17-37.魔界門
サトゥーです。突発的な事態に対応するには十分な経験か、どんな事が起こっても対応できるだけの事前想定マニュアルが必要な気がします。瞬間的に完璧な対応ができるのはフィクションの世界だけだと思うのです。
◇
「魔界が侵食してきているなんて大変じゃない!」
テニオン神の神託を聞いたアリサが叫ぶ。
「大丈夫だ。魔界と人界の融合なんてさせないよ」
浸潤してくる癌組織みたいなものだ。
ここは外科手術でサクサク切除してしまおう。
「もともと魔界と繋がる門を封印しに来たんだから、やることは変わらないよ」
封印ではなく、完全な切り離しをする感じかな。
やった事はないけど、平行世界を渡った経験からして可能だと思う。
「それもそうだね! 行こう、レッド!」
「よっしゃー! 世界をまるごと救ってやろうじゃない!」
ヒカルの言葉に、アリサが拳を突き上げて了解した。
相変わらず、アリサはヒーロー気質だ。
「それじゃ、ペースアップしよう。いいかい?」
「承知」
リザがオレに頷いた後、仲間達の方を向く。
「行きますよ、イエロー、ピンク、ホワイト」
「らじゃなのです!」
「あいあいさ~?」
「イエス・オレンジ!」
黄金メンバーが白銀メンバーに加勢して、尖兵達の大軍団を殲滅していく。
「その先にある空洞に出たら、魔界門が見えるはずだ!」
オレは後ろから支援魔法を使いつつ仲間達に告げる。
魔界門の前は数匹の尖兵しかいないから――おや? 魔族が増えている。
詳細を確認する為にメニューを操作する。
特殊能力持ち?
――それにレベルが高すぎる!
メニューを閉じた視界に、仲間達が空洞へと躍り込むのが映った。
――まずい。
次の瞬間、オリハルコンが蒸発しそうなほど激しい閃光がオレの瞳を眩ませた。
◇
「……マスター」
「大丈夫か、ナナ!」
「イエス・マスター。守護王国の展開に成功。敵ユニットからの攻撃を阻止するも過負荷の為、しばらくクールダウンが必要だと報告します」
空間魔法で仲間達を引き戻すのが遅れたらヤバかった。
ナナが「守護王国」を緊急展開してくれたお陰で、なんとか間に合った。
「にゅ!」
「来るのです!」
守護王国の残滓を斬り裂いて、爆炎を曳きながら二体の魔族が飛び込んできた。
どちらも紫色をした大太刀を持っている。
片方は二刀流、もう片方は盾持ちだ。
オレは縮地で魔族の前に飛び込み、両手に取り出した自作聖剣で迎え撃つ。
迫る三つの斬撃、盾持ちは突きだ。神速の突きを右手の聖剣で受け流す。その間に迫った二刀流の一刀目が袈裟懸けに来た。予想通りだ。左手の聖剣で受け――げっ、オレの聖剣を斬った?
身体を反らして一刀目を躱し、二刀目の追い打ちが来る前に無詠唱で「爆裂」で吹き飛ば――ちっ、盾持ちが受け止めた。しかも、無傷だ。
追撃に来る二刀持ちを、青い光線の雨が襲った。ルルの銃撃だ。
絶対に避けられないはずの超高速弾を、二刀持ちは全て避けてみせた。いや、違う。銃弾の軌跡が弧を描いていた。弾丸の方が避けたみたいだ。
「――メイコの技?」
思考が加速しているのか、後ろから聞こえたリーングランデ嬢の声が間延びして耳に届く。
二刀持ちが来る。右上からの切り下ろしを受け流し、左からの水平斬りを体捌きで避ける。速い。もう右の刀が返ってきた。聖剣を犠牲に攻撃を逸らし、横合いから突き出された盾持ちの突きを魔力鎧で防――貫いた? 即座に魔力鎧を破棄し、その余波で盾持ちの身体を後ろにノックバックさせる。
その間に迫る二刀持ちの時間差攻撃を、オレは縮地で避けた。
『――ご主人様』
眷属通信でアリサの意図が伝わってくる。
無詠唱の「爆裂」を零距離で爆発させ、その爆炎に紛れて縮地で後ろへ下がる。
そこにアリサとヒカルの劣化版対神魔法が炸裂した。
強烈な閃光と轟音と土煙が周囲を満たす。
「へっへーんだ。ご主人様以外にもいるって事を忘れないでよね」
「イチロー兄ぃ、怪我無いー?」
――危機感知。
閃光の向こうから、二刀持ちが飛びだしてきた。
どうやら、盾持ちが二人の劣化版対神魔法を受け止めたらしい。
やはり、ユニークスキルは規格外だ。
「そうはさせないのです!」
「にんにん~」
ポチとタマが二刀持ちを迎撃する。
必殺の間合いで放たれた二人の竜牙剣を、二刀持ちが奇妙なステップで回避した。
