはユニット配置でセーリュー市に移動しようとして、途中で用件を思い出した。
『コア、一つ頼みがある』
『イエス、マスター・サトゥー』
オレは後で回収に来ると告げて、「自己確認」の宝珠を仲間達の人数分作るように頼んでおく。
これで他の子達も、アリサや勇者達のように無詠唱が使えるはずだ。
さて、月とセーリュー市、どちらから助けに向かうか――。
迷うまでもないので、オレは素早くユニット配置で救援に向かった。
※次回更新は11/3(日)の予定です。
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