「――やっぱり、あれはメイコの技だわ」
オレの視界に二刀持ち魔族のユニークスキルがAR表示される。「絶対切断」「絶対回避」「未来予測」「武器創造」の四つだ。
メイコのユニークスキルと名前は違うが、構成は非常に似ている。
「ご主人様!」
AR表示される文字の向こうから、土煙を引き裂いて盾持ちが飛びだしてきた。
驚いた事に、アリサとヒカルの対神魔法を喰らって、まだ動けるようだ。ダメージは負っているようだが、もの凄い勢いで回復している。
「させません!」
リザが凄まじい速さで、盾持ちの側面に迫る。
盾持ちはオレへの追撃を諦め、リザに盾を向けた。
魔槍ドウマは盾に防がれ、盾持ちの大太刀がリザの身体に迫る。
素早く槍を戻したリザが、素早い突きで大太刀を迎撃した。
盾を持たない側面をオレに晒したのが運の尽きだ。
――光子力線。
紫色の光を帯びた盾が身体の反対側に現れ、紫色の光の膜が光子力線を四方八方に散らす。
なかなか反則臭い技だ。
「まるでハヤトの盾みたいだわ」
メリーエスト皇女が呟くのが微かに聞こえた。
動きを止めた盾持ち魔族の傍らに、ヤツのユニークスキルがAR表示される。
こいつは「絶対貫通」「絶対防御」「無限回復」という三つのユニークスキルを持つようだ。
「槍が……」
悲壮なリザの嘆きが聞こえてきた。
魔槍ドウマの穂先が二つに裂けている。迎撃した大太刀の切っ先が刺さったようだ。
そのリザの頭上に、タマとポチの猛攻を振り切った二刀持ちが襲いかかる。
「オレンジは守ると告げます!」
瞬動で割り込んだナナが、「不落守護城」で二刀の斬撃を防ぐ。
「ぐぬぬっ。――重い、と告げます」
二刀持ちの大太刀が不落守護城の防御障壁にめり込み、激しい勢いで朱色と暗紫色の火花を散らしている。
拮抗していたのもつかの間、徐々に大太刀が進んでいく。
さらに盾持ちがナナへと迫る。
暗紫色のオーラを曳きながら盾持ちの突きがナナを襲う。
「ファランクス~?」
「ファランクス連続展開、なのです!」
タマとポチが追いつき、盾持ちの突きを妨害するが、六重のファランクスが薄いガラスのようにバリバリと割られる。
――だが、十分だ。
二人が作ってくれた時間を活かし、オレは縮地で盾持ちの前に割り込む。
――SXTRRRRRRRUASSSSSSSYH。
オレごとナナを突こうというのだろう。
盾持ちが邪悪な顔を愉悦に歪めた。
白い光と暗紫色の光が交錯し、刃がオレの身体を貫く。
――SXTRRRRRRRUASSSSSSSYH。
盾持ちが勝利の雄叫びを上げる。
その眼前で、オレの身体が霞のように消えた。
「それは残像だ!」
ドヤ顔で言ったのはオレではない。
後ろで見ていたアリサだ。
真忍術による実体のある残像で盾持ちの突きを受け、その間に背後へと回り込み、竜牙剣で盾持ちの胴体を真っ二つにしてみせた。
――SXTRRRRRRRUASSSSSSSYH。
盾持ちの胴体が再結合する。
この程度は想定内だ。
再結合で動きの鈍った盾持ちを空間魔法で、空洞の向こうへと廃棄する。
――SXLAAAAAAAAASSSSSSSZH。
空間魔法で動きを止めたオレの隙を狙って、二刀持ちが斬りかかってきた。
だが、隙を覗っていたのは二刀持ちだけじゃない。
「迷路!」
アリサの空間魔法が発動し、二刀持ちを亜空間を重ね合わせた迷路の中に落とす。
「やっぱり、弱点もメイコと同じだったわね」
広範囲魔法を回避できないというメイコの「無敵の機動」と二刀持ちの回避系ユニークスキルは、同じ特徴を持っていたようだ。
今のうちに――。
オレは縮地で大空洞の前へと移動する。
――来た。
核爆発系の禁呪だ。
予想していた攻撃を、「神話崩壊」で迎撃する。
先ほどの数十倍の爆発と震動が大空洞を揺らし、天井や壁が剥離して、その向こうにあった奇妙な亜空間が剥き出しとなった。
驚いた事に、盾持ちが生き延びている。
どうやら、魔法使い系を背後に庇っているようだ。
「まあ、これでチェックメイトだ」
オレは発動待機していた三種類の対神魔法を時間差で叩き込む。
奇妙な空間に門が浮かぶだけとなった元大空洞に、盾持ちだけが浮遊していた。
その近くには「神の欠片」らしき、二つの暗紫色の光が浮かんでいる。盾持ちに庇われていた魔法使い系の魔族は、対神魔法の餌食になって滅んだようだ。
――Z、ZXDRRBBBBSZZZ。
漆黒に近くなった紫色のオーラが、盾持ち魔族の体表で不安定に脈動する。
盾持ち魔族が痙攣しながら巨大化を始めた。
『魔王化しちゃうの?』
『いや、大丈夫だ』
魔神のユニークスキルがいかに優れていようと、それを使う魔族の持つ魂の器には限界がある。
対神魔法を防ぐほどのユニークスキルを連発していれば、魂の器が壊れても不思議じゃない。
大きくなるほどに盾持ち魔族の痙攣が激しくなり、関節や目鼻の位置から漆黒の靄が溢れ始めた。
予想通り、そろそろ限界らしい。
――ZXDRRBBBBSZZZ。
最後に咆哮を上げた後、盾持ち魔族は暗紫色の光を帯びた漆黒の靄になって弾けて消えた。
倒した証拠に、靄の中から暗紫色の光が三つ現れる。
◇
『――う、嘘! まずい! ご主人様、後ろ!』
――SXLAAAAAAAAASSSSSSSZH。
二刀持ちの魔族がアリサの作った「迷路」を斬り裂いて現れた。
かなり無茶をしたようで、二刀持ちの身体に瞬く紫色の光が漆黒に近い感じにまで淀んでいる。
「フェンリル!」
ミーアの劣化版対神魔法が作り出したレッサー・フェンリルが後ろから追いすがるが、二刀持ち魔族は斬撃を飛ばして、それを迎撃してみせた。
「超隔絶壁」
オレが作り出した上級空間魔法の障壁を一枚斬り裂いて、二刀持ち魔族が迫る。
「――神舞装甲」
オレの前に現れた紫色の障壁が、ユニークスキルの力を帯びた二刀持ち魔族の大太刀を受け止めてみせた。
なかなかいいね。
「神話崩壊」
二刀持ち魔族に広範囲呪文を叩き付ける。
いかに優秀な回避盾だろうと、避けられなければタダの紙装甲だ。
周りの被害を気にしなくて良い状況なら、簡単に倒せる。
レッサー・フェンリルを巻き込んでしまったので、後でミーアに謝っておかないとね。
なお、神話崩壊の余波は、あらかじめ使っておいた残りの超隔絶壁の障壁が防いでくれた。
『ご主人様、マダよ!』
――ZXDBBBBZZZH。
二刀持ちが再生したらしい。
たぶん、魔王化したんだろう。
「竜槍貫牙」
必殺技を発動したリザが凄まじい速度で飛翔し、二刀持ち魔族へと迫る。
――ZXDBBBBZZZH。
二刀持ちの持つ大太刀の上に暗紫色の光が流れる。
ヤツは回避ではなく、迎撃を選んだらしい。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
――ZXDBBBBBBBBBBBBH。
二刀持ち魔族の大太刀とリザの竜槍が真っ正面からぶつかり合った。
全てを斬り裂く「絶対切断」の大太刀と「全てを貫く」竜の牙を宿した竜槍が、互いの概念を拮抗させた。
だが、魔族は二刀目を振り上げ、リザの首を狙って振り下ろす。
「リザ、逃げて!」
ゼナさんの叫びが戦場に届く。
――心配無用ですよ、ゼナさん。
なぜならば――。
「竜刃喰牙」
「竜翼牙突貫」
既に二人の頼もしい援軍が、戦場に辿り着いていたのだから。
タマは二つの竜牙剣でリザの首を狙った大太刀を受け止め、ポチは竜牙剣でリザの竜槍を受け止める大太刀の側面を貫いた。
砕かれ散る紫色の薄片の向こうで、自由を取り戻したリザの槍がオレンジ色の光を帯びる。
「――竜槍滅魔」
二刀魔族の身体を暗紫色の光が流れようとしたが、もう遅い。
この距離でリザの槍より速く、ユニークスキルを発動できるはずもない。
オレンジと白の光が魔族の漆黒に近い暗紫色の肌を貫き、魔を滅する竜の息吹を内側から炸裂させた。
肉片となって散る魔族の身体が、黒い靄となって消えていく。
「お疲れ、リザ。ポチとタマもよくやったね」
残心し、空中で構えを解かないリザに、戦いは終わったと告げる。
靄の中から現れた四つの「神の欠片」が、その証拠だ。
『キョーッキョッキョッキョ』
『ヤラレタゼ、ズタボロダゼ』
『ヤッパダメ、マゾクハ、モロイ』
『サイセイ、イッカイトカ、モロスギ』
オレは竜牙剣の代わりに抜いた神剣で、「神の欠片」を滅する。
先に出た六つの「神の欠片」はリザ達が奮闘してくれている間に消去済みだ。
「さて、残りは門の封印だね」
※次回更新は10/27(日)の予定です。







